16 / 25
花をたむける先は
しおりを挟む
季節は過ぎ、秋が訪れた。
秋の最大の行事である収穫祭。
領地全体が祝祭の雰囲気に包まれていた。広場では音楽が奏でられ、人々が踊り、笑い、語り合っていた。
アディも祭りに参加し、領民たちと楽しい時を過ごしていた。
収穫祭は、王都にはない行事だ。アディにとって、このにぎやかな祭りは初めての経験だった。
子供たちが彼女の周りに集まり、薬草の話をせがむ。アディは笑顔で、わかりやすく薬草の不思議について語って聞かせた。
「アディお姉ちゃん、すごい!」
「僕も大きくなったら、薬師になりたい!」
子供たちの純粋な笑顔に、アディの心も温かくなった。
年頃の娘たちもアディに寄ってきた。目を輝かせている。
「アディ様って王都育ちなんですよね?」
彼女たちは都での流行や生活スタイルの話を聞きたがった。
アディは、流行にはそれほど詳しくなかったので、戸惑ったが――それでも、知っている限りのことを伝えた。娘たちは黄色い声をあげて喜んだ。
日が傾き始めたが、祭りのにぎわいは静まることはなかった。むしろ、酒が回って、より盛り上がってきた。
広場のあちこちで火が炊かれた。
オレンジ色の空。濃くなっていく影。揺らぐ炎。
祭りの雰囲気に身を任せていたアディは、ふと、人混みの向こうに、ルーファスの姿を見つけた。
彼は祭りの喧騒から離れ、一人で領主館の方角へ歩いて行くところだった。
アディは胸騒ぎを感じた。ルーファスの背中が、どこか寂しげに見えたのだ。
放っておけない。
アディは周囲の知人たちに「ちょっと用事があるから」と告げて、ルーファスの後を追った。
ルーファスが向かったのは、館の裏手にある小さな墓地だった。
いつの間にか日は完全に落ち、頭上に月がぽっかりと浮かんでいる。
月明かりの下、彼は一つの墓標の前に膝をついていた。そこには、一輪の白い花が供えられている。
アディは物音を立てないよう、少し離れた場所で立ち止まった。
ルーファスは墓標に手を置き、何かつぶやいている。声は聞こえなかったが、その横顔には深い悲しみがにじんでいた。
しばらくして、ルーファスは立ち上がり、振り返った。そしてアディの姿を認めると、少し驚いたような表情を見せた。
「……見ていたのか」
「も、申し訳ありません。……ちょっと気にかかったものですから……」
アディは身をすくめ、うなだれた。
自分は見てはならないものを見てしまった。そのことだけは、はっきりとわかった。
ルーファスは、深いため息をついた。
意外にも、怒っている様子ではない。
秋の最大の行事である収穫祭。
領地全体が祝祭の雰囲気に包まれていた。広場では音楽が奏でられ、人々が踊り、笑い、語り合っていた。
アディも祭りに参加し、領民たちと楽しい時を過ごしていた。
収穫祭は、王都にはない行事だ。アディにとって、このにぎやかな祭りは初めての経験だった。
子供たちが彼女の周りに集まり、薬草の話をせがむ。アディは笑顔で、わかりやすく薬草の不思議について語って聞かせた。
「アディお姉ちゃん、すごい!」
「僕も大きくなったら、薬師になりたい!」
子供たちの純粋な笑顔に、アディの心も温かくなった。
年頃の娘たちもアディに寄ってきた。目を輝かせている。
「アディ様って王都育ちなんですよね?」
彼女たちは都での流行や生活スタイルの話を聞きたがった。
アディは、流行にはそれほど詳しくなかったので、戸惑ったが――それでも、知っている限りのことを伝えた。娘たちは黄色い声をあげて喜んだ。
日が傾き始めたが、祭りのにぎわいは静まることはなかった。むしろ、酒が回って、より盛り上がってきた。
広場のあちこちで火が炊かれた。
オレンジ色の空。濃くなっていく影。揺らぐ炎。
祭りの雰囲気に身を任せていたアディは、ふと、人混みの向こうに、ルーファスの姿を見つけた。
彼は祭りの喧騒から離れ、一人で領主館の方角へ歩いて行くところだった。
