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婚約破棄の理由は「お前が暑苦しいから」
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「はぁ……はぁ……熱い……」
王城の大広間。きらびやかなシャンデリアの下、私は一人、ドレスの中で必死に呼吸を整えていた。
視界がぐにゃりと歪む。
全身の血液が沸騰しているようだ。額から流れる汗を拭うこともできず、ただ扇子を握りしめて耐えるしかない。
私ことジゼルは、『聖女』である。
この国を覆う結界を維持するため、毎日祈るのが仕事だ。
けれども私は無能聖女なので――自分の魔力をうまく制御できない。
あふれ出る魔力は常に私の体温を異常なほど上昇させ、真冬でも薄着でなければ気絶しそうなほどの「高熱」を発し続けているのだ。
「ジゼル!」
鋭い声が響き、音楽が止まる。
壇上に現れたのは、私の婚約者である第一王子ルーク様だった。その腕には、小柄で可愛らしい男爵令嬢、マリアンナ様がしがみついている。
「ルーク様……?」
「近寄るな!」
私が一歩踏み出すと、ルーク様は露骨に顔をしかめ、ハンカチで口元を覆った。まるで汚物を見るような目だ。
「ジゼル、貴様との婚約をこの場で破棄する! そして我が国からの追放を命じる!」
会場がどよめく。私は熱に浮く頭で、呆然と問い返した。
「な……なぜ、ですか? 私は聖女として、毎日結界のために祈りを捧げて……」
「それが不快だと言っているんだ!!」
ルーク様が叫んだ。その言葉は、私のコンプレックスを容赦なく抉り出した。
「貴様のそばにいると、まるで暖炉の中に頭を突っ込んでいるようだ! 常に熱気を撒き散らし、肌は煮えたぎったように熱く、じっとりとして……はっきり言って気持ち悪いんだよ!」
「っ……」
「先月の夜会でもそうだ。エスコートのために貴様の手を取った時、火傷するかと思ったぞ。それに比べて見ろ、マリアンナのこの冷たくてすべすべした肌を!」
ルーク様はマリアンナ様の二の腕を撫で回し、彼女は「んふっ、ルーク様ったら」と甘い声を上げる。
「王妃となる者に必要なのは、清涼感と癒やしだ。貴様のような『歩くサウナ』など、夏の暑い日には公害でしかない! 汗臭い聖女など、王家の恥さらしだ!」
「も、申し訳ありません……!」
汗臭いはずはない。私の体はいつもほてっているが、汗は出ていない。
けれども私には、謝る癖がついていた。幼い頃から、何をしても、あるいは何もしなくても、私はいつも謝っていたから。
私の謝罪は、ルーク様をさらにいきり立たせただけだった。
「うるさい! 生理的に無理だと言っている! その異常な体温は呪われている証拠だ。そんな化物を城に置いておけるか!」
「も、申し訳……」
謝罪の言葉が、喉に詰まる。
「出ていけ! 二度と私の視界に入り、私に汗を飛ばすな! 北の極寒の地へでも行って、その頭を冷やしてこい!」
あざけるような笑い声が、会場に広がる。
もう、限界だった。
心も、体も。
「……わかりました」
私は震える声で告げた。
悲しみよりも、今はただ、この灼熱の苦しみから解放されたかった。
「申し訳ありません。すぐに出て行きます。……今まで、お世話になりました」
私は深く一礼すると、背を向けた。
借り物のドレスの裾を翻し、逃げるように大広間を飛び出す。
廊下に出ても、熱い。
外の庭園に出ても、まだ熱い。
冬の夜風ですら、今の私には生ぬるいお湯のようだ。
「はぁ、はぁ……誰か……冷たい、もの……」
意識が朦朧とする中で、私はふらふらと夜の闇へ足を踏み入れた。
王城の大広間。きらびやかなシャンデリアの下、私は一人、ドレスの中で必死に呼吸を整えていた。
視界がぐにゃりと歪む。
全身の血液が沸騰しているようだ。額から流れる汗を拭うこともできず、ただ扇子を握りしめて耐えるしかない。
私ことジゼルは、『聖女』である。
この国を覆う結界を維持するため、毎日祈るのが仕事だ。
けれども私は無能聖女なので――自分の魔力をうまく制御できない。
あふれ出る魔力は常に私の体温を異常なほど上昇させ、真冬でも薄着でなければ気絶しそうなほどの「高熱」を発し続けているのだ。
「ジゼル!」
鋭い声が響き、音楽が止まる。
壇上に現れたのは、私の婚約者である第一王子ルーク様だった。その腕には、小柄で可愛らしい男爵令嬢、マリアンナ様がしがみついている。
「ルーク様……?」
「近寄るな!」
私が一歩踏み出すと、ルーク様は露骨に顔をしかめ、ハンカチで口元を覆った。まるで汚物を見るような目だ。
「ジゼル、貴様との婚約をこの場で破棄する! そして我が国からの追放を命じる!」
会場がどよめく。私は熱に浮く頭で、呆然と問い返した。
「な……なぜ、ですか? 私は聖女として、毎日結界のために祈りを捧げて……」
「それが不快だと言っているんだ!!」
ルーク様が叫んだ。その言葉は、私のコンプレックスを容赦なく抉り出した。
「貴様のそばにいると、まるで暖炉の中に頭を突っ込んでいるようだ! 常に熱気を撒き散らし、肌は煮えたぎったように熱く、じっとりとして……はっきり言って気持ち悪いんだよ!」
「っ……」
「先月の夜会でもそうだ。エスコートのために貴様の手を取った時、火傷するかと思ったぞ。それに比べて見ろ、マリアンナのこの冷たくてすべすべした肌を!」
ルーク様はマリアンナ様の二の腕を撫で回し、彼女は「んふっ、ルーク様ったら」と甘い声を上げる。
「王妃となる者に必要なのは、清涼感と癒やしだ。貴様のような『歩くサウナ』など、夏の暑い日には公害でしかない! 汗臭い聖女など、王家の恥さらしだ!」
「も、申し訳ありません……!」
汗臭いはずはない。私の体はいつもほてっているが、汗は出ていない。
けれども私には、謝る癖がついていた。幼い頃から、何をしても、あるいは何もしなくても、私はいつも謝っていたから。
私の謝罪は、ルーク様をさらにいきり立たせただけだった。
「うるさい! 生理的に無理だと言っている! その異常な体温は呪われている証拠だ。そんな化物を城に置いておけるか!」
「も、申し訳……」
謝罪の言葉が、喉に詰まる。
「出ていけ! 二度と私の視界に入り、私に汗を飛ばすな! 北の極寒の地へでも行って、その頭を冷やしてこい!」
あざけるような笑い声が、会場に広がる。
もう、限界だった。
心も、体も。
「……わかりました」
私は震える声で告げた。
悲しみよりも、今はただ、この灼熱の苦しみから解放されたかった。
「申し訳ありません。すぐに出て行きます。……今まで、お世話になりました」
私は深く一礼すると、背を向けた。
借り物のドレスの裾を翻し、逃げるように大広間を飛び出す。
廊下に出ても、熱い。
外の庭園に出ても、まだ熱い。
冬の夜風ですら、今の私には生ぬるいお湯のようだ。
「はぁ、はぁ……誰か……冷たい、もの……」
意識が朦朧とする中で、私はふらふらと夜の闇へ足を踏み入れた。
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