11 / 52
ー解放ー
①①
しおりを挟む──偏った思考のまま一週間が経とうとしていた。
結局、王家主催のパーティーに参加することはない。
部屋に閉じこもり、自身の心と闘っていたがサフィードは精神の限界を迎えていた。
(どうしてこんなことに……?)
フィオーネはここに来るべきではなかったのだ。
この国にとって必要のなくなったサフィードには何の価値もない。
ふと、サフィードはあることに気づいてしまう。
(ああ、そうだ。フィオーネが……フィオーネが悪い。フィオーネがここに嫁いでさえこなければこんなことになることはなかったんだ)
サフィードが項垂れて謝罪したとしてもフィオーネは許してはくれない。
こんな自分に価値がないと思っていたはずなのに、次第にフィオーネのせいだと思うようになる。
二度とあの笑顔を向けてくれないのなら、いっそのこと壊してしまえばいいではないか。
(そうだ……彼女が…………フィオーネがここにいるからおかしくなったんだ)
酒を大量に飲んでも飲んでも満たさないのもフィオーネのせいなのだ。
妻さえいなければ娼館に通っていても女性と遊んでも文句を言われない。
そうすればまた元通りに戻れる。
屋敷の中から出ない堕落した生活に戻ることができたらそれでいい。
あとは適当に執事がどうにかするはずだ。
今日はフィオーネの誕生日前日だった。
結局、フィオーネとの約束を守ることはできなかった。
けれどそれはサフィードが悪いわけではない。
フィオーネがサフィードを求めないことが悪いのではないだろうか。
(……消えてしまえ。彼女が消えればなかったことと同じ)
彼女とはあの日から一度も顔を合わせていない。
今度こそ見放されたのだと思った。
サフィードは夜が更けてから動き出した。
いつのまにかフィオーネの十六歳の誕生日になった。
はからずとも『一緒に誕生日を過ごす』という最後の願いは叶えてやれるはずだ。
(一緒にお前と過ごしてやる。これで満足だろう?)
クローゼットの中、奥深くに閉まってあった剣を取り出す。
最近は手入れをしておらずに錆びついた剣では汚く嬲り殺すことになってしまう。
(せめて……綺麗に殺さなければ。フィオーネは綺麗なまま死ぬべきだ)
サフィードは枕の下に隠してある短剣を取り出した。
こちらは寝込みを襲われそうになっても対応できるようにと手入れしていたため、切れ味はバッチリだろう。
酒を大量に流し込んでから、口元についたアルコールを手の甲で拭った。
静まり返った廊下を裸足で歩いていき、フィオーネの部屋へと向かう。
フラフラとした足取りで廊下を歩いていく。
結婚しても部屋は別々で二人の寝室はない。
それは自分がずっと娼婦を連れ込んでいたからでもあるが、フィオーネも何も言わなかったからである。
(フィオーネは俺のために動くべきだったんだ……! そうすれば俺だって……愛してやったのにっ)
サフィードは言い訳を繰り返していた。
フィオーネの部屋の前へ到着する。
何故か鍵はかかっていなかったため、扉はすんなりと開いた。
視界がぼやけていたが、ベッドで寝ているであろうフィオーネの元へと向かう。
(ああ……これで終われる。フィオーネがいなくなれば元に戻れるんだっ!)
もうすぐ訪れるであろう解放……楽になれるからと想像して胸が高鳴る。
フィオーネが泣き叫んで悲鳴を上げでもしたら困るが、そうしたら自分を見下してきた奴らもまとめて全員殺してしまえばいい。
(俺がずっとずっとダルモンテ王国を守ってきたんだ! もっと俺を敬うべきだ。周りの評価がおかしいんだ。俺は間違っていないっ)
足音を立てないようにゆっくりとゆっくりとフィオーネの元へ。
彼女はベッドで仰向けになり眠っていた。
まるで人形のように美しい顔で。
真っ白なシーツ、真っ白な枕、真っ白に見える髪、真っ白な寝間着。
綺麗だとそう思ったが、今の汚れた自分には眩しくて仕方がない。
サフィードはベッドに体を乗り上げて、フィオーネの体を挟み込むようにして跨った。
シーツを剥いで心臓の位置を確かめる。
今、思えばこの時に彼女がここまでして悲鳴を上げないどころか起きないことに気がつくべきだったのだ。
サフィードは両手に短剣を持って大きく手を振り上げた。
(これで俺は〝フィオーネ〟から解放されるんだ……っ!)
そう思ってフィオーネの心臓に短剣を突き刺そうとした時だ。
暗闇の中、フィオーネのエメラルドグリーンの瞳がこちらをまっすぐ見据えていることに気づいて目を見開いた。
「サフィード様、紅茶はいかが?」
「…………紅、茶?」
サフィードは紅茶と聞いてピタリと動きを止める。
フィオーネはゆっくりと体を起こすと、サフィードの耳元で囁くように言った。
「えぇ……そうですわ。このままでは満たされないでしょう?」
181
あなたにおすすめの小説
<完結>金貨5000枚で売られた王太子妃
ぜらちん黒糖
恋愛
「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」
甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。
旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。
「それは本当に私の子供なのか?」
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。
しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。
それを指示したのは、妹であるエライザであった。
姉が幸せになることを憎んだのだ。
容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、
顔が醜いことから蔑まされてきた自分。
やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。
しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。
幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。
もう二度と死なない。
そう、心に決めて。
あなたの隣は私ではないけれど、それでも好きでいてもいいですか、レオナルド様
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢エリアーナには、三年間ずっと抱えてきた秘密がある。
婚約者であるヴァルフォード公爵・レオナルドへの、誰にも言えない恋心だ。
しかし彼の隣にいるのは、いつも幼馴染の伯爵令嬢・ソフィア。
儚げな笑顔と上目遣いで男性を虜にするあざとい彼女に、レオナルドも例外ではないようで——
「レオ、私のこと嫌いにならないでね?」
「……そんなことにはならない」
また始まった二人の世界。
婚約者を借りパクされました
朝山みどり
恋愛
「今晩の夜会はマイケルにクリスティーンのエスコートを頼んだから、レイは一人で行ってね」とお母様がわたしに言った。
わたしは、レイチャル・ブラウン。ブラウン伯爵の次女。わたしの家族は父のウィリアム。母のマーガレット。
兄、ギルバード。姉、クリスティーン。弟、バージルの六人家族。
わたしは家族のなかで一番影が薄い。我慢するのはわたし。わたしが我慢すればうまくいく。だけど家族はわたしが我慢していることも気付かない。そんな存在だ。
家族も婚約者も大事にするのはクリスティーン。わたしの一つ上の姉だ。
そのうえ、わたしは、さえない留学生のお世話を押し付けられてしまった。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる