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契約成立
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公爵様がベッドに近づいてきて、いきなり私の肩をつかむ。
ビクリと身をすくませる私に、彼は真剣な眼差しで言った。
「……やはり、凍らないな」
「は、はい……?」
「俺は生まれつき魔力が過剰でな。常に冷気を放ち、他者に触れれば凍傷を負わせてしまう。だが、お前だけは例外らしい」
彼は私の顔をのぞき込む。至近距離にあるアイスブルーの瞳に、私の間抜けな顔が映っている。
公爵様は私の顎をくい、と持ち上げた。
強引なのに、指先の力加減はあくまで優しい。
「単刀直入に言おう。俺と結婚しろ」
「……へ?」
あまりにとっぴな言葉に、間の抜けた声が出た。
公爵様は眉一つ動かさず、淡々と続ける。
「もちろん、白い結婚だ。俺が求めているのは愛ではない。お前のその体質だ」
「私の、体質……ですか」
「そうだ。お前には俺の過剰な魔力を中和し、吸収する力があるようだ。俺のそばにいれば、魔力の暴走を抑えられる」
彼は一度言葉を切り、私から手を離すと、値踏みするように全身を眺めた。
「衣食住は最高水準のものを保証する。外部からの干渉はすべて俺が排除しよう。その代わり、お前は俺の『抑制剤』として、常に俺のそばにいろ」
抑制剤。
その言葉が、私の腑に落ちた。
ああ、そうか。やっぱり私には、人間としての価値はないのだ。
聖女としての力がなくなり、捨てられた私。
けれど、この恐ろしい公爵様の「道具」としてなら、まだ使い道があるということだ。
温かい食事と、屋根のある場所。そして誰にも虐げられない生活。
それと引き換えに、私の身を差し出す。
私のような無能な女にとって、これ以上の条件はないだろう。
「……つつしんで、お受けいたします」
私はベッドの上で深く頭を下げた。
どうせ死ぬはずだった命だ。公爵様の役に立って散るなら本望だろう。
「聞き分けが良くて助かる」
公爵様は、満足げに口元を歪めた。笑った、というよりは、獰猛な獣が獲物を確保して安堵したような表情だった。
「では、契約成立だ。……では名前を聞いておこうか」
「ジゼルと申します、元聖女の」
「ジゼルか。私のことはクラウスと呼べ。さっそくだが……」
公爵様の口調が変わる。
私は背筋を伸ばした。
何を命令されるのだろうか。危険な実験だろうか、それとも過酷な労働だろうか。
身構える私の隣に、公爵様がどかりと腰を下ろした。
ベッドが大きく沈む。
そして彼は、長い腕を伸ばすと、私を軽々と抱き寄せたのだ。
私の顔が、彼の硬い胸板に押し付けられる。
「こ、公爵様!?」
「クラウスと呼べ、と言っただろう。……じっとしていろ。魔力の供給を行う」
供給、と言われても、ただ抱きしめられているだけだ。
彼の体は大きくて、筋肉質で、私はすっぽりとその腕の中に収まってしまっている。
心臓の音がうるさい。これは私の音? それとも彼の?
「……ああ、楽になる……」
頭上から、陶酔したような甘い吐息が降ってきた。
さっきまでの冷徹な声とは違う、とろけるような響き。
恐る恐る見上げると、クラウス様は目を閉じ、私の肩に顔を埋めていた。
その表情は、見たこともないほど穏やかで、どこか無防備で。
「いい匂いだ……もっと、近くに……」
ぎゅう、と抱きしめる力が強まる。
痛くはない。けれど、逃げられない。
これは契約。これは治療。魔力の中和作業。
そう自分に言い聞かせるけれど、男性にこんなに強く抱きしめられたことのない私の顔は、きっとゆで上がった蛸のように真っ赤だ。
(これから毎日、これが続くの……?)
