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北の森の出会い
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私には、後ろ盾となる実家はない。もともと孤児なのだ。
魔力が異様に高いという理由だけで、神殿に拾い上げられ、国王陛下に命じられて聖女になった。
だから、くびになってからは、話は早かった。
私はさっそく馬車に乗せられ、北の果てまで連れていかれた。
長い旅だった。街道を走っていくうちに気候は徐々に変わり――。
北の森に着いたときには、雪が降り始めていた。
「二度とこの国に戻ってくるな」
無情な言葉と共に、私を下ろした馬車は走り去っていったが。
私には、全身を包む冷気が、救いのように感じられた。
(――気持ちいいっ!)
ほてった体を、雪まじりの風がさわやかに冷やしてくれる。
ようやく呼吸が楽にできるようになった。
私はふらふらと、森の中に足を踏み入れた。
行くあてなどない。先に何が待ち受けているのかもわからない。
何も考えず、ただ足を前へ動かす。
夜の森は危険だが、もう、何もかもどうでもよかった。
ずっと、無能だと蔑まれてきた。魔力を制御できない、できそこないの聖女だと。
神殿でも、特に年配の巫女たちに、つらく当たられてきた。「殿下に告げ口なんかするんじゃないよ」と口止めされながら。食事を抜かれたり、叩かれたりするのは日常茶飯事だった。
それでも、国を守る結界を維持するため、毎日祈りを捧げていた。
私のようなできそこないでも、少しでも、何かの役に立てるんじゃないかと思って。
それも、すべて、終わってしまった――!
何時間歩き続けただろう。
冷たい風は、最初は気持ち良かったが――。
今や、私の体はすっかり冷えきっていた。冷え過ぎだった。
心が折れて、魔力もうまく働いていないのかもしれない。
(ああ……もう、歩けない)
ガク、と膝が折れた。
雪の中に倒れ込む。冷たいはずの雪が、今は少し温かく感じられた。それは凍死の兆候だと本で読んだことがある。
(これでいいのかもしれない。私のような役立たずは、誰の迷惑にもならない場所で、ひっそりと消えるのがお似合いだわ……)
重くなるまぶたを閉じる。
意識が闇に溶けようとした、その時だった。
ザッ、ザッ、ザッ。
雪を踏みしめる音が近づいてくる。
獣だろうか。それとも、幻聴か。
音は私のすぐそばで止まった。
「……こんな場所に行き倒れとはな」
頭上から降ってきたのは、地の底から響くような、低く、美しい声だった。
私は最後の力を振り絞って、うっすらと目を開けた。
月明かりを背負って立っていたのは、一人の男性だった。
夜の闇よりも深い、漆黒の外套。それとは対照的な、輝かしい銀髪。
そして何より目を奪われたのは、私を見下ろす瞳だ。
氷河を切り取ったかのような、冷徹で鮮やかなアイスブルー。
(きれい……)
死神がお迎えに来たのなら、随分と美しい姿をしているのだなと、ぼんやり思った。
男がゆっくりとかがみ込み、黒い革手袋を外した。
白く大きな手が、私の頬へ伸びてくる。
「もう、死んでいるのか」
その手が私の肌に触れた瞬間――。
ドクン。
心臓が大きく跳ねた。
魔力が異様に高いという理由だけで、神殿に拾い上げられ、国王陛下に命じられて聖女になった。
だから、くびになってからは、話は早かった。
私はさっそく馬車に乗せられ、北の果てまで連れていかれた。
長い旅だった。街道を走っていくうちに気候は徐々に変わり――。
北の森に着いたときには、雪が降り始めていた。
「二度とこの国に戻ってくるな」
無情な言葉と共に、私を下ろした馬車は走り去っていったが。
私には、全身を包む冷気が、救いのように感じられた。
(――気持ちいいっ!)
ほてった体を、雪まじりの風がさわやかに冷やしてくれる。
ようやく呼吸が楽にできるようになった。
私はふらふらと、森の中に足を踏み入れた。
行くあてなどない。先に何が待ち受けているのかもわからない。
何も考えず、ただ足を前へ動かす。
夜の森は危険だが、もう、何もかもどうでもよかった。
ずっと、無能だと蔑まれてきた。魔力を制御できない、できそこないの聖女だと。
神殿でも、特に年配の巫女たちに、つらく当たられてきた。「殿下に告げ口なんかするんじゃないよ」と口止めされながら。食事を抜かれたり、叩かれたりするのは日常茶飯事だった。
それでも、国を守る結界を維持するため、毎日祈りを捧げていた。
私のようなできそこないでも、少しでも、何かの役に立てるんじゃないかと思って。
それも、すべて、終わってしまった――!
何時間歩き続けただろう。
冷たい風は、最初は気持ち良かったが――。
今や、私の体はすっかり冷えきっていた。冷え過ぎだった。
心が折れて、魔力もうまく働いていないのかもしれない。
(ああ……もう、歩けない)
ガク、と膝が折れた。
雪の中に倒れ込む。冷たいはずの雪が、今は少し温かく感じられた。それは凍死の兆候だと本で読んだことがある。
(これでいいのかもしれない。私のような役立たずは、誰の迷惑にもならない場所で、ひっそりと消えるのがお似合いだわ……)
重くなるまぶたを閉じる。
意識が闇に溶けようとした、その時だった。
ザッ、ザッ、ザッ。
雪を踏みしめる音が近づいてくる。
獣だろうか。それとも、幻聴か。
音は私のすぐそばで止まった。
「……こんな場所に行き倒れとはな」
頭上から降ってきたのは、地の底から響くような、低く、美しい声だった。
私は最後の力を振り絞って、うっすらと目を開けた。
月明かりを背負って立っていたのは、一人の男性だった。
夜の闇よりも深い、漆黒の外套。それとは対照的な、輝かしい銀髪。
そして何より目を奪われたのは、私を見下ろす瞳だ。
氷河を切り取ったかのような、冷徹で鮮やかなアイスブルー。
(きれい……)
死神がお迎えに来たのなら、随分と美しい姿をしているのだなと、ぼんやり思った。
男がゆっくりとかがみ込み、黒い革手袋を外した。
白く大きな手が、私の頬へ伸びてくる。
「もう、死んでいるのか」
その手が私の肌に触れた瞬間――。
ドクン。
心臓が大きく跳ねた。
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