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序章 【転生管理者】

第三節 星巡りのレナトゥス

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【転生管理者】
定められた日、時間に、定められた相手を定められた方法で、魂を肉体を分離させ、身に宿す魔力と言霊の力で中間世界へと受け渡す。

ーそれが、俺の役目だ。


脈を図り、瞳孔を確認。
完全に死亡したことを認識した後、抜け殻となった体を放っておけるはずもなく警察に連絡し、髪を一束切り取って拝借して立ち去る。

魂は魔力によって守られ、言霊によってカギを得た。
元の肉体は、警察の手によって弔われるだろう。

馬場公平の魂を器に留めた俺は、もうこの世界に留まる必要はない。

「ステラ」
“はいはーい、ヨンダ?”

耳につけられたピアスーこぶりの水晶から聞こえる高めの声は、能天気に反応を返していた。
精霊と呼ばれる種族の仲間であるステラは、水晶があるところならば時間、場所、世界関係なく声を届けることが出来る“異能”を持っていた。

一方通行ではなく、完全に両者間で会話できるその能力は精霊族の中でもひときわ異質なもの。
そのせいで故郷を追われたと、ステラは語っていた。

だが、異世界を渡り歩く俺達にとってはなくてはならない存在だ。
ステラのー両世界感応力ーの異能がなければ、俺は元居る世界には帰れないのだから。

「今から帰る。道導を頼んだぜ」
“りょうかーい!早く帰ってきてヨネ”

透明だった水晶は星の瞬きのように、光り始める。
俺は目を閉じて、体に染みついた動作を間違いなく行っていく。右掌を掲げ、空中に円を描いた後、魔力を高めながらステラの応答を待つ。

“——————”

ぶつぶつと小さく声が聞こえ、俺はその声を耳に入れ頭の中に直接記憶していき、掲げた右掌を人差し指だけ立たせて円を描いた場所に細かく線を引いていく。

一筆で描き切った、魔力陣。
この世界の全ての理を無視して風邪を巻き起こし、体を光の粒子に変えていく。
瞳を閉じたまま立ちすくみ、竜巻のような風にさらされながらも決して足元がぶれてはいけない。髪は暴れ、来ていた服は丈の短い羽織に姿を変え、この世界では決して見られない異国の服装へと身を包んだ。

「滾れ、滾れ」
“纏い、纏われ”

魔力陣。そして、俺とステラによる言霊。その三つが合わさり、ようやく俺は元の世界に帰ることが出来るのだ。

「辿るは故郷の導、向かうは帰郷の星回り」
“紡がれた道、示された導、辿り着きたる安寧のかの地”

水晶は瞬きをやめ、闇夜のように黒く色を変えていく。
竜巻のような風は言霊に惹かれるように俺の周りを優しく吹きすさんでいく。

「連なる世界に、今帰らん」
“トレアール、我は汝を帰りを今ここに求めよう。かの星の名は――”

一呼吸おいて、俺とステラは言葉を合わせた。


「“ルベライド”」

――


【ルベライド】

俺の世界は、そう呼ばれている。
異世界と、異世界の狭間に位置する俺たちの世界は常に光の粒子に満ち溢れている。光の粒子はその全てが魔力の源ではなくー大半が、魂だ。

異世界は大きく分けて五つあり、うち二つが俺たちの世界の右側、もう二つが左側に位置しているため、中心に位置するルベライドは常に魂が通り過ぎていく。

右側の世界では、魔力は持たず“カガク”の力によって繁栄を続けている星々。【アース】【ゼクシオ】
左側の世界では、魔力を持ち、その力によって繁栄を続けている星々。【フレンダル】【カーマイン】

それらは輪廻の輪をめぐるように、五つの世界を移動して循環をなしている。

魔力を持った世界に生まれその世界で死に、中間世界であるルベライドを通り過ぎる時には魂から魔力の源が自然と封印され、魔力の持たない世界で肉体を得る。

魔力が無くなったわけではなく封印されているため、魔力のない世界でも表に出せないだけで魔力の源は存在している。時折、封印しきれない魂は俺たち【転生管理者】が縁をいじり、“霊能力者の家系”に転生させる。

そう、魔力のない世界での霊や魂が見える人物は総じて魔力を封印しきれなかったものたちだ。


左側から、右側への転生は例外を除き俺たちが行動しなくとも自動的に行われる。
しかし魔力の持たない世界から、魔力の持つ世界へと転生させるためにはわざわざその世界まで行かなければいけない。

魔力が封印された魂は、中間地点であるルベライドにたどり着く前に自然消滅してしまうほどもろいからだ。

そのため、星読ほしよみの力を持つ者たちの協力のもと、俺達【転生管理者】が定められた日、時間に、定められた相手を定められた方法で、転生を行う。

魔力の封印された魂に、魂を護る魔力と封印を解くカギである言霊を捧げルベライドへと送り、そしてフレンダル、カーマインのどちらかに転生させているのだ。


それがこの俺【転生管理者】アストラル教会所属 第一星巡ほしめぐりのまとめ
“トレアール”こと、レナトゥス・リィン・リーディルクだったりするのだ――
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