【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~

深山きらら

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追放

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 石畳に叩きつけられた革鞄から、薬瓶が転がり出て砕け散った。ガラスの破片がきらきらと陽光を反射するは、まるでアディの砕けた夢そのものだった。

「出て行け! 二度とこのギルドの敷居をまたぐな!」

 薬師ギルド長の怒声が、玄関ホールにこだまする。アディは膝をついたまま、信じられないという思いで目の前の光景を見つめていた。


 つい先ほどまで、ここは――薬師ギルドの付属工房は――彼女の居場所だった。三年間、朝早くから夜遅くまで、薬草の調合を学び、患者たちの笑顔のために懸命に働いてきた場所。それが今、一瞬にして失われようとしている。

「ギルド長、これは誤解です! 私は決して調合を間違えたりしていません!」

 アディは必死に訴えたが、ギルド長は冷たい目を向けるだけだった。

「事実は事実だ。お前が調合した解熱薬で、貴族の令嬢が危篤に陥った。これ以上の弁明は無用だ」

「いつか絶対、こんなことが起こると思っていたわ。アディは何をやらせてもいい加減で、責任感がないから」

 横合いから、楽しそうな女の声が聞こえた。
 先輩薬師のマリアンヌが勝ち誇ったような笑みを浮かべている。

 その悪意に満ちた顔を見て――アディはすべてを悟った。これは罠だったのだと。
 マリアンヌは以前から、ギルド長に気に入られているアディを妬んでいた。そして今、その嫉妬が最悪の形で実を結んだのだ。

「マリアンヌさん……まさか、あなたが……」
「あら、何か言いたいことでも?」マリアンヌは優雅に髪をかき上げた。「証拠もないのに、先輩を疑うなんて、見習いの分際で生意気ね」

 アディは唇を噛んだ。確かに証拠はない。アディが調合した薬を、「私がギルド長のところへ持っていってあげるわ」とマリアンヌが持ち去った。その後ですり替えられたのは間違いないと思うが、証明できない。何を言っても、口の達者なマリアンヌにはかなわないだろう。
 そして貴族相手の失態となれば、ギルドとしても何らかの処分を下さなければならない。見習い一人を切り捨てるなんて、簡単なことだ。

「今すぐここを出て行け。ギルドから永久追放だ。王都からも出て行くがいい。お前のような無能な薬師に、この街で居場所があるなどと思うな」
「――!」

 ギルド長の最後通告に、アディは静かに立ち上がった。涙をこぼすまいと目をしばたく。ここで泣いたら、負けたことになる気がした。
 のろのろと、工房の玄関ホールから、石畳の舗道へ足を踏み出す。
 背後で、扉ががしゃんと派手な音を立てて閉じられた。
 砕けた薬瓶の破片を避けながら、革鞄を拾い上げる。中身はわずかな着替えと、母の形見の薬草図鑑だけだった。


 王都の大通りを歩きながら、アディは行く当てもなく足を進めた。所持金は銀貨三枚。宿に泊まれるのはせいぜい三日といったところだろう。
 夕暮れの空が、血のように赤く染まっていた。
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