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手放さないと決めた
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「目を見せるな! 鏡盾の用意!」
副官が磨き上げられた鏡のような盾を掲げた。コカトリスが再び襲いかかろうとした時、その邪眼が鏡に映った己の姿を捉えた。瞬間、魔獣の動きが硬直する――自らの石化の呪いが己に跳ね返ったのだ。
「今だ! かかれ!」
ルーファスの命令を合図に、騎士たちの槍と剣がコカトリスに殺到した。聖水を塗られた武器が次々と魔獣の身体を貫く。コカトリスは最後の力を振り絞って暴れたが、やがてその巨体は地に崩れ落ちた。緑色の血が土に染み込んでいく。
辺りに静寂が戻った。
アディは地面に倒れたまま、恐怖で動けなかった。
コカトリスの戦いが終わったので、おそるおそる顔を上げると――ルーファスが左腕から血を流しているのが目にとまった。
「領主様! お怪我を!」
アディはあわてて立ち上がり、駆け寄った。ルーファスの左腕には、魔獣の爪による深い裂傷があった。
「大したことはない。さあ、急いで帰るぞ」
「お待ちください。手当を先にさせてください。このままでは傷口から毒が回ります!」
アディは震える手で、持っていた救急用の薬草を取り出した。そして、応急処置を施し始める。
その姿を、ルーファスは静かに見つめていた。
月光の下、必死に自分の傷を治療しようとするアディ。その瞳には、涙が浮かんでいた。
手ぎわよく包帯を巻く小さな手。幼さの残る頬を伝う涙。
ルーファスは、何かが胸の奥で弾けるのを感じた。
――この女性を泣かせたくない。何があっても守りたい。
そう、強く思った。
初めて【魔の森】で出会ったときの、絶望と失意に満ちた瞳。
それを見たときから、きっと、もう心は決まっていたのだ。
彼女を幸せにしてやりたいと。
「アディ」
ルーファスは彼女の頭に、そっと手を置いた。
「泣くな。もう大丈夫だ」
アディは顔を上げた。月光に照らされたルーファスの顔からは、いつもの冷たさが消えていた。その蒼い瞳には、穏やかな光が宿っていた。
「帰ろう。そして、ハンナを救おう」
その言葉に、アディは涙を拭いてうなずいた。
領主館に戻ったアディは、すぐに月光草を調合した。不眠不休で、解毒薬を作り上げる。
その薬をハンナに飲ませると、驚くべきことに、数時間で症状が劇的に改善した。紫色の斑点は消え、熱も下がり、意識も回復した。
「アディ様……ありがとうございます……」
ハンナは涙を流しながら、アディの手を握った。
「よかった……本当によかった……」
アディもまた、涙を流していた。
ルーファスは病室の隅に立ち、その様子をみつめていた。
傍らに立つグレゴリーが、感じ入ったように囁いた。
「領主様、アディ様は本当に特別な方ですね」
「……ああ」
ルーファスは短く答えた。
だが、その目には確かな想いが宿っていた。
この女性を絶対に手放さない、と。
副官が磨き上げられた鏡のような盾を掲げた。コカトリスが再び襲いかかろうとした時、その邪眼が鏡に映った己の姿を捉えた。瞬間、魔獣の動きが硬直する――自らの石化の呪いが己に跳ね返ったのだ。
「今だ! かかれ!」
ルーファスの命令を合図に、騎士たちの槍と剣がコカトリスに殺到した。聖水を塗られた武器が次々と魔獣の身体を貫く。コカトリスは最後の力を振り絞って暴れたが、やがてその巨体は地に崩れ落ちた。緑色の血が土に染み込んでいく。
辺りに静寂が戻った。
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コカトリスの戦いが終わったので、おそるおそる顔を上げると――ルーファスが左腕から血を流しているのが目にとまった。
「領主様! お怪我を!」
アディはあわてて立ち上がり、駆け寄った。ルーファスの左腕には、魔獣の爪による深い裂傷があった。
「大したことはない。さあ、急いで帰るぞ」
「お待ちください。手当を先にさせてください。このままでは傷口から毒が回ります!」
アディは震える手で、持っていた救急用の薬草を取り出した。そして、応急処置を施し始める。
その姿を、ルーファスは静かに見つめていた。
月光の下、必死に自分の傷を治療しようとするアディ。その瞳には、涙が浮かんでいた。
手ぎわよく包帯を巻く小さな手。幼さの残る頬を伝う涙。
ルーファスは、何かが胸の奥で弾けるのを感じた。
――この女性を泣かせたくない。何があっても守りたい。
そう、強く思った。
初めて【魔の森】で出会ったときの、絶望と失意に満ちた瞳。
それを見たときから、きっと、もう心は決まっていたのだ。
彼女を幸せにしてやりたいと。
「アディ」
ルーファスは彼女の頭に、そっと手を置いた。
「泣くな。もう大丈夫だ」
アディは顔を上げた。月光に照らされたルーファスの顔からは、いつもの冷たさが消えていた。その蒼い瞳には、穏やかな光が宿っていた。
「帰ろう。そして、ハンナを救おう」
その言葉に、アディは涙を拭いてうなずいた。
領主館に戻ったアディは、すぐに月光草を調合した。不眠不休で、解毒薬を作り上げる。
その薬をハンナに飲ませると、驚くべきことに、数時間で症状が劇的に改善した。紫色の斑点は消え、熱も下がり、意識も回復した。
「アディ様……ありがとうございます……」
ハンナは涙を流しながら、アディの手を握った。
「よかった……本当によかった……」
アディもまた、涙を流していた。
ルーファスは病室の隅に立ち、その様子をみつめていた。
傍らに立つグレゴリーが、感じ入ったように囁いた。
「領主様、アディ様は本当に特別な方ですね」
「……ああ」
ルーファスは短く答えた。
だが、その目には確かな想いが宿っていた。
この女性を絶対に手放さない、と。
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