【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~

深山きらら

文字の大きさ
15 / 25

嫉妬が止まらない

しおりを挟む
 その瞬間、扉が勢いよく開いた。

「アディ」

 ルーファスだった。アディがこれまで見たこともないほど、険しい表情をしている。

「領主様」カイルは驚いて立ち上がった。

 ルーファスはカイルを一瞥すると、アディに向き直った。

「至急、相談したいことがある。執務室に来い」
「今、ですか?」
「今だ」

 有無を言わせぬ口調に、アディは戸惑いながらも頷いた。

「カイル様、申し訳ありません。続きはまた後で――」

「いえ、お気になさらず」カイルは苦笑した。「お仕事、頑張ってください」



 執務室に着くと、ルーファスは扉を閉め、鍵をかけた。

「領主様……?」

 アディが不安をにじませて尋ねると、ルーファスは彼女の方を向いた。その蒼い瞳には、複雑な感情が渦巻いていた。

「カイルと、何を話していた」
「え? 薬草茶の作り方を――」
「それだけか」
「はい……あとは、少し世間話を」

 ルーファスは深いため息をついた。そして、窓辺に歩み寄り、外を見つめた。

「アディ、お前は……カイルのことを、どう思っている」
「え?」

 突然の質問に、アディは戸惑った。

「良い方だと思います。真面目で、親切で……」
「それだけか」ルーファスは振り返った。「それ以上の感情は?」
「それ以上……?」

 アディは首をかしげた。自分の心をいくら探ってみても、何も出てこない。カイルは良い人だが、それを言うなら、執事のグレゴリーだって同じぐらい良い人だ。他にも良い人は大勢いて――。

「ありません」

 アディは素直に答えた。

「カイル様は、たぶん素敵な方なんだろうと思いますけど、私は、その……」

 言いかけて、アディは言葉につまった。

(私は、領主様のことが……)

 その想いが、ようやくアディの中で明確になった瞬間だった。

 ルーファスの表情が、目に見えてやわらいだ。

「……そうか」

 彼は一歩、アディに近づいた。

「なら、いい」
「え……?」
「カイルには、今後、お前に近づかないよう言っておく」
「そんな! どうしてですか? あの方は別に何も……」
「私が、気に入らない」

 ルーファスははっきりと言った。

「お前が、他の男と笑い合っているのが、気に入らない」

 アディは目を見開いた。

「それは……どういう……」
「わからないのか」ルーファスはさらに一歩近づいた。「私は、お前が……」

 言いかけて、言葉を飲み込んだ。

(まだだ。まだこの想いを告げるべきではない)

 ルーファスは懸命に自分を抑えた。
 今、この想いを告げたら、アディを困らせてしまうかもしれない。彼女の気持ちを確かめないうちに、自分の感情を押しつけたら、二人の関係が壊れてしまう可能性もある。
 ――戦いにおいては勇猛果敢なのに、恋には臆病なルーファスだった。

「……とにかく、お前の護衛は、基本的に私が務める。異論は認めない」
「はあ……」

 アディは完全に混乱していた。でも、不思議と嫌な気持ちではなかった。
 むしろ、胸が高鳴っていた。

 ルーファスと一緒にいられる時間が長くなるのは、アディにとっても嬉しいことだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放された悪役令嬢、規格外魔力でもふもふ聖獣を手懐け隣国の王子に溺愛される

黒崎隼人
ファンタジー
「ようやく、この息苦しい生活から解放される!」 無実の罪で婚約破棄され、国外追放を言い渡された公爵令嬢エレオノーラ。しかし彼女は、悲しむどころか心の中で歓喜の声をあげていた。完璧な淑女の仮面の下に隠していたのは、国一番と謳われた祖母譲りの規格外な魔力。追放先の「魔の森」で力を解放した彼女の周りには、伝説の聖獣グリフォンをはじめ、可愛いもふもふ達が次々と集まってきて……!? 自由気ままなスローライフを満喫する元悪役令嬢と、彼女のありのままの姿に惹かれた「氷の王子」。二人の出会いが、やがて二つの国の運命を大きく動かすことになる。 窮屈な世界から解き放たれた少女が、本当の自分と最高の幸せを見つける、溺愛と逆転の異世界ファンタジー、ここに開幕!

『婚約なんて予定にないんですが!? 転生モブの私に公爵様が迫ってくる』

ヤオサカ
恋愛
この物語は完結しました。 現代で過労死した原田あかりは、愛読していた恋愛小説の世界に転生し、主人公の美しい姉を引き立てる“妹モブ”ティナ・ミルフォードとして生まれ変わる。今度こそ静かに暮らそうと決めた彼女だったが、絵の才能が公爵家嫡男ジークハルトの目に留まり、婚約を申し込まれてしまう。のんびり人生を望むティナと、穏やかに心を寄せるジーク――絵と愛が織りなす、やがて幸せな結婚へとつながる転生ラブストーリー。

