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ー絶望ー
⑤②
しおりを挟む「……ッ、どうしてボクの無実が証明されないんですか!? ボクは殺していない! カーラーを毒殺なんてするわけがないのにっ」
「だが、カーラーはお前と二人きりの時に倒れたんだ」
「カーラーに紅茶を淹れたのは彼女の侍女だっ!」
「なら砂糖を淹れたのは誰だ?」
「…………え?」
シュヴァルツは確かにカーラーのティーカップに砂糖を入れた。
そのことははっきりと覚えている。
「ボク、ですけど……」
「まさか砂糖と一緒に毒を混ぜるとはな」
「……砂糖に、毒?」
シュヴァルツは父の言葉を復唱するように口にする。
だけどあの時、砂糖を入れて欲しいと言ったのはカーラー自身だ。
そのことを言うと父はカーラーはいつも紅茶に砂糖など入れないそうだと言った。
しかし砂糖は元々、カーラーの部屋にあったものだ。
(甘いものが好きだから、あんな顔で紅茶を飲んだんじゃないのか……?)
彼女が毒と知っていてシュヴァルツに砂糖をいれるように指示を出したのだとするのなら、苦しむことをわかっていて毒を飲んだことになる。
(死んでしまうかもしれないのに、自分から毒を飲むなんて……正気じゃないっ)
シュヴァルツにはカーラーの行動の意味がわからなかった。
「砂糖がお前のジャケットの袖に付着していた。お前がカーラーのカップに砂糖を入れた証拠だ」
「は…………?」
「砂糖が入った瓶を隠そうとしたが、侍女に阻まれて回収しそこねたんだろう?」
「ボクは……カーラーに頼まれたから砂糖を入れただけですよ?」
「黙れっ、今更言い訳など聞きたくない!」
シュヴァルツは震える声を隠すように口元を押さえつつ首を横に振る。
(砂糖瓶がボクのものじゃないと証明できれば……できても入れたのはボクで…………)
いくら違うと否定しても逆効果なのかもしれない。
もう何が正しくて何が間違っているのか、今のシュヴァルツには理解できそうもなかった。
「それに高級娼館の件も、地下の奴隷オークションの件もすべて報告に上がっている」
「…………ぁ」
「どっちにしろ、お前に待っているのは死のみ、だ。リリアンたちも地下牢で死を待っている」
父はすべてを諦めているようだった。
やり直すにはもう何もかも遅いと、そう言われているのだ。
「…………ははっ! あははっ」
膝を折り地面に額を擦りつけたまま、シュヴァルツはただ笑うしかなかった。
ただカーラーに、アーテルム帝国にはめられたのかもしれないと思ったが、それが正しくても間違っていても、もうどうすることもできない。
「ダルモンテ王国は…………もう終わりだ」
父の弱々しい声が聞こえたような気がした。
シュヴァルツの未来が真っ黒に染まっていく。
まるでカーラーの長く黒い髪のように……。
そして父の言葉通り、ダルモンテ王家は終わった。
カーラーは侍女を一人しか連れてこなかったため帝国に居場所がないのかと思っていたが、皇帝から溺愛されていたらしい。
この事実を知った皇帝は大激怒。
彼女とは離縁をして、そのまま顔を合わせることはなかった。
リリアンも母も処刑されて首が晒され、ひたすら石を投げられた跡がある。
(次は……ボクの番だ)
* * *
「まぁ……綺麗に並んでいますのねぇ」
「ああ、見せしめにはちょうどいい」
並べられた王族の首を見下ろしながらカーラーは微笑んでいた。
「可愛い妹が毒殺されそうになったんだ。黙っていられるわけないだろう?」
「…………ウフフ、お兄様ってば」
カーラーの黒髪が風でサラリと流れた。
隣には同じ黒髪の体格のいい男性が一人、形のいい唇を歪めて満足そうに笑っていた。
アーテルム帝国の領地はこれでまた広がることになるだろう。
「カーラー、褒美は何がいい?」
「言わなくてもわかっているでしょう? お兄様」
「…………ああ、そうだな」
カーラーは背伸びをして兄に……アーテルム皇帝の頬にキスをする。
その背後には複数の少女たちの姿があった。
「みんなもおつかれさま。帝国に帰ったらゆっくりとお茶でも楽しみましょう?」
「お姉様、わたしをいっぱい褒めてくださいませ!」
「もちろんよ、フィオーネ。壁を壊してくれてありがとう」
カーラーはフィオーネのホワイトシルバーの髪をそっと撫でる。
フィオーネは頬を赤く染めてうっとりしながらカーラーを見つめていた。
「私はお姉様のこともっとたくさん知りたいです」
「ああ、フラーウム。わたくしも同じ気持ちよ。それからルアンを手懐けてくれて嬉しいわ。お兄様もわたくしもとても感謝しているの」
「私を救ってくれたお姉様のためですもの。なんだってできます」
カーラーはフラーウムの頬をそっと撫でる。
ハニーゴールドの髪はあの男と同じ。だけどこちらはとっても愛おしい。
「ずるいわ、お姉様! エリーもたっくさん褒めてくださいませ」
「そうね、エリュテイカ。あなたは裏でたくさん動いてくれたもの。やっぱりわたくしにはあなたがいないと」
「お姉様、愛しているわ!」
「ふふ、エリュテイカはとっても強くて可愛いわね」
エリュテイカは照れているのか両手で頬を押さえた。
レッドブラウンの髪は今日も可愛らしく結えている。
カーラーは並べられた首に背を向ける。
それから長い黒髪を手で払った。
「さぁ……行きましょうか」
ー絶望ー end
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