【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~

深山きらら

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花をたむける先は

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 季節は過ぎ、秋が訪れた。

 秋の最大の行事である収穫祭。
 領地全体が祝祭の雰囲気に包まれていた。広場では音楽が奏でられ、人々が踊り、笑い、語り合っていた。

 アディも祭りに参加し、領民たちと楽しい時を過ごしていた。
 収穫祭は、王都にはない行事だ。アディにとって、このにぎやかな祭りは初めての経験だった。


 子供たちが彼女の周りに集まり、薬草の話をせがむ。アディは笑顔で、わかりやすく薬草の不思議について語って聞かせた。

「アディお姉ちゃん、すごい!」
「僕も大きくなったら、薬師になりたい!」

 子供たちの純粋な笑顔に、アディの心も温かくなった。


 年頃の娘たちもアディに寄ってきた。目を輝かせている。

「アディ様って王都育ちなんですよね?」

 彼女たちは都での流行や生活スタイルの話を聞きたがった。
 アディは、流行にはそれほど詳しくなかったので、戸惑ったが――それでも、知っている限りのことを伝えた。娘たちは黄色い声をあげて喜んだ。


 日が傾き始めたが、祭りのにぎわいは静まることはなかった。むしろ、酒が回って、より盛り上がってきた。
 広場のあちこちで火が炊かれた。

 オレンジ色の空。濃くなっていく影。揺らぐ炎。

 祭りの雰囲気に身を任せていたアディは、ふと、人混みの向こうに、ルーファスの姿を見つけた。
 彼は祭りの喧騒から離れ、一人で領主館の方角へ歩いて行くところだった。

 アディは胸騒ぎを感じた。ルーファスの背中が、どこか寂しげに見えたのだ。
 放っておけない。
 アディは周囲の知人たちに「ちょっと用事があるから」と告げて、ルーファスの後を追った。


 ルーファスが向かったのは、館の裏手にある小さな墓地だった。

 いつの間にか日は完全に落ち、頭上に月がぽっかりと浮かんでいる。
 月明かりの下、彼は一つの墓標の前に膝をついていた。そこには、一輪の白い花が供えられている。

 アディは物音を立てないよう、少し離れた場所で立ち止まった。

 ルーファスは墓標に手を置き、何かつぶやいている。声は聞こえなかったが、その横顔には深い悲しみがにじんでいた。
 しばらくして、ルーファスは立ち上がり、振り返った。そしてアディの姿を認めると、少し驚いたような表情を見せた。

「……見ていたのか」
「も、申し訳ありません。……ちょっと気にかかったものですから……」

 アディは身をすくめ、うなだれた。
 自分は見てはならないものを見てしまった。そのことだけは、はっきりとわかった。

 ルーファスは、深いため息をついた。
 意外にも、怒っている様子ではない。
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