辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~

深山きらら

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危険な使命

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 その夜は、幸運にも月が明るかった。月光草がよく咲きそうな夜である。

 ルーファスは精鋭の騎士を数名連れて、アディと共に【魔の森】へ向かった。
 男たちは森の地形を知り尽くしているらしい。足元が悪い中、松明の灯りだけを頼りに、迷わず早足で進んでいく。
 ずっと上り坂が続いているから、山を登っているのだろう。

 アディは何度も足を滑らせそうになったが、その度にルーファスが手を差し伸べて支えてくれた。

「大丈夫か」
「はい……申し訳ありません、ご迷惑をおかけして」
「お前は薬草を採取できる。それだけで十分だ」

 ルーファスの言葉はそっけなかったが、その手は確かに優しかった。

 どれぐらい歩いただろう。突然、目の前の景色が開けた。
 彼らは森を抜け、崖の上に立っていた。月光が辺りを青白く照らしている。

 岩場に、巨大な鳥の巣がいくつも作られていた。どの巣の中にも、禍々しい模様の卵が並べられている。

「ありました! 月光草です!」
 アディは叫んだ。

 いくつかの巣に、淡い青白い光を放つ花が咲いている。普通の人なら気づかないような、ごく小さな光だ。
 けれどもアディは、幼い頃から、どんな小さな植物でも見つけそこなうことがなかった。

 アディは駆け寄ろうとした。しかし、ルーファスが彼女の腕をつかんで止めた。

「待て。周囲を警戒しろ」

 騎士たちが剣を抜いて周囲に散る。
 コカトリスの姿はない。どうやら餌を探しに行っているようだ。

 アディは巣に近づき、専用の道具で、丁寧に月光草を摘み取った。
 不思議なことに、花は摘まれても光を失わなかった。

「採れました! これで、ハンナさんを……」

 その瞬間、頭上から殺気を感じた。

 アディはその方向を見上げる暇もなかった。

 ルーファスが彼女に覆いかぶさってくる。たくましい胸に抱きしめられ、地面を転がる。
 二人は、上空から飛来した魔獣の攻撃をぎりぎりでかわした。

 鋭い叫び声が夜を引き裂いた。灰色の鱗に覆われた巨大な翼を広げ、鶏の頭と蛇の尾を持つ魔獣――コカトリスが、旋回して、再び彼らに襲いかかろうとしていた。

「盾を上げろ! 目を見るな!」

 ルーファスの叫びが響く。騎士たちは即座に盾を掲げた。コカトリスの目を見ると石化の呪いにかかるのだ。

 ルーファスはアディから離れ、立ち上がった。盾で視界を遮りながら、剣を構えた。魔獣の爪が盾に激突し、金属の悲鳴が上がる。だが、その瞬間こそがルーファスの待っていた機会だった。

「喰らえ!」

 盾の下から剣を突き上げる。聖なる輝きを放つ刃がコカトリスの胸部に食い込んだ。魔獣は苦痛の叫びをあげて後退するが、まだ戦意を失っていない。蛇のような尾が鞭のようにしなり、ルーファスの脚を払おうとする。

 ルーファスは飛びのいてそれをかわした。周囲の騎士たちも態勢を立て直し、槍を構えてコカトリスを包囲する。
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