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第一章 【第一星巡り部隊】
第十五節 怒りの理由
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「な、なにを」
「……――確かに私は貴方に『器用にできないから、自分で制御なさい』と言いました。貴方は私のその言葉を聞いてあのような手段にでたのでしょう。理解できます。司祭の私としては、とっさの判断としては可もなく不可もなく、といったところですが」
声音は普段と変わらないはずなのに、俺に言っているようで聞かせるつもりなどないほど早口でまくし立てる司祭のその行動に、俺はたらりと冷や汗を溢す。
俺を見ているようで見ていないその瞳は、明らかに何かに対して怒りを抱いている。
その怒りに対してハッキリとした理由を見つけられないが、おそらく禁忌の呪封じを解呪する際に俺が行った行動についてじゃないかと、考えた。
ー足りない風の属性魔力を、俺の魔力で補った。
その行動に、怒っているのだ。
「しかし、私は許せません。納得がいかない。貴方の兄である私としては、貴方がとったあの行動を許せないのです。レナト!」
「だ、だけど兄さん。あの時大気中にある風の属性魔力が足りなさ過ぎたんだ。あの少なさだと、解呪することは絶対できなかったんだ。だから俺の魔力で補った。結果として成功したし、俺も無事だったんだから―」
「何が無事なものですか。一歩間違えば、魔力欠乏に至っていたのですよ!」
俺が行った足りない属性魔力を、自身の魔力で“補う”行為は大きな身体負荷にかかわる。
理由は単純に魔力よりも、属性魔力のほうがはるかに強いため。
魔石に込められる最大蓄積魔力量が一とするならば、属性魔力は十もの力を秘めているから。だからこそ足りない分を魔力で補うとすれば、その属性魔力に匹敵するほどの魔力を消費させなければならない。
保有魔力を属性魔力に変換することができれば便利だろうが、そんな芸当はいかに魔力量が高い相手といえど絶対にできることではない。
自然エネルギーから生まれた純然たる属性魔力と、己の体内で血液と等しく流れる保有魔力とでは土台の作りがそもそも違うからだ。
無から有は作れぬように。
己の生命力から、自然のエネルギーなど作り出せるはずもない。
「魔力、欠乏…」
「私たちが保有する魔力は、いわば第二の血液。血液と違い、多くを失ってもすぐに死に至ることはありませんが、回復するまでに三日、相手によっては一週間は失神状態のままです」
俺の目を真っすぐに見据え声音を震わせるユーベルク司祭。
泣きそうにも見えるその表情を真正面から見てしまえば、何も言い返す言葉が思い浮かばない。俺が行ったことで、俺の家族を心配させるような真似はすべきではない。
それがたとえ成功だったとしても、心配かけた時点で失敗のようなものだ。
「……ごめん、兄さん」
小さく溢すように謝れば、司祭は複雑そうな顔をしながらも頬に触れる手を放してくれた。
「体はなんともないのですね」
「ああ」
未だ心配そうな目線を向ける司祭に大きく頷いて返す。
実際、体はすこぶる元気だ。
怠さもなければ、眩暈すらなく、体内にある保有魔力も危険視するほどの量ではない。少し体が火照って、体の節々の痛さはあるもののこれはら疲労からくるものだろう。
ぺたぺたと頬に触れ、じっと俺の瞳を覗き込んだ後司祭はゆっくりとその手を放す。
「レナト。少し私に付き合ってもらえますか」
言いながら水の桶、赤色の蝋、小皿に乗った土を持ち上げ司教はすたすたと歩いていってしまう。
追いかけるように司祭の後に続き、俺も部屋を出た。
◇◇◇
教会へと続く通路の手前まで歩んでいた司祭の背中に向けて声をかける。
「兄さん、仕事は大丈夫なのか?俺も手伝おうか」
「必要ありません」
俺の言葉をバッサリと切り捨てる司祭の態度に、軽く吐息をついてゆっくりと後ろをついて歩いた。
司祭が歩む速度と共に、真っ白な羽織がゆらゆらと揺れる。俺の部隊の羽織とは真逆の色合いは、光が反射してさまざまな色に変えていく。
ちらりと真横に視線をむければ、赤色の空に負けぬ様々な色合いのステンドグラス。
通路の両壁には煌びやかなステンドグラスが散りばめられ、普段は真っ白な足元を賑やかな色合いに染め上げてくれる。今の時間帯は特に、赤色が目立っていて目がくらむほどだ。
見慣れた筈のその光景に、なぜだか凄く見惚れてしまう。
「向こうにも、教会にステンドグラスがあったん…――うわっ!」
よそ見しながら歩いていたせいで、急に立ち止まった司祭の背中にぶつかってしまう。
軽く鼻をさすりながら司祭を見れば、教会の扉の前で立ち止まり微動だにしない。何かあったのだろうか。疑問に思うよりも先に「そうですか」っと相槌をうってくる。
言葉はそっけないものの態度では話を聞いてくれるつもりな司祭の態度に、俺は喜びを隠しきれず弾んだ声音で続きを喋った。
「……――確かに私は貴方に『器用にできないから、自分で制御なさい』と言いました。貴方は私のその言葉を聞いてあのような手段にでたのでしょう。理解できます。司祭の私としては、とっさの判断としては可もなく不可もなく、といったところですが」
声音は普段と変わらないはずなのに、俺に言っているようで聞かせるつもりなどないほど早口でまくし立てる司祭のその行動に、俺はたらりと冷や汗を溢す。
俺を見ているようで見ていないその瞳は、明らかに何かに対して怒りを抱いている。
その怒りに対してハッキリとした理由を見つけられないが、おそらく禁忌の呪封じを解呪する際に俺が行った行動についてじゃないかと、考えた。
ー足りない風の属性魔力を、俺の魔力で補った。
その行動に、怒っているのだ。
「しかし、私は許せません。納得がいかない。貴方の兄である私としては、貴方がとったあの行動を許せないのです。レナト!」
「だ、だけど兄さん。あの時大気中にある風の属性魔力が足りなさ過ぎたんだ。あの少なさだと、解呪することは絶対できなかったんだ。だから俺の魔力で補った。結果として成功したし、俺も無事だったんだから―」
「何が無事なものですか。一歩間違えば、魔力欠乏に至っていたのですよ!」
俺が行った足りない属性魔力を、自身の魔力で“補う”行為は大きな身体負荷にかかわる。
理由は単純に魔力よりも、属性魔力のほうがはるかに強いため。
魔石に込められる最大蓄積魔力量が一とするならば、属性魔力は十もの力を秘めているから。だからこそ足りない分を魔力で補うとすれば、その属性魔力に匹敵するほどの魔力を消費させなければならない。
保有魔力を属性魔力に変換することができれば便利だろうが、そんな芸当はいかに魔力量が高い相手といえど絶対にできることではない。
自然エネルギーから生まれた純然たる属性魔力と、己の体内で血液と等しく流れる保有魔力とでは土台の作りがそもそも違うからだ。
無から有は作れぬように。
己の生命力から、自然のエネルギーなど作り出せるはずもない。
「魔力、欠乏…」
「私たちが保有する魔力は、いわば第二の血液。血液と違い、多くを失ってもすぐに死に至ることはありませんが、回復するまでに三日、相手によっては一週間は失神状態のままです」
俺の目を真っすぐに見据え声音を震わせるユーベルク司祭。
泣きそうにも見えるその表情を真正面から見てしまえば、何も言い返す言葉が思い浮かばない。俺が行ったことで、俺の家族を心配させるような真似はすべきではない。
それがたとえ成功だったとしても、心配かけた時点で失敗のようなものだ。
「……ごめん、兄さん」
小さく溢すように謝れば、司祭は複雑そうな顔をしながらも頬に触れる手を放してくれた。
「体はなんともないのですね」
「ああ」
未だ心配そうな目線を向ける司祭に大きく頷いて返す。
実際、体はすこぶる元気だ。
怠さもなければ、眩暈すらなく、体内にある保有魔力も危険視するほどの量ではない。少し体が火照って、体の節々の痛さはあるもののこれはら疲労からくるものだろう。
ぺたぺたと頬に触れ、じっと俺の瞳を覗き込んだ後司祭はゆっくりとその手を放す。
「レナト。少し私に付き合ってもらえますか」
言いながら水の桶、赤色の蝋、小皿に乗った土を持ち上げ司教はすたすたと歩いていってしまう。
追いかけるように司祭の後に続き、俺も部屋を出た。
◇◇◇
教会へと続く通路の手前まで歩んでいた司祭の背中に向けて声をかける。
「兄さん、仕事は大丈夫なのか?俺も手伝おうか」
「必要ありません」
俺の言葉をバッサリと切り捨てる司祭の態度に、軽く吐息をついてゆっくりと後ろをついて歩いた。
司祭が歩む速度と共に、真っ白な羽織がゆらゆらと揺れる。俺の部隊の羽織とは真逆の色合いは、光が反射してさまざまな色に変えていく。
ちらりと真横に視線をむければ、赤色の空に負けぬ様々な色合いのステンドグラス。
通路の両壁には煌びやかなステンドグラスが散りばめられ、普段は真っ白な足元を賑やかな色合いに染め上げてくれる。今の時間帯は特に、赤色が目立っていて目がくらむほどだ。
見慣れた筈のその光景に、なぜだか凄く見惚れてしまう。
「向こうにも、教会にステンドグラスがあったん…――うわっ!」
よそ見しながら歩いていたせいで、急に立ち止まった司祭の背中にぶつかってしまう。
軽く鼻をさすりながら司祭を見れば、教会の扉の前で立ち止まり微動だにしない。何かあったのだろうか。疑問に思うよりも先に「そうですか」っと相槌をうってくる。
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