アディは胸騒ぎを感じた。ルーファスの背中が、どこか寂しげに見えたのだ。
放っておけない。
アディは周囲の知人たちに「ちょっと用事があるから」と告げて、ルーファスの後を追った。
ルーファスが向かったのは、館の裏手にある小さな墓地だった。
いつの間にか日は完全に落ち、頭上に月がぽっかりと浮かんでいる。
月明かりの下、彼は一つの墓標の前に膝をついていた。そこには、一輪の白い花が供えられている。
アディは物音を立てないよう、少し離れた場所で立ち止まった。
ルーファスは墓標に手を置き、何かつぶやいている。声は聞こえなかったが、その横顔には深い悲しみがにじんでいた。
しばらくして、ルーファスは立ち上がり、振り返った。そしてアディの姿を認めると、少し驚いたような表情を見せた。
「……見ていたのか」
「も、申し訳ありません。……ちょっと気にかかったものですから……」
アディは身をすくめ、うなだれた。
自分は見てはならないものを見てしまった。そのことだけは、はっきりとわかった。
ルーファスは、深いため息をついた。
意外にも、怒っている様子ではない。
49
あなたにおすすめの小説
偽りの呪いで追放された聖女です。辺境で薬屋を開いたら、国一番の不運な王子様に拾われ「幸運の女神」と溺愛されています
黒崎隼人
ファンタジー
「君に触れると、不幸が起きるんだ」――偽りの呪いをかけられ、聖女の座を追われた少女、ルナ。
彼女は正体を隠し、辺境のミモザ村で薬師として静かな暮らしを始める。
ようやく手に入れた穏やかな日々。
しかし、そんな彼女の前に現れたのは、「王国一の不運王子」リオネスだった。
彼が歩けば嵐が起き、彼が触れば物が壊れる。
そんな王子が、なぜか彼女の薬草店の前で派手に転倒し、大怪我を負ってしまう。
「私の呪いのせいです!」と青ざめるルナに、王子は笑った。
「いつものことだから、君のせいじゃないよ」
これは、自分を不幸だと思い込む元聖女と、天性の不運をものともしない王子の、勘違いから始まる癒やしと幸運の物語。
二人が出会う時、本当の奇跡が目を覚ます。
心温まるスローライフ・ラブファンタジー、ここに開幕。
言葉の色が見える私には、追放された冷徹魔術師様の溺愛がダダ漏れです~黒い暴言の裏に隠された、金色の真実と甘い本音~
黒崎隼人
恋愛
王立図書館の辺境分館で働く司書のリリアナには、言葉に込められた感情が「色」として見える秘密の力があった。
ある日、彼女の前に現れたのは、かつて「王国の至宝」と呼ばれながらも、たった一度の失言で全てを失い追放された元宮廷魔術師、アレン・クロフォード。
冷徹で皮肉屋、口を開けば棘だらけの言葉ばかりのアレン。しかし、リリアナの目には見えていた。その黒い暴言の奥底で、誰よりも国を思い、そしてリリアナを気遣う、美しく輝く「金色」の本音が。
「邪魔だ」は「そばにいろ」、「帰れ」は「送っていく」。
素直になれない不器用な魔術師と、その本音が全部見えてしまう司書の、じれったくて甘い、真実の愛を取り戻す物語。
「醜い」と婚約破棄された銀鱗の令嬢、氷の悪竜辺境伯に嫁いだら、呪いを癒やす聖女として溺愛されました
黒崎隼人
恋愛
「醜い銀の鱗を持つ呪われた女など、王妃にはふさわしくない!」
衆人環視の夜会で、婚約者の王太子にそう罵られ、アナベルは捨てられた。
実家である公爵家からも疎まれ、孤独に生きてきた彼女に下されたのは、「氷の悪竜」と恐れられる辺境伯・レオニールのもとへ嫁げという非情な王命だった。
彼の体に触れた者は黒い呪いに蝕まれ、死に至るという。それは事実上の死刑宣告。
全てを諦め、死に場所を求めて辺境の地へと赴いたアナベルだったが、そこで待っていたのは冷徹な魔王――ではなく、不器用で誠実な、ひとりの青年だった。
さらに、アナベルが忌み嫌っていた「銀の鱗」には、レオニールの呪いを癒やす聖なる力が秘められていて……?
