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重病人
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そんなアディの様子を、遠くから見つめる人物がいた。
ルーファスだった。
彼は執務の合間に、書斎の窓からアディの様子を眺めていた。その窓からは医療棟の様子がよく見えるのだ。
診療所の玄関先で、笑顔で領民と立ち話をしているアディ。足の悪い人が馬車に乗り込むのを手助けしているアディ。医療棟の傍らの土を起こし、薬草を育てるための畑を作っているアディ。
その姿を見るたびに、ルーファスの胸に、温かいものがじわりと広がっていく。
五年前、婚約者を失ってから、彼の心は凍りついていた。もう誰も愛さない。もう誰も失いたくない。そう決めて、感情を殺して生きてきた。
だが、このか弱い薬師見習いは、なぜかその氷を溶かそうとしている。
「領主様」
執事のグレゴリーの声に、ルーファスは我に返った。
「何だ」
「アディ様の評判が、領内で非常に高いようです。すでに多くの領民が、彼女の診療を受けたいと列をなしております」
「そうか」
ルーファスは短く答えたが、内心では満足していた。アディをここに留めた判断は、正しかったのだ。
「それと……」グレゴリーは少し言いにくそうに続けた。「領主様が、頻繁にアディ様の様子を窓から眺めておられることが、館の使用人の間で噂になっております」
「……余計なことを言うな」
ルーファスは顔をそむけた。だが、その耳がかすかに赤くなっているのを、グレゴリーは見逃さなかった。
それは、風の強い夜のことだった。
領主館の侍女頭、ハンナが突然倒れた。高熱と激しい咳。そして、全身に広がる紫色の斑点。
さっそくアディが呼ばれた。
「これは……!」
アディには、おぼろげだが記憶があった。
薬師だった母のもとに、似たような症状の患者が運び込まれてきたことがある。あのとき母は何と言っていたか……。
記憶を頼りに、薬草図鑑のページを繰った。母の形見であるその図鑑には、稀少な薬草の情報も記されている。
「この症状は、毒だと思います。月光草があれば中和できるはずです」
アディは、「月光草」の絵が描かれたページをルーファスたちに示した。
「その薬草はどこにある?」
ルーファスが即座に尋ねた。
「とても……手に入れるのが難しいんです。月の出ている夜、コカトリスの巣の中にしか咲かない花ですので。採取の仕方にもコツがあって……」
「コカトリスだな。【魔の森】の中に巣があるだろう」
ルーファスはマントを翻し、さっそく扉へ向かって歩き始めた。【魔の森】へ向かうつもりだ。
「お待ちください! 私もご一緒します」
アディはその背中に向かって叫んだ。ルーファスは驚いたように振り返った。
「また、あの森へ行きたいのか? 懲りたのではなかったのか」
「……でも、私がいなければ、月光草を見分けられないんじゃないかと思います。それに、正しい手順で採取しないと、薬効が失われてしまいます。どうか、私を連れていってください」
ルーファスは少しの間、ためらった。
「おまえを危険にさらしたくはない……」
ぽろりとこぼれたその言葉は、本音だった。
「でも、ハンナさんを助けなければ!」
アディは食い下がった。
アディは、ルーファスの表情の揺らぎに気づいていなかった。
ルーファスは彼女を連れていくことに同意せざるを得なかった。
ルーファスだった。
彼は執務の合間に、書斎の窓からアディの様子を眺めていた。その窓からは医療棟の様子がよく見えるのだ。
診療所の玄関先で、笑顔で領民と立ち話をしているアディ。足の悪い人が馬車に乗り込むのを手助けしているアディ。医療棟の傍らの土を起こし、薬草を育てるための畑を作っているアディ。
その姿を見るたびに、ルーファスの胸に、温かいものがじわりと広がっていく。
五年前、婚約者を失ってから、彼の心は凍りついていた。もう誰も愛さない。もう誰も失いたくない。そう決めて、感情を殺して生きてきた。
だが、このか弱い薬師見習いは、なぜかその氷を溶かそうとしている。
「領主様」
執事のグレゴリーの声に、ルーファスは我に返った。
「何だ」
「アディ様の評判が、領内で非常に高いようです。すでに多くの領民が、彼女の診療を受けたいと列をなしております」
「そうか」
ルーファスは短く答えたが、内心では満足していた。アディをここに留めた判断は、正しかったのだ。
「それと……」グレゴリーは少し言いにくそうに続けた。「領主様が、頻繁にアディ様の様子を窓から眺めておられることが、館の使用人の間で噂になっております」
「……余計なことを言うな」
ルーファスは顔をそむけた。だが、その耳がかすかに赤くなっているのを、グレゴリーは見逃さなかった。
それは、風の強い夜のことだった。
領主館の侍女頭、ハンナが突然倒れた。高熱と激しい咳。そして、全身に広がる紫色の斑点。
さっそくアディが呼ばれた。
「これは……!」
アディには、おぼろげだが記憶があった。
薬師だった母のもとに、似たような症状の患者が運び込まれてきたことがある。あのとき母は何と言っていたか……。
記憶を頼りに、薬草図鑑のページを繰った。母の形見であるその図鑑には、稀少な薬草の情報も記されている。
「この症状は、毒だと思います。月光草があれば中和できるはずです」
アディは、「月光草」の絵が描かれたページをルーファスたちに示した。
「その薬草はどこにある?」
ルーファスが即座に尋ねた。
「とても……手に入れるのが難しいんです。月の出ている夜、コカトリスの巣の中にしか咲かない花ですので。採取の仕方にもコツがあって……」
「コカトリスだな。【魔の森】の中に巣があるだろう」
ルーファスはマントを翻し、さっそく扉へ向かって歩き始めた。【魔の森】へ向かうつもりだ。
「お待ちください! 私もご一緒します」
アディはその背中に向かって叫んだ。ルーファスは驚いたように振り返った。
「また、あの森へ行きたいのか? 懲りたのではなかったのか」
「……でも、私がいなければ、月光草を見分けられないんじゃないかと思います。それに、正しい手順で採取しないと、薬効が失われてしまいます。どうか、私を連れていってください」
ルーファスは少しの間、ためらった。
「おまえを危険にさらしたくはない……」
ぽろりとこぼれたその言葉は、本音だった。
「でも、ハンナさんを助けなければ!」
アディは食い下がった。
アディは、ルーファスの表情の揺らぎに気づいていなかった。
ルーファスは彼女を連れていくことに同意せざるを得なかった。
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