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二章
③②
「口に合わなかった!? ごめんなさいっ」
ピーターの様子を見たディアンヌがトレイを下げようとすると彼は小さく首を横に振る。
そして涙をポロポロと流しながら、料理を次々に口に運んでいく。
口いっぱいに料理を詰め込んでいくピーターの頬はパンパンだ。
ディアンヌは呆然としていた。
ゴクリと喉が鳴った後に、彼は涙と鼻水で濡れた顔をあげる。
「おい、ひい……っ」
「……ピーター?」
「うわあぁぁん……!」
ピーターはスプーンを持ったまま、大きな声で泣き出してしまった。
「お母さん、ごめんなさい……っ!」
「……!」
泣き叫ぶ合間に聞こえる謝罪の言葉に、ディアンヌはパンを置いてからピーターを抱きしめる。
『お母さんに会いたい』
『お母さんを守れなくてごめんなさい』
『ボクを一緒に連れて行って』
『置いて行かないで……!』
涙を流して、絞り出すようなか細い声で紡がれる言葉。
今まで我慢したものが溢れだしたような気がした。
ピーターの悲痛な叫び声が部屋の中に響いていた。
ピーターの声からは、痛いほどの悲しみが伝わってくる。
今だけは感情を吐き出す彼の気持ちを受け止めたいと思った。
ピーターを抱きしめながら、ディアンヌもつられるように声を上げて泣いていた。
小さな小さな体を撫でながら何も言うことができない。
少しでもピーターの悲しみや痛みが和らげばいいと思わずにはいられない。
「ぐす……! ううぅぅ~っ」
「わぁあぁん、お母さん……!」
部屋の扉がわずかに開いていた。
そこからシルバーグレーの髪が覗いていたが、ディアンヌとピーターは抱き合いながら泣いていたため気づくことはない。
いつの間にかディアンヌの激しい泣きっぷりを見て、自然とピーターの涙が止まってしまう。
涙でぼやけて見えないが、ピーターがこちらを見ている。
そしてピーターはキョロキョロと辺りを見回してテーブルに置いてあったナプキンをとると、ディアンヌの涙を拭ってくれた。
「ディアンヌ、泣きすぎだよ」
「らってぇ……! うえぇっ」
「……はは、変な顔」
ピーターは笑みを浮かべながらも真っ赤になった目からは、次々と涙が流れていく。
そんな姿を見ていると、ますます泣くのを止められない。
ピーターに促されるようにしてディアンヌは席へと戻る。
もはやどちらが子どもなのかわからない。
ディアンヌは肩を揺らしながら、ビシャビシャになりつつあるナプキンで目元を押さえていた。
泣き止んだピーターは、パンやスープと料理を口に運んでいく。
やっと涙が落ち着いてきたディアンヌが鼻を啜っていると、ピーターの元気な声が聞こえた。
「ディアンヌ、おかわりはある?」
「……っ!」
どうやらピーターはディアンヌの作ったスープやパンをすべて食べきったようだ。
それには料理人たちも顔を見合わせて驚いている。
ディアンヌが感極まって、ブンブンと首を縦に動かしながら空の皿を持って立ち上がる。
涙で視界がぼやけていたことや泣きすぎたこともあり、足がもつれてしまう。
(こ、転んじゃう……!)
無意識に皿を割らないようにと腕を頭の上にあげる。
ベルトルテ公爵邸にあるものはすべて高級品だからだ。
ディアンヌが痛みに備えて目を閉じた時だった。
「大丈夫か……?」
少し重たいムスクの甘い香りが鼻を掠めた。
いつのまにか腹部に温かい感触がある。
ディアンヌが顔をあげると、そこには二週間ぶりに見るリュドヴィックの姿があった。
「あっ……はい!」
ディアンヌが返事をすると、リュドヴィックが体を起こしてくれた。
給仕がディアンヌが持っていた皿を受け取る。
「リュドヴィック様……?」
「君は本当に危なっかしいな」
「……え?」
「いつも転んでばかりだ」
そういえばディアンヌはリュドヴィックの前で転んでばかりいるような気がした。
「も、申し訳ありません……!」
「謝らなくていい。君が無事でよかった」
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