五つの星々、転生管理ー星巡りの護りビトー

神谷凪紗

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第一章 【第一星巡り部隊】

第十二節 道を示すのは

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◇◇◇


教会に戻ってきた俺は司教を探して長い回廊を歩いていたのだが、どこを探しても見当たらなかった。

気落ちしながら歩いていれば、途中すれ違ったユーベルク司祭にぎょっとした顔で見られ、半ば強引に司祭の執務室兼寝室へと連れてこられた。教会の隠し扉から、廊下一本で繋がるそこは俺の部屋もあり、部隊に入った今でも使っている。

エトワルは俺を教会に送り届けた後、宿所に戻っていった。
教会で少し休んでいけば。とも思ったが、本人曰く司祭の顔を見たくないがゆえに用事があるとき以外は教会内に立ち入りたくないのだという。

嫌い、というよりは礼儀作法、言葉遣いに厳しい司祭に苦手意識を持っているようだ。

エトワルと別れ、司祭の部屋に通された俺はついさっき見た光景を口頭で伝えた。
報告する際“視覚同調魔法”を使うとばかり思っていたのだが、予想に反し司祭は口頭で伝えるよう言ってきた。普段から魔法で報告していたために、いざ言葉で表そうとなると何を言ったらいいのか思いつかない。

何度も言葉に詰まりながら、思い出せたことから順に話していった。

「そうですか…“属性返り”を目の前で」
「俺…いえ、私は属性魔力を己の魔力で中和せず、直で扱うことでその魂までもが属性魔力と化す“属性返り”を知っていました。知識では、知っていました。けれど、実際目の当たりにして…私は、私は、何もできませんでした」

知っていたのだ。
おばさまの体に起きていた異変を、エトワルに言われた時から知っていた。

大気中に存在する属性魔力は、草や木、水や土、岩などから自然とあふれ出る力の素。
その属性魔力を用い、火をつけたり、作物を元気にさせたり、空に物を飛ばしたりっといろいろなことができる。己の魔力のみでは到底できないようなこともできるが、その分、身を亡ぼす凶器になりうることだってある。

その一つが属性返りだ。

この世界の魂は、循環することがない。
それ故にこの世界に生まれ、この世界で死に、そしてまたこの世界に生まれ落ちる。

本来であれば、属性魔力は自然物から成るものだ。
しかし間違った使い方をし、体の内に溜まりに溜まってしまった属性魔力は次第に魂まで蝕んでいき、その魂ごと属性魔力に変えてしまう。

存在が消え、魂がこの世界に生まれ落ちることなく、大気中の属性魔力と化す。

知識としては、知っていた。
知っていたのに―――

「助けるべき魂を、救えませんでした」

涙を流せるほど仲のいい人だったわけじゃないけれど、それでも、胸に鉛が落ちたみたく重くて、動けない。
一つの存在が跡形もなく消え、痕跡すらも残さず、転生することもかなわず、亡くなっていった。転生を助ける存在である星巡り部隊が、俺がいたのにも関わらず、消えていく魂を救うことができなかった。

頭に重りがのったみたく、俯いたまま顔を上げることができない。

ポン、っと優しく肩に触れた手。
それに導かれるように重たい頭を上げれば、その瞬間に力強く背中をたたかれる。

「ーッ痛!!」
「顔を上げなさい。何を落ち込む必要があるのですか」
「けど、兄さん。俺は――」
「突然声をかけてきたお婆様を、貴方は消えていく最後の最後まで見守ってあげていたのでしょう?それとも放置してここまできたのですか?」
「いえ、最後まで…見守りました」
「ならば、背筋を伸ばしなさい。前を向きなさい。悔やむ感情で、そのお婆様の最後の姿を覆ってはいけません。私たちは、魂を助け、転生を導く者です。そして失った魂も、その心に留め、覚えておくことも私たちの使命です。レナトゥス・リィン・リーディルク、心に、留めておきなさい」

――そのお婆様が、生きていたことも、全て。

「――ッはい」

力強く声を張り上げる俺に司祭はやっと一息ついたように表情を緩める。

司祭に言われてもあの時見た光景が頭から離れないままだったが、心は幾分か落ち着いた。後悔するのではなく、前を見据え覚えておくことがおばさまのためになるのならば、そうあろうと思えたから。

ユーベルク司祭は、不思議な人だ。
厳格で、礼儀作法に厳しく、品のない行動を好まない。相手に向ける言葉も、知らない人からすればとげとげしく感じるようで、部隊の中でも司祭を苦手と思う相手は多い。

けれどその実、教会に訪れた人に向ける司祭の姿は普段と違うように俺は思えた。

口調も、態度も普段と全く変わらない筈なのに、纏う雰囲気は迷い子を安心させるかのように朗らかだ。
氷のように冷たくも感じられる些細な一言も、熱に浮かされた体にはちょうど良く思えるように、迷い、困惑し、悔やむ気持ちを氷解させ進むべき道を諭してくれる。

決して強引なやり方ではない、けれど相手に合わせたやり方でもない。
厳格で、礼儀作法に厳しく、けれど相手を客観的に見て、諭し、事細かな助言の行える司祭だけができる相手を導く手段。

幼いころから傍で見てきて、そんな司祭の言葉にいつも助けられていた気がする。
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