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ー絶望ー
④①
しおりを挟む(チッ……ダルモンテ王国を見下しているのだろうか。こんな女と結婚するなんてなんて運が悪いんだ)
会話も続くことなく、カーラーは優雅に紅茶を飲んでいる。
さしてシュヴァルツ自身に興味もないのだろう。
彼女の後ろには地味な侍女がひとりだけ待機している。
それだけでシュヴァルツにはアーテルム帝国に大切にされていないことが推察できる。
そう思うとお高く止まって虚勢を張っているカーラーが陳腐に見えて仕方ない。
(フンッ……所詮この女も他の令嬢たちと同じだ)
だが同じ王族としてシュヴァルツもそれについてはよくわかる。
避けられない重圧。王族であるがゆえに制約があり、許されないことが多い。
得るものも多いが失うものはもっとたくさんある。
立場に縛られてしまい息抜きもほとんどできないのだ。
その気持ちがわかるのは学生時代に一緒だったサフィード。
彼も軍神と呼ばれる父を持ち、強さをもとめられて戦いを強要させられていた。
それから幼馴染のチェルヴォニ。
彼もシュヴァルツと同じで次期宰相としての重圧に押し潰されそうになっていた。
だからこそ彼らの気持ちはよく理解できる。
そんな重圧から解放されるために、シュヴァルツは変装して街に繰り出すことがよくあった。
王太子という重たい仮面を捨てて自身を解放できる唯一の時間だ。
案外、バレずに済んだのはチェルヴォニの根回しもあったのだろうが、こんなところに王太子がいるとは誰も思わないのだろう。
誰にも見せられない背徳的な遊びは、抑圧していたストレスを発散するのに丁度いい。
それが悪ければ悪いほどにシュヴァルツの気持ちは盛り上がっていく。
だが、妻を取ればそうもいかないだろう。
結婚など面倒なだけ。
そう思ってこの年まで結婚せずにいたが、もう逃げることはできないようだ。
形式上だけの結婚式を挙げて、平和が訪れたと国民たちも大喜び。
アーテルム帝国の力は凄まじく緊迫していたことが原因だ。
皆、王太子妃であるカーラーを歓迎していた。それは城でも同じだった。
カーラーはプライドが高いかと思いきや皆に分け隔てなく接していると評判はなかなかによかった。
ただのプライドが高く高飛車な女ということはないようだ。
(最初は誰だってそうできるさ。化けの皮が剥がれていくのも時間の問題だろう)
しかしタイミングが悪いことに結婚式の後に公務が入ってしまい、二週間ほどダルモンテ王国を出なければならなくなり、カーラーも連れて行こうかと迷っていた。
カーラーは「わたくしは大丈夫ですわ」と言ってはいたが、彼女と長時間共にいるのも疲れるに違いない。
リリアンと母と朝食をとっている時にその話を出すと、すぐに母が止めたのだ。
「まだダルモンテ王国にも慣れていないのに、カーラーを公務に連れていくなんて体を壊してしまうわ」
「そうでしょうか?」
「シュヴァルツ、カーラーの気持ちも考えてあげて。彼女にこの国を好きになって欲しいのよ?」
母がそう言うと、リリアンも咳き込みながら声を上げる。
「お兄様がいない間はわたくしがカーラー様の話し相手になるわ。きっとご不安でしょうから」
「……リリアン」
「それにカーラー様があんなに美しい方でシュヴァルツお兄様は幸せね! 安心してちょうだい。わたくしたちがちゃーんとカーラー様と仲良くするから……」
シュヴァルツはリリアンと母の優しさに心から感動していた。
そしてカーラーをダルモンテ王国に置いてシュヴァルツは安心して公務へと出かけた。
カーラーがダルモンテ王国に慣れるまで、母とリリアンに任せることにした。
結果的には気遣いもできていい王太子ではないかと自画自賛していた。
(そうだ。公務の帰りに久しぶりにサフィードに会いに行くか。サフィードもレラ辺境伯の娘と結婚したはず……)
そう思いつつ、シュヴァルツは公務をこなしてからダルモンテ王国へ帰国。
それからシーディリフ辺境伯領へと寄り道をする。
そこでシュヴァルツは信じられないものを目にすることになった。
なんとサフィードは酒と女に溺れてひどい有様だったのだ。
正義感が強く、真面目だった面影は完全に消えてしまい別人のようだ。
彼と話したのは同盟が結ばれる少し前のこと。
気落ちはしていたが、ここまでひどくはなかった。
サフィードはすっかり抜け殻のようになっていて、彼を支えているのはカーラーと同じでアーテルム帝国から嫁いできた妻のフィオーネだった。
「わたしが至らないばかりに。申し訳ありません……」
「いや、貴女のせいではないよ。フィオーネ夫人」
「シュヴァルツ殿下……ありがとうございます。サフィード様に元気を出してもらえるように一生懸命がんばりますから」
フィオーネはこんな状況にもかかわらず、必死にサフィードを支えようとしていたのだ。
彼女の純粋さとまっすぐな愛に心打たれてつつ、サフィードのことを彼女に任せるしかなかった。
結局、サフィードとはろくな会話もすることなく王都に戻ることになる。
サフィードから拒絶されているようにすら感じた。
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