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ー解放ー
⑦
しおりを挟む三つ目は『一緒に朝食を食べたい』だった。
フィオーネの願いを叶えるためにサフィードは朝早く起きて準備をする。
「おはようございます、サフィード様」
「……おはよう、フィオーネ」
「こうして朝からサフィード様に会えるなんてとても嬉しいですわ」
「ありがとう……」
朝食の時間もお茶の時間の時と同じようにとても楽しく心安らぐ時間になった。
声を掛ければ嬉しそうにしてくれるフィオーネに癒される日々。
約束だけではなく彼女に会うにはどうしたらいいのか考えて、サフィードはある一つの結論に辿り着く。
「今日からは毎日一緒に朝食をとってもいいだろうか」
「えっ……本当ですか!?」
フィオーネは驚いたのか持っていたパンをポロリと落としてしまう。
慌てている彼女を横目で見つめながら、再度朝食を一緒に食べることを伝える。
「し、失礼いたしました。とても嬉しくて……」
頬を赤く染めているフィオーネに対して湧いてくる特別な気持ち。
「サフィード様が自分からそう言ってくださるなんて……」
「……早起きも悪くない」
「あっ、そうですわよね!」
フィオーネは慌ただしく椅子に腰掛けて、赤くなった頬を押さえた。
彼女と過ごすようになり、一週間も経つころには次第に酒を飲む回数は減っていった。
もちろん娼婦を屋敷に呼ぶこともなく娼館に足を運ぶこともない。
たまに手紙が届いたが、これ以上フィオーネを穢したくはなくて無視するようになっていた。
四つ目は『一緒に星を見たい』だった。
サフィードはまだ肌寒い夜にフィオーネを馬に乗せて外に出た。
防寒していてもまだ寒いとフィオーネはサフィードにピッタリと体を寄せている。
どうやら意識しているのはこちらだけのようで、彼女は終始興奮しながら馬に乗っていた。
彼女はほぼ一年間、ずっと辺境の屋敷にいて過ごしていた。
サフィードが申し訳ない気持ちでいると、フィオーネは何かを察したのか、「辺境に住んでいたら仕方ありませんわ。慣れっこですから」と話してくれた。
彼女はアーテルム帝国にいる時からパーティーやお茶会もほとんど参加したことがないらしい。
年に一度の大きなパーティーくらいだそう。
また一つ、フィオーネのことを知れたと思うと嬉しくなる。
「わ、わたしのことはいいんですっ! 星を見ましょう!」
「はは……」
彼女はこちらを見てピタリと固まった。
どうしたのかと問いかけると……。
「サフィード様の笑顔を初めて見たような気がします」
「……!」
「ふふっ、嬉しいですわ」
フィオーネに言われてサフィードは自分の頬に触れた。
久しぶりに笑ったことに気がついたのだ。
恥ずかしくなり咳払いをして誤魔化すが、フィオーネは「また笑顔を見せてくださいね」と楽しそうに笑う。
二人で丘の上に座り、星空を見上げていた。
空いっぱいに広がる星など見たのはいつぶりだろうか。
ただの星も彼女と一緒に見られるだけで、こんなに素晴らしいと思える。
「なんて素敵なのかしら……!」
「…………」
「サフィード様、今日はここに連れてきてくださり、ありがとうございます」
吐き出す白い息。寒さで赤くなる頬。にこやかな笑み。
興奮気味に「綺麗ですね」と、言った彼女はとても美しく思えた。
(こんなに嬉しそうな顔をするならばもっと早く……連れてくればよかったな)
フィオーネは手を擦り合わせて白い息を吐き出しながら手を温めている。
冷えた手を握ると、彼女は照れながらも握り返す。
くしゃみをしたフィオーネに「温かい屋敷に帰ろう」と促す。
フィオーネは「サフィード様と一緒にもっとここにいたいです」と頬を膨らませながらアピールしていたが、これ以上は彼女が風邪をひいてしまう。
「フィオーネが心配なんだ」
「サフィード様がわたしの心配を……?」
「……!」
「ありがとうございます。嬉しいですわ」
サフィードは可愛らしいことばかり言うフィオーネを優しく抱きしめた。
フィオーネも細い腕を背まで伸ばしてサフィードを抱きしめ返す。
屋敷に帰ると彼女が淹れてくれた紅茶を飲んだ。
ミルクと砂糖がたっぷりと入った甘い紅茶は安心感で満たしてくれた。
だけど同時に違う欲望が芽を出してしまう。
美しい彼女を穢したくないと思うのと同時にどうしようもない欲望に駆られる。
だけど今度こそフィオーネといい関係を築いていきたい。
猛る熱は発散できるはずもなくどんどんと溜まっていく。
それを解消するために夜な夜な欲を発散するために出かけるしかなかった。
そして道端で身を売る女性たちにわずかな金で欲を発散する。
最初は一度だけのつもりだった。だけどあと一度だけ……もう一度だけと回数はどんどん増えていく。
フィオーネを裏切っているという事実がどうしようもなく自分を苦しめる。
(どうすればいい、どうすれば……っ)
彼女に見つめられるたびに、彼女に触れられるたびに……その欲望はどんどんと大きくなっていった。
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