【短編集】

●やきいもほくほく●

文字の大きさ
61 / 91
"全く興味がない"それだけだった

しおりを挟む

ソフィーア・レンドルターはこのベルタ王国で伯爵令嬢として生を受けた。
貿易商で財を得ていたレンドルター家で生まれたからかソフィーアは語学が堪能で、器量も良いと評判が良かった。


しかし、ソフィーアの婚約者であるミケーレの評判は余り良いとはいえなかった。


ミケーレ・ランドリゲス。
ランドリゲス公爵家の三男でランドリゲス公爵と公爵夫人が歳を重ねてから出来た子供ということもあり、彼は甘やかされて育った。
気楽な立場も後押ししたのだろう。

ミケーレ少年は兎にも角にも悪戯好きで人を困らせては逃げ回る元気のいい少年であった。
生意気な態度を受けても、彼の後ろにはランドリゲス公爵の影がチラつく為、周囲も何も言うことはなかった。


ランドリゲス公爵の強い希望で結ばれた婚約。
レンドルター伯爵家に拒否権はなかった。

ソフィーアは初め、ランドリゲス公爵家の嫡男であるソリッドと婚約していた。
けれど、ある理由でソリッドとソフィーアの婚約は破棄された。

その後に充てがわれたのはソフィーアと歳が近いミケーレであった。
伯爵家は勿論、反発したがランドリゲス公爵に押さえつけられるような形でミケーレの婚約者に収まった。


ソフィーアは家を守る為に決定に従い、ミケーレもソフィーアに興味がなかったのか特に文句を言うこともなかった。

暫くは互いに干渉することはなかった。
けれどミケーレが成長すると事態は一変する。

小猿のように庭を駆け回り、元気だけが取り柄だったミケーレは成長期になると一気に背が伸びて男らしくなった。
ランドリゲス公爵と公爵夫人の良いとこどりをしたような端正で甘い顔立ちは、令嬢達からの評判も良かった。

それに加えて彼の家柄とランドリゲス公爵の存在は大きいことだろう。
常に走り回っていたからか勿論スポーツも万能。

そしてミケーレの兄達はソフィーアから見ても立派で、お世辞抜きに素晴らしいといえる。
そのイメージもあってか、ミケーレに媚を売ろうと人集りができるほどだった。

ミケーレは一気に注目を集めるようになった。
そして運が悪いことに、周囲の女性達が彼を放っておかなかったのだ。

まるで自分の力を誇示するように、ミケーレはソフィーアに、いかに自分がモテるのかを自慢をする。

「こんな婚約者を持てて幸せだろう?」
「俺がモテるからといって嫉妬をするなよ?」
「お前は俺の側に居ることが出来て幸せだよな」

よくもここまで言えたものだと感心するレベルであるが、実際にミケーレに言い寄る御令嬢は多い。

今まで令嬢達に見向きもされなかったミケーレは「自分の真の価値にやっと気づいたか」といわんばかりの態度でソフィーアに訴えかけるのである。

そしてそんな熱意のこもった言葉を右から左に聞き流していたソフィーアの態度が気に入らないのか、ソフィーアに隠れてコソコソと御令嬢との火遊びを楽しむようになった。

まだ隠そうと思う考えがあるだけいいと思うべきだろうか。



ソフィーアはミケーレを放置していた。



理由はただ一つ。


"全く興味がない"


それだけだった。




それと強いて言うならば、まだ頃合いではないからだ。

ソフィーアが黙っている範囲で上手くやればいいものを、ミケーレは自分の非をソフィーアに報告する。
最近はソフィーアに向かってご丁寧に令嬢の名前まで教えるようになっていった。

ソフィーアはそんなミケーレのどうでもいい話を黙って聞いていた。

むしろそんなミケーレの暴走が有難いとすら思っていたからだ。

しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

【完結】そんなに好きなら、そっちへ行けば?

雨雲レーダー
恋愛
侯爵令嬢クラリスは、王太子ユリウスから一方的に婚約破棄を告げられる。 理由は、平民の美少女リナリアに心を奪われたから。 クラリスはただ微笑み、こう返す。 「そんなに好きなら、そっちへ行けば?」 そうして物語は終わる……はずだった。 けれど、ここからすべてが狂い始める。 *完結まで予約投稿済みです。 *1日3回更新(7時・12時・18時)

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

許すかどうかは、あなたたちが決めることじゃない。ましてや、わざとやったことをそう簡単に許すわけがないでしょう?

珠宮さくら
恋愛
婚約者を我がものにしようとした義妹と義母の策略によって、薬品で顔の半分が酷く爛れてしまったスクレピア。 それを知って見舞いに来るどころか、婚約を白紙にして義妹と婚約をかわした元婚約者と何もしてくれなかった父親、全員に復讐しようと心に誓う。 ※全3話。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

恩知らずの婚約破棄とその顛末

みっちぇる。
恋愛
シェリスは婚約者であったジェスに婚約解消を告げられる。 それも、婚約披露宴の前日に。 さらに婚約披露宴はパートナーを変えてそのまま開催予定だという! 家族の支えもあり、婚約披露宴に招待客として参加するシェリスだが…… 好奇にさらされる彼女を助けた人は。 前後編+おまけ、執筆済みです。 【続編開始しました】 執筆しながらの更新ですので、のんびりお待ちいただけると嬉しいです。 矛盾が出たら修正するので、その時はお知らせいたします。

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

処理中です...