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溺愛の始まり
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契約から数日後、アディは森で薬草採集をしていた。
今日の護衛は、若い騎士のダニエルだった。真面目で礼儀正しい青年で、アディに対して丁寧に接してくれる。
薬師が貴重だということで、【魔の森】以外の森へ行くときにも、こうして護衛がつくのだ。
「アディ様、この薬草はいかがでしょうか」
「ああ、それは違います。似ていますが、葉の形が少し違うんです」
「なるほど……薬草は奥が深いですね」
なごやかな雰囲気で採集を続けていると、突然、背後から声がかかった。
「ダニエル」
二人が振り返ると、ルーファスが馬に乗って現れた。
「りょ、領主様!」ダニエルは慌てて敬礼した。
「護衛を交代する。お前は館に戻れ」
「え……しかし、私は――」
「命令だ」
ルーファスの声は冷たく、有無を言わせぬものだった。ダニエルは困惑しながらも、命令に従うしかなかった。
「失礼いたします、アディ様」
ダニエルが去った後、アディは不思議そうにルーファスを見上げた。
「領主様、執務はよろしいのですか?」
「問題ない。書類仕事は後でもできる」
ルーファスは馬から降りた。
「それより、お前の護衛の方が重要だ」
「でも、ダニエルさんも立派な騎士ですよ?」
「彼は経験が浅い。もし強力な魔獣が現れたら、対応できるか疑問だ」
それは表向きの理由だった。
本当の理由は、アディが他の男と楽しそうに話している姿を見て、ルーファスの胸に黒い感情が芽生えたからだった。
嫉妬。
自分でも信じられなかった。こんな感情は、婚約者を失って以来、一度も感じたことがなかった。
だが、アディに対しては違った。彼女が他の男と笑い合っている姿を見ると、胸がざわついた。彼女の笑顔は、自分だけに向けられるべきだと思った。
もちろん、そんなことは口に出せなかった。
「さあ、採集を続けろ。俺が見ている」
ルーファスは木に寄りかかり、腕を組んだ。
アディは不思議に思いながらも、採集を再開した。だが、ルーファスの視線を感じて、緊張してしまう。
(領主様、ずっとこちらを見ている……)
何度か振り返ると、確かにルーファスの蒼い瞳が、じっとこちらを見つめていた。
「あの、領主様……何か、私の採集の仕方におかしなところが?」
「いや、完璧だ」
ルーファスはそっけなく答えた。
(完璧だ。お前のすべてが)
心の中で、彼はそう付け加えた。
薬草を丁寧に扱う手つき。真剣な表情。時折見せる柔らかな笑み。その全てが、ルーファスの心をとらえて離さなかった。
今日の護衛は、若い騎士のダニエルだった。真面目で礼儀正しい青年で、アディに対して丁寧に接してくれる。
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もちろん、そんなことは口に出せなかった。
「さあ、採集を続けろ。俺が見ている」
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