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エピローグ:氷の大地に咲く春、瓦礫の山に降る雨
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王都が崩壊してから、三年という月日が流れた。
かつて「極寒の不毛の地」と恐れられた北のシルヴィアン公爵領は今、大陸で最も美しい『常春の楽園』としてその名を轟かせていた。
「すごい……今年も豊作ですね」
公爵城のテラスから眼下を見下ろし、私は感嘆の声を上げた。
視界一面に広がるのは、黄金色に輝く小麦畑と、色とりどりの果実をつけた果樹園。
かつては分厚い氷に閉ざされていた大地だが、今では温かな風が吹き抜けている。
その奇跡の源は、私自身の「魔力過多」だった。
私からあふれ出る膨大な魔力を、クラウスが構築した巨大な魔導回路を通して領地全体に行き渡らせることで、地下熱を管理し、作物の成長を促進させる結界を張ったのだ。
厄介者扱いされていた私の力は、この地を富ませる太陽となっていた。
「ジゼル」
背後から、ひんやりとした空気が近づく。
振り返る間もなく、私はクラウス様の腕の中に閉じ込められた。
「シ、クラウス様。まだお昼ですよ?」
「関係ない。……魔力が足りない」
彼は私の首筋に顔を埋め、深呼吸をする。
領地経営の手腕で「北の賢帝」と他国から称賛されている彼だが、私の前では相変わらずの甘えん坊(吸血鬼に近いかもしれない)だ。
「ブランドンから報告があったぞ。……旧王都の『難民』たちが、また国境付近で保護を求めているそうだ」
クラウス様が、甘い時間の合間に淡々と言った。
あの日、王都は魔物の群れに蹂躙され、物理的に壊滅した。
王家は権威を失墜させ、隣国によって分割統治されることとなり、王国という名は地図から消滅した。
生き残った貴族や国民の多くは、豊かなこの北の地へ逃げ延びてきたが、入国審査は厳しい。かつて私を虐げた者たちは、門前払いを食らっている。
「噂によると、元王太子ルークと、その連れの女……マリアンナだったか。彼らはスラムで日銭を稼ぐ暮らしをしているらしい。魔物に怯えながらな」
その言葉を聞いても、私の心はもう痛まなかった。
同情も、憎しみもない。ただ、遠い国の物語を聞いているような感覚だ。
「そうですか……。彼らが自分の行いを反省し、少しでも真っ当に生きてくれることを祈ります」
「ふん、君は相変わらず甘いな。俺なら、氷像にして庭に飾るところだが」
クラウス様は冗談めかして(目が笑っていないけれど)そう言うと、私をさらに強く抱きしめた。
「だが、どうでもいいことだ。俺の世界には、君がいればそれでいい」
「……はい。私も、ここが一番幸せです」
私は彼の方へ向き直り、その冷たく美しい頬に手を添えた。
かつて「魔力過多の化け物」と罵られた私。
「冷酷無比な氷の悪魔」と恐れられた彼。
欠落を抱えた二人が出会い、触れ合うことで、不毛の地に花が咲いた。
「愛しているよ、ジゼル。俺の可愛い妻」
「私も愛しています。クラウス様」
口づけを交わすと、ふわりと温かい風が吹いた。
廃墟となった南の空には冷たい雨が降っているというが、ここ北の楽園には、今日も変わらず優しい陽光が降り注いでいる。
捨てられ聖女と氷の魔公爵。
二人の幸せな契約結婚生活は、これからも永遠に続いていくのだった。【完】
かつて「極寒の不毛の地」と恐れられた北のシルヴィアン公爵領は今、大陸で最も美しい『常春の楽園』としてその名を轟かせていた。
「すごい……今年も豊作ですね」
公爵城のテラスから眼下を見下ろし、私は感嘆の声を上げた。
視界一面に広がるのは、黄金色に輝く小麦畑と、色とりどりの果実をつけた果樹園。
かつては分厚い氷に閉ざされていた大地だが、今では温かな風が吹き抜けている。
その奇跡の源は、私自身の「魔力過多」だった。
私からあふれ出る膨大な魔力を、クラウスが構築した巨大な魔導回路を通して領地全体に行き渡らせることで、地下熱を管理し、作物の成長を促進させる結界を張ったのだ。
厄介者扱いされていた私の力は、この地を富ませる太陽となっていた。
「ジゼル」
背後から、ひんやりとした空気が近づく。
振り返る間もなく、私はクラウス様の腕の中に閉じ込められた。
「シ、クラウス様。まだお昼ですよ?」
「関係ない。……魔力が足りない」
彼は私の首筋に顔を埋め、深呼吸をする。
領地経営の手腕で「北の賢帝」と他国から称賛されている彼だが、私の前では相変わらずの甘えん坊(吸血鬼に近いかもしれない)だ。
「ブランドンから報告があったぞ。……旧王都の『難民』たちが、また国境付近で保護を求めているそうだ」
クラウス様が、甘い時間の合間に淡々と言った。
あの日、王都は魔物の群れに蹂躙され、物理的に壊滅した。
王家は権威を失墜させ、隣国によって分割統治されることとなり、王国という名は地図から消滅した。
生き残った貴族や国民の多くは、豊かなこの北の地へ逃げ延びてきたが、入国審査は厳しい。かつて私を虐げた者たちは、門前払いを食らっている。
「噂によると、元王太子ルークと、その連れの女……マリアンナだったか。彼らはスラムで日銭を稼ぐ暮らしをしているらしい。魔物に怯えながらな」
その言葉を聞いても、私の心はもう痛まなかった。
同情も、憎しみもない。ただ、遠い国の物語を聞いているような感覚だ。
「そうですか……。彼らが自分の行いを反省し、少しでも真っ当に生きてくれることを祈ります」
「ふん、君は相変わらず甘いな。俺なら、氷像にして庭に飾るところだが」
クラウス様は冗談めかして(目が笑っていないけれど)そう言うと、私をさらに強く抱きしめた。
「だが、どうでもいいことだ。俺の世界には、君がいればそれでいい」
「……はい。私も、ここが一番幸せです」
私は彼の方へ向き直り、その冷たく美しい頬に手を添えた。
かつて「魔力過多の化け物」と罵られた私。
「冷酷無比な氷の悪魔」と恐れられた彼。
欠落を抱えた二人が出会い、触れ合うことで、不毛の地に花が咲いた。
「愛しているよ、ジゼル。俺の可愛い妻」
「私も愛しています。クラウス様」
口づけを交わすと、ふわりと温かい風が吹いた。
廃墟となった南の空には冷たい雨が降っているというが、ここ北の楽園には、今日も変わらず優しい陽光が降り注いでいる。
捨てられ聖女と氷の魔公爵。
二人の幸せな契約結婚生活は、これからも永遠に続いていくのだった。【完】
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