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ー絶望ー
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しおりを挟む四章 ー絶望ー
【あらすじ】
王太子妃であるカーラーは妹のリリアンと王妃である母を虐げているようだ。
なのに彼女は初夜を拒んで国王である父に色目を使っているという。
そんなカーラーを嫌っていたシュヴァルツだったがある〝真実〟を知ることになる。
彼女とやり直そうとした時にはすべて手遅れだった。
(次は……ボクの番だ)
シュヴァルツを襲う恐怖と絶望。そしてついに──。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「カーラー、もう一度やり直せないか? 今度こそボクが君を守るよ!」
シュヴァルツが知っている中で女性が喜びそうな言葉を絞り出す。
黙って話しを聞いていたカーラーだったが、空っぽになったカップを置いた。
静寂の中で陶器が微かに擦れる音が聞こえた。
「やり直す? とんでもない」
「…………え?」
「あなたはわたくしを裏切り、欲を発散することに忙しかったでしょう? 穢らわしい手でわたくしに触れないでくださいませ」
「──ッ!」
先ほどまでカーラーとやり直せるのだと思っていたが、今すぐに彼女を消さなければと思った。
このままでは自分の名誉が危ないのではないかと警鐘を鳴らす。
どうにかして彼女を黙らせなければ……そのことで頭がいっぱいになってしまう。
* * *
アーテルム帝国との同盟が結ばれてから数カ月が経とうとしていた。
カーラー・リィ・アートルムがダルモンテ王国に嫁いでいた。
自分の立場上、心から愛する女性と結婚できることはないと思っていた。
(仕方ない……ボクは王太子としての使命がある)
今まで婚約者候補はいたものの、婚約が成立することはなかった。
何故か令嬢側から断られてしまうことがほとんどだ。
その度にリリアンや母は『あの令嬢はお兄様に相応しくなかったわ』『あなたのよさが理解できない令嬢は結婚相手になれるはずもない』と、シュヴァルツを励ましてくれた。
次第に婚約者候補もいなくなったが、チェルヴォニやサフィードもまだ結婚していないこともあり特に気にすることもなかった。
だが父もそろそろ国外から王太子妃を迎えようと提案してくるようになる。
「きっとシュヴァルツお兄様に相応しい方がいらっしゃいますわ」
「リリアン、ありがとう」
「いえ、わたくしにとってシュヴァルツお兄様は世界一素敵なお兄様ですから!」
「リリアンの言う通りよ。あなたは間違っていない。完璧な王太子だもの」
「母上もありがとうございます」
母とリリアンはシュヴァルツにとっては完璧な女性像だと思っていた。
優しくて淑やか。王妃や王女として父や国を支えている。
リリアンは昔から体が弱くて病弱だった。
王女として自分にできることはやりたいのだと懸命に努力をしていた。
シュヴァルツもそんなリリアンを支えたいと思ったし、優しい母の力になりたいと思っていた。
しかしもう一人の異母兄妹だったフラーウムは今までシュヴァルツが知る中で最悪な女だった。
まず見た目だけが取り柄の側妃の女から生まれたこと。
フラーウムの母は、父の愛情をシュヴァルツとリリアンの母から取り上げていた。
けれど産後の肥立が悪くフラーウムを残して亡くなってしまう。
そのことに心を痛めていた母だが、フラーウムに罪はないと必死に彼女に歩み寄ろうとしていた。
だが、フラーウムはそれを拒否し続けていたのだ。
母はフラーウムの部屋に向かい、話し合いをしようとしていたのに反抗ばかり。
食事に誘っても同席することもない。
彼女がどうしてこんなにも素晴らしい母とリリアンを拒否するのか、シュヴァルツには理解できなかった。
母やリリアンの誘いに乗らずに、一人でいようとするフラーウムの態度の理由がシュヴァルツにはわからない。
「わたくし、フラーウムに嫌われるようなことをしてしまったのかしら」
「リリアン、ボクがフラーウムに注意してこよう」
「いいのです、シュヴァルツお兄様。フラーウムにこれ以上嫌われたらわたくし悲しいですもの」
「だが、母上とリリアンに対するあの態度は許せないだろう?」
じんわりと涙を浮かべるリリアンを見てシュヴァルツは胸が痛んだ。
フラーウムはどうしてこんなに心優しいリリアンを無視するのだろうか。
「わたくしやお母様はフラーウムのことが大好きなのです。そのうち受け入れてくる時がきますわ」
「……リリアン、なんて優しいんだ」
「この国の王女として当たり前のことをしているだけですから」
フラーウムのことが大好きだと言っていたリリアンをつらい目に合わせる彼女に怒りが湧いてくる。
リリアンは病弱ながら明るくて優しい天使のような妹だ。
「フラーウムはどうしてこんなことをするんだろうな」
「わかりませんわ。わたくしはフラーウムに歩み寄ろうと思います。仲良くなれるまで……ね」
リリアンはこんなことをされてもフラーウムを許している。
恐らくフラーウムはリリアンが皆に愛されることが気に入らないのだろう。
リリアンの優しさを無碍にするフラーウムの愚かさに苛立ちを止まらない。
シュヴァルツはフラーウムからリリアンと母を守ろうと決めた。
しかしシュヴァルツがいない時を狙ってフラーウムはリリアンにひどいこと言ったり嫌がらせを繰り返しているそうだ。
フラーウムはシュヴァルツが、何を言っても淡々として感情の起伏が少ない。
そのくせ自分が被害者のような顔をしている。
地味なドレス、髪も整えずにあくまでもリリアンたちが悪いのだと周りに訴えかけてくるのだ。
そのせいでリリアンと母が悪いのだという侍女たちも現れているそうだ。
けれどフラーウムの味方をした途端に辞めてしまう。
(嘘をつくからだろう? 彼女たちには罰が下ったんだ)
シュヴァルツはなんとかフラーウムに嫌がらせをやめるようにしていたが無理だった。
父に訴えかけるものの、彼はリリアンにもフラーウムにも無関心のまま。
フラーウムが側妃に似ていないことか原因だと噂されているが、本当のことはわからない。
ある意味、リリアンにもフラーウムにも平等だった。
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