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ー欲望ー
②②
しおりを挟む彼女に意見しようとするといつも信じられない言葉が返ってくる。
『金しか取り柄がない貧乏貴族のくせに、わたくしに意見するなんてどういうつもり?』
『女一人も満足させられない。だから貴族たちから馬鹿にされるのよ』
『お父様に言いつけて婚約をなかったことにするわ!』
いっそうのことプライドなど捨ててこの婚約をなかったことにしてもらうのがいいのかもしれないと何度思ったことだろう。
だが、こんな時に限ってアスファルの仕事が急にうまくいかなくなった。
次々と積み上げていたものが崩れていくように人が離れていく。
今では一番の大きな取り引き相手だったはずのアーテルム帝国の商人や仕入れ先が次々に切れていくことに大きな焦りを感じていたのだ。
(いきなりどういうことだ……?)
なんとか他の国で稼ごうとするが、焦りが滲んでいるのかなかなかうまくはいかない。
ラウラは好き放題に金を使い込むことやヴィジョン伯爵からの理不尽な命令や仕事が増えてきたことに危機感を覚えていた。
そんな時、王家主催のパーティーが開かれることになった。
一年で一度、国中の貴族たちが集まる場だ。
そこでガルベン男爵家にも招待状が届いた。
(僕も正式に貴族の仲間入りなんだ……! ああ、頑張ってきたかいがあった)
アスファルは豪華な城に再び足を踏み入れることができて気分が高揚していた。
今までの苦労が報われた瞬間だった。
ラウラのギラギラと輝くドレスの大ぶりの宝石がラウラの欲を表している。
アスファルはため息を吐きつつ、ラウラをエスコートしていた。
ラウラは満足げではあるが、周囲からの視線は冷ややかな気がしていた。
しかしラウラと同様に興奮していたアスファルにはさして気にならなかった。
とにかく胸を張って歩いていくが、どこか居心地が悪い視線が突き刺さる。
それにヴィジョン伯爵にアーテルム帝国のことを相談すると、今日はアーテルム帝国の皇帝の信頼のおける人物が来るという。
皇帝の従兄弟である彼は公爵で軍も任されている。
かなり信頼されていると聞いた。
つまり彼に気に入られさえすればアスファルは確固たる地位を築くことも不可能ではないということだ。
(……このチャンスは絶対に逃せない。またアーテルム帝国とのやりとりを再開できたら大きな利益が出るはずだ)
ラウラは令嬢たちにドレスを自慢しに行くのだという。
アスファルは広い会場からアーテルム帝国から来る公爵を探していた。
このことが今後の未来を左右すると言っても過言ではないからだ。
そのためアスファルはヴィジョン伯爵に彼に取り継いでもらうように言っていた。
ヴィジョン伯爵も快く引き受けてくれたのになかなか見つからない。
(どこだ!? どこにいる……!)
アスファルに焦りばかりが募っていく。
そんな時、重厚な扉から光が漏れる。
そこにはアーテルム帝国の紋章をつけたブローチに豪華絢爛な軍服。
アスファルには彼がアーテルム帝国の公爵だとすぐにわかった。
いくら探しても見つからないのはまだ会場に来ていなかったからだ。
しかしその隣にいる女性を見てアスファルは息を止めた。
暫く彼女を見つめていたが、やはりそうだと確信した瞬間に声が漏れる。
「は…………?」
どうしてここにいるこかよりも、何故彼の隣にいるのかがわからない。
理解できるはずなどないのだ。
アスファルは人の顔を覚えることが得意だった。
その能力があったおかげでここまで地位を高めることができたのだ。
自分の頭がおかしくなっていなければ彼の隣にいるのは、あの時アスファルが捨てたはずの〝フラー〟ではないだろうか。
(う、嘘だろう……? フラーがどうしてここに?)
彼女は見たことがないほどの上品で豪華なドレスを着ていた。
アスファルがライラに贈ったドレスも十分な値段だったが、それと比べることすら馬鹿馬鹿しいほど。
身につけている宝石だってどれも一級品。
商人をしてきた自分だからわかることなのかもしれないが、一言で言えば格が違う。
フラーはイエローの生地やゴールドの刺繍が施されたドレスを当然のように着こなしている。
ボサボサだった髪や肌は艶が戻り、折れてしまいそうだった細い体もふっくらとしているようだ。
公爵の腕を取り、エスコートされながらゆっくりと歩いてくる。
その美しい所作や美貌に見惚れる人々。
自然と道が開けていくが、アスファルは足が縫い付けられたように動けなかった。
(な、なんで……あの時、いなくなったはずなのに)
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