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第一章 【第一星巡り部隊】
第二十三節 ひと時の合間に
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少し遅いが、俺たち家族の時間だ。
人数分ありながらも、種類の多い料理はゆっくりと消費されていく。
食べている間、俺たちが言葉を交わすことはない。
カップをソーサーに置く音や、皿に当たったフォークの音、小さな衣擦れの音が、静かな時間の中で響き渡る。まるで小さな音楽会を開いているような感覚に、喉の奥から小さく笑いがこみあげてくる。
音に出さないようにと口を固く閉じたが、ふふっと口端から音が溢れてしまう。
ー楽しい、幸せだと思う。
単独依頼の時は、すべて一人でこなしていた。
情報収集も、睡眠も、食事も。だからか、自分以外の誰かとー家族と一緒にいられるこの時間が、本当に幸せで仕方ない。
俺の笑い声に、兄さんも父さんも一度だけ視線を向け、静寂をかき消さない声量で笑ってくれた。
―――
俺と父さん、兄さんの三人では到底食べきれなかった分は鮮度維持のために、保冷魔法をかけ厨房の倉庫内に入れておく。
食器の片づけをするのは主に俺の仕事だ。
洗い場に食器を置いて、属性魔力の力を使った簡易的な水質濾過魔法を扱いながら、汚れを取り除いていく。
―基本的にこの世界では属性魔力の恩恵を直に受けている。
食器を洗うのも、洗濯物を洗うのにも、髪を洗うのにもすべて属性魔力の力を扱う必要がある。
幸いにも、ルベライドではすべての属性魔力粒子が何をせずとも沸き上がってくる。その理由を説明するなら、全て魂の循環によるもの。
ルベライドがすべての属性魔力粒子を保有しているのは、他四つの世界に保有されている属性魔力粒子が魂と共にこちらに運ばれてくるからだ。
今のところ属性魔力枯渇の心配はないものの、時間帯によっては極端に減ったり増えたりしてしまうため、安定して扱えないのが弱点ではある。
(アースでは…セッケンを使って全て綺麗にしていたな)
魔力の扱えない世界では、己の技術によって作り出されたものを扱い過ごしていた。
こちらでもその技術を扱えないかと考えたこともあったが、そもそも“セッケン”を一から作り上げるための材料がこの世界には存在しなかったのだ。
最後の一つを洗い終えたところで、俺はふと気づく。
「…カップが足りない?」
気のせいだろうか。
何度も繰り返し数えてみるが、やはり一つ足りない。いつも兄さんが紅のお茶を飲む時に使う、翆のカップだ。
洗い場を出て、一室に戻れば食後のお茶を入れる兄さんの姿。
「兄さん、カップが一つなくなってるみたいなんだ」
「カップ?」
「俺が兄さんにあげた、お揃いの…翆のカップがないんだ」
「あぁ、あれは…その。私の不注意で、割ってしまいまして…。直すことも出来ず、かといってレナトに貰ったカップを捨てることなんて私に出来る筈もなく…別の場所に保管しているのです」
「割った…って」
俺が頭の痛みに悶えていた時に聞こえてきた高い音は、もしかしなくても兄さんのカップが割れた時のものだったんじゃ。
夕の時間の時、紅のお茶を入れてくれたのは父さんだ。
父さん専用のティーポッドとカップを俺も兄さんも使っていたため気が付かなかったけれど、今机の上にあるのは俺の蒼のカップと予備用の白無地のカップだけ。
「すみませんでした、レナト」
「何で兄さんが謝るんだよ?俺も悪かったんだからお相子だし、割っちゃったのはしょうがないって。父さんの分も一緒に、三人お揃いの買ってくるから」
「カップの件もそうなんですが…貴方の異変にすぐに気づくことが出来なかった。私は、貴方の兄失格ですね」
落ち込んむように顔を伏せる兄さん。
俺自身も、自分の体の不調が全く感じられなかった。
気絶する前の記憶を思い出してみても、頭痛や吐き気も何も感じていなかったことは覚えている。
「なぁ、兄さん。気絶した時の俺ってさ、そんなに魔力少なかったのか?」
「…ええ。初期症状として現れる高熱と意識の混濁が表立っていました。別の可能性も考え、あの一室から出た直後に魔力循環器系の臓がある腹部に触れてみたのですが、触れた魔力は普段の約一割…いえ、一割にも満たないほどです。それ以降は私も動揺が激しく、確認してはいませんでしたが、レナトの魔力は枯渇寸前だったのではないかと」
兄さんが言うには俺の保有魔力が枯渇寸前ー魔力欠乏に至るまでに低下していたようだが、俺の体感ではあれから一日を終える分だけの魔力が残っていたはずなんだ。
それがいきなり、何かに吸われてしまったかのようにすべてなくなってしまった。
「そんな魔力使った記憶ないんだけどな…」
「禁忌の呪封じの解呪の際、属性魔力を己の魔力で肩代わりしたのお忘れですか、レナト」
「うぐ、忘れてないです…」
「とはいえ、レナトが保有魔力の低下を自覚できていなかったことに私は疑問を覚えます。自覚症状は一切なかったのですか?」
「ない。今日一日終えるくらいの魔力はあったよ」
この世界に戻ってくる際に使った魔力陣は、属性魔力の力を使うモノ。