氷の魔公爵様との、甘く危険な契約生活が、こうして幕を開けたのだった。
ビクリと身をすくませる私に、彼は真剣な眼差しで言った。
「……やはり、凍らないな」
「は、はい……?」
「俺は生まれつき魔力が過剰でな。常に冷気を放ち、他者に触れれば凍傷を負わせてしまう。だが、お前だけは例外らしい」
彼は私の顔をのぞき込む。至近距離にあるアイスブルーの瞳に、私の間抜けな顔が映っている。
公爵様は私の顎をくい、と持ち上げた。
強引なのに、指先の力加減はあくまで優しい。
「単刀直入に言おう。俺と結婚しろ」
「……へ?」
あまりにとっぴな言葉に、間の抜けた声が出た。
公爵様は眉一つ動かさず、淡々と続ける。
「もちろん、白い結婚だ。俺が求めているのは愛ではない。お前のその体質だ」
「私の、体質……ですか」
「そうだ。お前には俺の過剰な魔力を中和し、吸収する力があるようだ。俺のそばにいれば、魔力の暴走を抑えられる」
彼は一度言葉を切り、私から手を離すと、値踏みするように全身を眺めた。
「衣食住は最高水準のものを保証する。外部からの干渉はすべて俺が排除しよう。その代わり、お前は俺の『抑制剤』として、常に俺のそばにいろ」
抑制剤。
その言葉が、私の腑に落ちた。
ああ、そうか。やっぱり私には、人間としての価値はないのだ。
聖女としての力がなくなり、捨てられた私。
けれど、この恐ろしい公爵様の「道具」としてなら、まだ使い道があるということだ。
温かい食事と、屋根のある場所。そして誰にも虐げられない生活。
それと引き換えに、私の身を差し出す。
私のような無能な女にとって、これ以上の条件はないだろう。
「……つつしんで、お受けいたします」
私はベッドの上で深く頭を下げた。
どうせ死ぬはずだった命だ。公爵様の役に立って散るなら本望だろう。
「聞き分けが良くて助かる」
公爵様は、満足げに口元を歪めた。笑った、というよりは、獰猛な獣が獲物を確保して安堵したような表情だった。
「では、契約成立だ。……では名前を聞いておこうか」
「ジゼルと申します、元聖女の」
「ジゼルか。私のことはクラウスと呼べ。さっそくだが……」
公爵様の口調が変わる。
私は背筋を伸ばした。
何を命令されるのだろうか。危険な実験だろうか、それとも過酷な労働だろうか。
身構える私の隣に、公爵様がどかりと腰を下ろした。
ベッドが大きく沈む。
そして彼は、長い腕を伸ばすと、私を軽々と抱き寄せたのだ。
私の顔が、彼の硬い胸板に押し付けられる。
「こ、公爵様!?」
「クラウスと呼べ、と言っただろう。……じっとしていろ。魔力の供給を行う」
供給、と言われても、ただ抱きしめられているだけだ。
彼の体は大きくて、筋肉質で、私はすっぽりとその腕の中に収まってしまっている。
心臓の音がうるさい。これは私の音? それとも彼の?
「……ああ、楽になる……」
頭上から、陶酔したような甘い吐息が降ってきた。
さっきまでの冷徹な声とは違う、とろけるような響き。
恐る恐る見上げると、クラウス様は目を閉じ、私の肩に顔を埋めていた。
その表情は、見たこともないほど穏やかで、どこか無防備で。
「いい匂いだ……もっと、近くに……」
ぎゅう、と抱きしめる力が強まる。
痛くはない。けれど、逃げられない。
これは契約。これは治療。魔力の中和作業。
そう自分に言い聞かせるけれど、男性にこんなに強く抱きしめられたことのない私の顔は、きっとゆで上がった蛸のように真っ赤だ。
(これから毎日、これが続くの……?)
氷の魔公爵様との、甘く危険な契約生活が、こうして幕を開けたのだった。
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