【完結】あなたを正しく消し去る方法

●やきいもほくほく●

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ー解放ー

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そんなサフィードのいつも通りの日々に突然、光が差し込んだ。
コンコンと扉を叩く音が聞こえる。

(誰だ……? こんな時間に)

屋敷の者たちはもうサフィードをいない者として扱っている。
軽蔑の眼差しに慣れてしまえばどうということはない。
見えないフリをしていれば、苦しい思いをしなくても済む。
もう屋敷の主人はフィオーネだと思っているのではないだろうか。
そうなるのも当然だ。

娼婦を連れ込んでいる時に人払いをしていたつもりはないが、屋敷で働く者たちがフィオーネを守るために遠ざけていたのだろう。
最初からこの夫婦関係は破綻しているのだ。

サフィードは嫌味を言われるは面倒だと思いつつ、頭をガシガシと掻きながら扉を開ける。
部屋に顔を出したのは予想外の人物だった。


「サフィード様、今よろしいでしょうか?」

「……フィ、オーネ?」


フィオーネがサフィードの部屋を訪れるのは珍しいことだった。

汚い部屋と手入れをしていない髭や髪を隠すように手のひらで顔を覆う。
無意識にサフィードはフィオーネから距離を取ってしまう。
ここに来ることを皆に止められたのだろうか。
フィオーネの少し離れた廊下では、壁から顔を出すようにして侍女や執事たちが様子を伺っているではないか。


「サフィード様、お忙しいでしょうか?」

「…………別に」


サフィードは冷たく返事をする。
部屋に閉じこもって酒を飲んでいるだけのサフィードが忙しいわけはない。


「はっ……嫌味か?」

「……えっと、どういう意味でしょうか」


困惑するように首を傾げるフィオーネ。
嫌味を言いに来たのではないなら何をしに来たのかますますわからない。

コソコソと後ろからサフィードを悪く言う声が耳に届く。
勝手に勘違いしたことが少しだけ申し訳なくなり、フィオーネの目をまっすぐに見ることができずにいた。
彼女は窓越しに見るくらいがちょうどいい。眩しくて目が潰れてしまいそうだった。


「あのっ……わたしはあと一ヵ月で十六歳になるのです!」

「……?」


ほんのりと頬を染めたフィオーネが何を言いたいかわからなかった。
もじもじと何かを言いたげに口を開けたり閉じたりしている。


「ご、ごめんなさい……うまく伝えられなくて」

「……いや」


フィオーネは謝罪すると胸元に手を当ててから深呼吸を繰り返す。
「よしっ」と気合が入れるような小さな声が聞こえた。
彼女は左手で背に隠していた紙を前に出す。
そのメモとサフィードをチラチラと見ては何かを伝えようとしている。
サフィードは彼女が何を言うつもりなのか待っていた。
もしかしたら離縁を求める紙なのかもしれない……サフィードは期待半分でフィオーネの言葉を待っていた時だった。

フィオーネは紙を胸元で握りしめてから唇を開いた。


「誕生日までにやりたいことを書きました! サフィード様、叶えるのを手伝ってくれないでしょうかっ」

「……!」


小さな肩をプルプルと震わせながら、フィオーネは声を絞り出すように叫ぶ。
瞼はギュッと閉じられており、頬はほんのりと赤く染まっている。

今までつらい環境の中、文句も言わず何も強請らずにいたフィオーネ。
こんな中、彼女が帝国に帰りたいと言わないのが不思議なくらいだ。
そんなフィオーネが初めてサフィードに何かを頼んできた。

(何を今更……まさか俺との関係をやり直そうとしているのか?)

サフィードは数えきれないほどに不貞行為も働いた。
それなのに彼女は聖母のようにサフィードを許し、一緒にいようとしてくれているのだろうか。
サフィードが感動していると、彼女の唇がゆっくりと弧を描いていることに気づく。

(なんだ……?)

大きな違和感。今まで培った何かが騒ぎ出す。
危機感のようなものがサフィードの頭を支配していた。
けれど再びフィオーネを見ると元の表情に戻っている。

(……気のせいか? いや、まさかな)

もう自分のそんな能力など信じられないほどに落ちぶれてしまったのだろう。
サフィードは気のせいかもしれないと首を横に振る。
昨晩、酒の飲み過ぎたせいだと思うことにした。

自らを落ち着かせるようにゆっくりと息を吐き出す。

(俺も落ちぶれたものだな……もう何も残っちゃいない)

戦場では一瞬の判断の間違いが命取りになってしまう。
だけどもうそんな判断は必要ではないのだ。

まるで、今まで何もなかったように話しかけてくるフィオーネ。
そこに感じるのは焦りのような言葉に言い表せない感情だ。
何かがおかしい、だけどその理由がわからない。

額を押さえながら頷くと、フィオーネは「よかった……承諾していただけたわ」と言いながら嬉しそうにその場で小さく跳ねている。


「さっそく初めてもよろしいでしょうか?」

「……!」

「サフィード様、すぐに着替えて中庭に来てくださいませ。約束ですよ?」

「……わ、わかった」


フィオーネは今までの態度が嘘のように積極的に思えた。
彼女は背を向けてスキップするような勢いで歩いていく。
今まで顔を合わせれば挨拶をするけれど、こうして自分からサフィードに踏み込んでくることなどほとんどなかったのに……。

扉が閉まると、侍女たちの金切り声が聞こえてくる。
フィオーネを心配している話し声だ。
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