追放された落ちこぼれ令嬢ですが、氷血公爵様と辺境でスローライフを始めたら、天性の才能で領地がとんでもないことになっちゃいました!!
六角
恋愛
「君は公爵夫人に相応しくない」――王太子から突然婚約破棄を告げられた令嬢リナ。濡れ衣を着せられ、悪女の烙印を押された彼女が追放された先は、"氷血公爵"と恐れられるアレクシスが治める極寒の辺境領地だった。
家族にも見捨てられ、絶望の淵に立たされたリナだったが、彼女には秘密があった。それは、前世の知識と、誰にも真似できない天性の《領地経営》の才能!
「ここなら、自由に生きられるかもしれない」
活気のない領地に、リナは次々と革命を起こしていく。寂れた市場は活気あふれる商業区へ、痩せた土地は黄金色の麦畑へ。彼女の魔法のような手腕に、最初は冷ややかだった領民たちも、そして氷のように冷たいはずのアレクシスも、次第に心を溶かされていく。
「リナ、君は私の領地だけの女神ではない。……私だけの、女神だ」
追放された薬膳聖女は氷の公爵様を温めたい~胃袋を掴んだら呪いが解けて溺愛されました~
黒崎隼人
恋愛
冤罪で婚約破棄され、極寒の辺境へ追放された伯爵令嬢リリアナ。「氷の公爵」と恐れられる魔導師アレクセイの城に送られるが、そこで彼女を待っていたのは、呪いにより味覚を失い、孤独に震える公爵だった!?
「……なんだ、この温かさは」
前世の知識である【薬膳】で作った特製スープが、彼の凍りついた心と胃袋を溶かしていく!
料理の腕で公爵様を餌付けし、もふもふ聖獣も手なずけて、辺境スローライフを満喫していたら、いつの間にか公爵様からの溺愛が止まらない!?
一方、リリアナを追放した王都では作物が枯れ果て、元婚約者たちが破滅へと向かっていた――。
心も体も温まる、おいしい大逆転劇!
辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~
香木陽灯
恋愛
「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」
実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。
「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」
「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」
二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。
※ふんわり設定です。
※他サイトにも掲載中です。
追放された悪役令嬢、規格外魔力でもふもふ聖獣を手懐け隣国の王子に溺愛される
黒崎隼人
ファンタジー
「ようやく、この息苦しい生活から解放される!」
無実の罪で婚約破棄され、国外追放を言い渡された公爵令嬢エレオノーラ。しかし彼女は、悲しむどころか心の中で歓喜の声をあげていた。完璧な淑女の仮面の下に隠していたのは、国一番と謳われた祖母譲りの規格外な魔力。追放先の「魔の森」で力を解放した彼女の周りには、伝説の聖獣グリフォンをはじめ、可愛いもふもふ達が次々と集まってきて……!?
自由気ままなスローライフを満喫する元悪役令嬢と、彼女のありのままの姿に惹かれた「氷の王子」。二人の出会いが、やがて二つの国の運命を大きく動かすことになる。
窮屈な世界から解き放たれた少女が、本当の自分と最高の幸せを見つける、溺愛と逆転の異世界ファンタジー、ここに開幕!
【完結】氷狼魔術師長様と私の、甘い契約結婚~実は溺愛されていたなんて聞いていません!~
雨宮羽那
恋愛
魔術国家アステリエで事務官として働くセレフィアは、義理の家族に給料を奪われ、婚期を逃した厄介者として扱われていた。
そんなある日、上司である魔術師長・シリウスが事務室へやってきて、「私と結婚してください」と言い放った!
詳しく話を聞けば、どうやらシリウスにも事情があるようで、契約結婚の話を持ちかけられる。
家から抜け出るきっかけだと、シリウスとの結婚を決意するセレフィア。
同居生活が始まるが、シリウスはなぜかしれっとセレフィアを甘やかしてくる!?
「これは契約結婚のはずですよね!?」
……一方セレフィアがいなくなった義理の家族は、徐々に狂い始めて……?
◇◇◇◇
恋愛小説大賞に応募しています。
お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます( . .)"
モチベになるので良ければ応援していただけると嬉しいです!
※この作品は「小説家になろう」様にも掲載しております。
※表紙はAIイラストです。文字入れは「装丁カフェ」様を使用しております。
※小説内容にはAI不使用です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる