奴隷看守は身代わり令嬢に愛される

井笠令子

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前編

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「キャロライナ・レミネン伯爵令嬢、君との婚約を破棄させてもらう!」
 夜会を楽しむ人々で溢れた煌びやかなダンスホールに、ローザ男爵令嬢と寄り添いながらもドヤ顔で指をさす王太子の声が響いた。



 キャロライナは、社交界で有名な淑女であった。毎日この地下牢の番をして外に出ることのないミルにさえその噂が届くほど、美しく聡明な王太子の婚約者。しかしその噂は徐々に、身分の低い令嬢をいびっているとか、男遊びが激しく男女の痴話争いが絶えないというものへと変化していった。
 そのご令嬢が婚約破棄をされ、更には断罪されてこの牢へやって来るという。

 身に着けていた鮮やかな紫色のドレスは砂ぼこりでくすみ、綺麗に編み込まれていたはずのブロンドの髪はほつれて、その美しい顔は半分隠れている。冷たい石造りの階段を裸足のままで大柄な騎士によって半ば引きずられるように降りると、鉄格子の中へと放り出された。

「沙汰が決まるまで、ここでおとなしくしてるんだな。お嬢様」

 そう言い放った大柄な騎士は、振り返りもせず足早に階段を上った。
 ここは暗くて、じめじめしていて、時折囚人たちの声ともいえぬ声がこだまする不気味な牢だ。騎士も長いはしたく無いのだろう、無理もない。

 ミルが鉄格子の扉に鍵をかけると投げ出された令嬢の白い足がピクリと動いた。人前にさらされたことが無いであろう白く細い足であった。その足の裏には痛々しく血が滲んでいる。ミルはいけないこと知りつつも、水で濡らした手ぬぐいを令嬢に差し出した。

「これで足を拭くといい」

 彼女が普段寝ていたものよりもはるかに狭く硬いであろうベッドに腰掛け、あろうことか鉄格子の間から優雅に足を差し出した。

「貴方が拭いて下さらない?」

 流石、生まれながらの令嬢らしいふるまいにミルは素直に跪いた。

 ミルは、大事な陶器を触るように恐る恐る令嬢の片足に手ぬぐいを滑らせる。左足が終わると令嬢は足を組み替え右足を差し出した。

 グリッ!
「痛っ」

 その右足を拭き終わった途端、令嬢はミルの股間をその足でぐりっと押さえつけたのだった。あまりの衝撃にミルは後ろにひっくり返り、足に付いた鎖がガシャリと大きな音を立てた。

「驚いた。女の子なんだ?」

 ご令嬢だと思っていた人物は、明らかに先ほどとは違う低い声色で笑った。

「牢の中で自由にできる私と、鎖に繋がれた牢の外の君。どっちが囚人かわかんないね」

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