【完結】生贄にされた私が竜王陛下に溺愛されて、陥れた妹たちにざまぁしたら、幸せすぎて困ってます

深山きらら

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第二章 理解への扉

語られる真実

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 夕食後、図書室で竜王と二人きりになった時。

「なぜ、生贄の儀式を続けるのですか」

 アリアーナは思いきって尋ねてみた。

 人型の竜王は、暖炉の火をじっと見つめていた。アリアーナの方を見ようともしない。

 答えてはもらえないのか。
 アリアーナがそう思い始めると、

「契約だ」

 ぽつり、と答えが返ってきた。

「どんな契約ですか」
「――千年前、人間と竜の間で大きな戦争があった」

 竜王は、ゆっくりと語り始めた。
 千年という期間は、永遠に生きる竜にとっても長いものなのか。竜王は遠くを見るまなざしをしていた。

「人間は数で勝り、竜は力で勝る。戦いは長く続き、両者に多大な犠牲が出た。そして最後に、和平が結ばれた」
「和平、ですか」
「人間は、竜の領域を侵さない。竜は、人間の街を襲わない。そして、十年に一度、人間は竜王に生贄を捧げる」
「なぜ、そんな条件が?」
「それは……」

 竜王は、アリアーナに視線を向けた。

「人間と竜が、互いを忘れないためだ」
「忘れない、ため……?」
「そうだ。生贄の儀式により、人間は竜の存在を思い出す。そして竜は、人間の存在を意識する。もし互いを忘れれば、再び戦争が起こるだろう。契約は、平和を維持するための絆なのだ」

 アリアーナは、その言葉を噛みしめた。
 生贄は、恐怖の象徴ではない。平和の証なのだ。
 しかし、それにしても――。

「でも……生贄にされる側は、恐ろしいと思います」
「わかっている」

 竜王の声は、苦しげだった。

「毎回、泣き叫ぶ娘を見るのは辛い。だが、契約を破れば、再び戦争になる。何千、何万の命が失われる」
「それで……私たちを殺さずに、ここで保護しているのですね」
「ああ。せめてもの償いだ。いったん差し出された生贄は元の世界へは戻さない、というのが契約なのでな」

 竜王は立ち上がり、窓へと向かった。

「お前たちを犠牲にして、平和を保っている。私は……卑怯な存在だ」

 アリアーナは、竜王の背中を見つめた。
 がっちりしたその背中が、なぜか寂しそうに見えた。
 千年の時を生き、無数の生贄を見届けてきた。そして、誰にも理解されることなく、契約を守り続けている。

「私は……」
 アリアーナは、懸命に言葉を探した。思いを伝えるために。
「あなたを、卑怯だとは思いません」

 竜王が振り返った。

「あなたは、誰よりも責任を背負っている。平和のために、孤独に耐えている。それは……勇気だと思います」

 竜王の目が、驚きに見開かれた。

「お前は……本当に」

 その言葉は、途中で途切れた。
 代わりに、竜王はゆっくりとアリアーナに近づいてきた。彼の手が、アリアーナの頬にそっと触れた。

「お前ならきっと、理解してくれると思った。いや、違うな。おまえに理解されたかった。なんだろう、この感覚は。まるで、本に描かれている人間のようではないか」

 その手は、温かかった。

 アリアーナの心臓が、激しく打ち始めた。
 これは、何だろう。
 この温かさは。
 この胸の高鳴りは。

「アリアーナ」

 竜王の声が、優しく彼女の名を呼んだ。

「お前と話していると…気持ちが、和らぐ」

 涙が出そうになった。

 アリアーナはとつぜん理解した。
 自分は、この竜王に惹かれている。
 恐ろしい怪物だと思っていた存在に。千年を生きる孤独な王に。
 どうしようもなく、惹かれている。
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