無能だと追放された錬金術師ですが、辺境でゴミ素材から「万能ポーション」を精製したら、最強の辺境伯に溺愛され、いつの間にか世界を救っていました

メルファン
恋愛
「攻撃魔法も作れない欠陥品」「役立たずの香り屋」 侯爵令嬢リーシェの錬金術は、なぜか「ポーション」や「魔法具」ではなく、「ただの石鹸」や「美味しい調味料」にしかなりませんでした。才能ある妹が「聖女」として覚醒したことで、役立たずのレッテルを貼られたリーシェは、家を追放されてしまいます。 行きついた先は、魔物が多く住み着き、誰も近づかない北の辺境伯領。 リーシェは静かにスローライフを送ろうと、持参したわずかな道具で薬草を採取し、日々の糧を得ようとします。しかし、彼女の「無能な錬金術」は、この辺境の地でこそ真価を発揮し始めたのです。 辺境のゴミ素材から、領民を悩ませていた疫病の特効薬を精製! 普通の雑草から、兵士たちの疲労を瞬時に回復させる「万能ポーション」を大量生産! 魔物の残骸から、辺境伯の呪いを解くための「鍵」となる物質を発見! リーシェが精製する日用品や調味料は、辺境の暮らしを豊かにし、貧しい領民たちに笑顔を取り戻させました。いつの間にか、彼女の錬金術に心酔した領民や、可愛らしい魔獣たちが集まり始めます。 そして、彼女の才能に気づいたのは、この地を治める「孤高の美男辺境伯」ディーンでした。 彼は、かつて公爵の地位と引き換えに呪いを受けた不遇な英雄。リーシェの錬金術が、その呪いを解く唯一の鍵だと知るや否や、彼女を熱烈に保護し、やがて溺愛し始めます。 「君の錬金術は、この世界で最も尊い。君こそが、私にとっての『生命線』だ」 一方、リーシェを追放した王都は、優秀な錬金術師を失ったことで、ポーション不足と疫病で徐々に衰退。助けを求めて使者が辺境伯領にやってきますが、時すでに遅し。 「我が妻は、あなた方の命を救うためだけに錬金術を施すほど暇ではない」 これは、追放された錬金術師が、自らの知識とスキルで辺境を豊かにし、愛する人と家族を築き、最終的に世界を救う、スローライフ×成り上がり×溺愛の長編物語。

婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜

夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」 婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。 彼女は涙を見せず、静かに笑った。 ──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。 「そなたに、我が祝福を授けよう」 神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。 だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。 ──そして半年後。 隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、 ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。 「……この命、お前に捧げよう」 「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」 かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。 ──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、 “氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。

役立たずと追放された令嬢ですが、極寒の森で【伝説の聖獣】になつかれました〜モフモフの獣人姿になった聖獣に、毎日甘く愛されています〜

腐ったバナナ
恋愛
「魔力なしの役立たず」と家族と婚約者に見捨てられ、極寒の魔獣の森に追放された公爵令嬢アリア。 絶望の淵で彼女が出会ったのは、致命傷を負った伝説の聖獣だった。アリアは、微弱な生命力操作の能力と薬学知識で彼を救い、その巨大な銀色のモフモフに癒やしを見いだす。 しかし、銀狼は夜になると冷酷無比な辺境領主シルヴァンへと変身! 「俺の命を救ったのだから、君は俺の永遠の所有物だ」 シルヴァンとの契約結婚を受け入れたアリアは、彼の強大な力を後ろ盾に、冷徹な知性で王都の裏切り者たちを周到に追い詰めていく。

妹に命じられて辺境伯へ嫁いだら王都で魔王が復活しました(完)

みかん畑
恋愛
家族から才能がないと思われ、蔑まれていた姉が辺境で溺愛されたりするお話です。 2/21完結

お別れなので「王位継承セット」をプレゼントしたら、妹カップルが玉座を手に入れました。きっと喜んでくれてますよね

ささい
恋愛
ん?おでかけ楽しみ? そうだね。うちの国は楽しいと思うよ。 君が練ってた棒はないけど。 魔術に棒は要らない。素手で十分? はは、さすがだね。 なのに棒を量産したいの? 棒を作るのは楽しいんだ。 そっか、いいよ。たくさん作って。飾ってもいいね。君の魔力は綺麗だし。 騎士団に渡して使わせるのも楽しそうだね。 使い方教えてくれるの? 向上心がある人が好き? うん、僕もがんばらないとね。 そういえば、王冠に『民の声ラジオ24h』みたいな機能つけてたよね。 ラジオ。遠く離れた場所にいる人の声を届けてくれる箱だよ。 そう、あれはなんで? 民の声を聞く素敵な王様になってほしいから? なるほど。素晴らしい機能だね。 僕? 僕には必要ないよ。心配してくれてありがとう。 君の祖国が素晴らしい国になるといいね。 ※他サイトにも掲載しております。

婚約破棄された悪役令嬢の私、前世の記憶を頼りに辺境で農業始めます。~美味しい野菜で国を救ったら聖女と呼ばれました~

黒崎隼人
ファンタジー
王太子アルベルトから「悪役令嬢」の濡れ衣を着せられ、辺境へ追放された公爵令嬢エリザベート。しかし彼女は動じない。なぜなら彼女には、前世で日本の農業研究者だった記憶があったから! 痩せた土地、疲弊した人々――「ならば私が、この地を楽園に変えてみせる!」 持ち前の知識と行動力で、次々と農業改革を成功させていくエリザベート。やがて彼女の噂は王都にも届き、離婚を告げたはずの王太子が、後悔と疑問を胸に辺境を訪れる。 「離婚した元夫婦」が、王国を揺るがす大きな運命の歯車を回し始める――。これは、復縁しない二人が、最高のパートナーとして未来を築く、新しい関係の物語。

処理中です...