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一章
①⓪
しおりを挟む(神様、助けてください……わたしは今、人生最大のピンチを迎えています)
無数の視線が向けられる中、神頼みするしかなかった。
今は自分の意思でこの場を去ることすらできない。
ディアンヌは慣れないヒールを履いていた足の痛みに顔を歪める。
頭上からクスクスと馬鹿にするような笑い声が聞こえてきて、ディアンヌの目には悔しさからじんわりと涙が滲む。
つい先ほど自分の前世の記憶を思い出したけれど、今は何の役にも立たない。
「……大丈夫か?」
低く威圧感のある声がしてディアンヌは顔を上げる。
銀色の美しい髪と透き通る宝石のような青い瞳に目を奪われた。
差し出された手、その先を辿ると端正な顔立ちが見える。
氷のようにどこか冷たい表情を見て、手を取ってもいいか迷ってしまう。
しかし好意は無下にできないと、ディアンヌは震える手を伸ばす。
なんとか男性の力を借りて、立ち上がることはできたが、足の痛みがひどく、うまく前に進めない。
どうやら転んだ時に足を思いきり捻ってしまったようだ。
男性は「足が痛むのか?」とディアンヌに問いかけた。
小さく頷くと男性は躊躇いもなく、ディアンヌの体を抱え上げる。
「……!」
「このまま医務室に運ぶ」
前世含めて男性経験がまるでないので、これだけで顔が真っ赤になってしまう。
ディアンヌを抱えたまま静かな廊下を歩いていく男性。
沈黙に耐えかねて、ディアンヌは慌ててお礼を言った。
「あの、ありがとうございます。助かりました」
「いや……お礼を言うのはこちらの方だ」
「……え?」
噛み合わない会話にディアンヌは首を傾げた。
(どうしてわたしがお礼を言われるのかしら?)
もしかして知り合いなのかもしれないと名前を問いかける。
「あの、お名前を聞いてもよろしいでしょうか?」
「…………」
唇は固く閉ざされたまま、何も語られることはない。
余計なことをしてしまったかもしれないとディアンヌが反省した時だった。
「……リュドヴィックだ」
(リュドヴィック、リュド……どこかで聞いた名前だわ)
ディアンヌはじっくり考えたものの、この状況で思い出すことはできそうになかった。
こんな時、自分から家名を聞いてもいいのかはわからない。
経験不足の自分が嫌になる。
先ほどの医務室に向かっているようだ。
医師は再び運ばれてきたディアンヌを見て驚いているようだ。
リュドヴィックは丁寧にディアンヌをベッドに下ろす。
身なりからして、高位貴族なのではないだろうか。
しかし今までメリーティー男爵領で家の手伝いばかりしていたディアンヌは名前を聞いてもわからない。
ハイヒールを脱がせた医師が傷だらけの足を消毒していく。
擦り傷に消毒液が沁みて、唇を噛んで痛みに耐えていた。
そんな時、リュドヴィックがディアンヌに問いかける。
「普段は見ない顔だが、あのような場は初めてか?」
「はい……」
そう答えた後、二人の間には気まずい沈黙が流れる。
ディアンヌは話題を探していると、名乗るのを忘れていたことを思い出して口を開いた。
「わたしはディアンヌ・メリーティーと申します。改めまして助けてくださり、ありがとうございました!」
「メリーティー……メリーティー男爵の令嬢か」
淡々と答えるリュドヴィックに表情の変化も声の抑揚もない。
そのため、彼が何を考えているかまったくわからなかった。
「何故、この場に一人で?」
「それは……」
ディアンヌはリュドヴィックにことの経緯を話していく。
パーティーでは大失敗したため、やけくその気持ちからだった。
この際どうすることもできないと男爵家の状況やシャーリーに騙されてこの場にやってきたことを説明する。
リュドヴィックに責められるかと思いきや、彼は黙ってディアンヌの話を聞いてくれた。
「申し訳ありませんでした。わたしが無知なばかりに迷惑をかけてしまい……」
「…………」
「このまま家族に何も成果がなかったと報告するのは申し訳ない気持ちでいっぱいです」
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