保有魔力も扱うが、アース世界では魔力が封じられている俺には扱うことが出来ないため、導であるステラの魔力を主にしており、俺の魔力の消費は微々たるものだ。
解呪の際に扱った保有魔力の量はかなりのものだったが、それでも三分の一ほどの保有魔力が体内に残っていた。
それだけあれば、一日を終えるくらいなんてことない量だった筈なんだ。
人数分ありながらも、種類の多い料理はゆっくりと消費されていく。
食べている間、俺たちが言葉を交わすことはない。
カップをソーサーに置く音や、皿に当たったフォークの音、小さな衣擦れの音が、静かな時間の中で響き渡る。まるで小さな音楽会を開いているような感覚に、喉の奥から小さく笑いがこみあげてくる。
音に出さないようにと口を固く閉じたが、ふふっと口端から音が溢れてしまう。
ー楽しい、幸せだと思う。
単独依頼の時は、すべて一人でこなしていた。
情報収集も、睡眠も、食事も。だからか、自分以外の誰かとー家族と一緒にいられるこの時間が、本当に幸せで仕方ない。
俺の笑い声に、兄さんも父さんも一度だけ視線を向け、静寂をかき消さない声量で笑ってくれた。
―――
俺と父さん、兄さんの三人では到底食べきれなかった分は鮮度維持のために、保冷魔法をかけ厨房の倉庫内に入れておく。
食器の片づけをするのは主に俺の仕事だ。
洗い場に食器を置いて、属性魔力の力を使った簡易的な水質濾過魔法を扱いながら、汚れを取り除いていく。
―基本的にこの世界では属性魔力の恩恵を直に受けている。
食器を洗うのも、洗濯物を洗うのにも、髪を洗うのにもすべて属性魔力の力を扱う必要がある。
幸いにも、ルベライドではすべての属性魔力粒子が何をせずとも沸き上がってくる。その理由を説明するなら、全て魂の循環によるもの。
ルベライドがすべての属性魔力粒子を保有しているのは、他四つの世界に保有されている属性魔力粒子が魂と共にこちらに運ばれてくるからだ。
今のところ属性魔力枯渇の心配はないものの、時間帯によっては極端に減ったり増えたりしてしまうため、安定して扱えないのが弱点ではある。
(アースでは…セッケンを使って全て綺麗にしていたな)
魔力の扱えない世界では、己の技術によって作り出されたものを扱い過ごしていた。
こちらでもその技術を扱えないかと考えたこともあったが、そもそも“セッケン”を一から作り上げるための材料がこの世界には存在しなかったのだ。
最後の一つを洗い終えたところで、俺はふと気づく。
「…カップが足りない?」
気のせいだろうか。
何度も繰り返し数えてみるが、やはり一つ足りない。いつも兄さんが紅のお茶を飲む時に使う、翆のカップだ。
洗い場を出て、一室に戻れば食後のお茶を入れる兄さんの姿。
「兄さん、カップが一つなくなってるみたいなんだ」
「カップ?」
「俺が兄さんにあげた、お揃いの…翆のカップがないんだ」
「あぁ、あれは…その。私の不注意で、割ってしまいまして…。直すことも出来ず、かといってレナトに貰ったカップを捨てることなんて私に出来る筈もなく…別の場所に保管しているのです」
「割った…って」
俺が頭の痛みに悶えていた時に聞こえてきた高い音は、もしかしなくても兄さんのカップが割れた時のものだったんじゃ。
夕の時間の時、紅のお茶を入れてくれたのは父さんだ。
父さん専用のティーポッドとカップを俺も兄さんも使っていたため気が付かなかったけれど、今机の上にあるのは俺の蒼のカップと予備用の白無地のカップだけ。
「すみませんでした、レナト」
「何で兄さんが謝るんだよ?俺も悪かったんだからお相子だし、割っちゃったのはしょうがないって。父さんの分も一緒に、三人お揃いの買ってくるから」
「カップの件もそうなんですが…貴方の異変にすぐに気づくことが出来なかった。私は、貴方の兄失格ですね」
落ち込んむように顔を伏せる兄さん。
俺自身も、自分の体の不調が全く感じられなかった。
気絶する前の記憶を思い出してみても、頭痛や吐き気も何も感じていなかったことは覚えている。
「なぁ、兄さん。気絶した時の俺ってさ、そんなに魔力少なかったのか?」
「…ええ。初期症状として現れる高熱と意識の混濁が表立っていました。別の可能性も考え、あの一室から出た直後に魔力循環器系の臓がある腹部に触れてみたのですが、触れた魔力は普段の約一割…いえ、一割にも満たないほどです。それ以降は私も動揺が激しく、確認してはいませんでしたが、レナトの魔力は枯渇寸前だったのではないかと」
兄さんが言うには俺の保有魔力が枯渇寸前ー魔力欠乏に至るまでに低下していたようだが、俺の体感ではあれから一日を終える分だけの魔力が残っていたはずなんだ。
それがいきなり、何かに吸われてしまったかのようにすべてなくなってしまった。
「そんな魔力使った記憶ないんだけどな…」
「禁忌の呪封じの解呪の際、属性魔力を己の魔力で肩代わりしたのお忘れですか、レナト」
「うぐ、忘れてないです…」
「とはいえ、レナトが保有魔力の低下を自覚できていなかったことに私は疑問を覚えます。自覚症状は一切なかったのですか?」
「ない。今日一日終えるくらいの魔力はあったよ」
この世界に戻ってくる際に使った魔力陣は、属性魔力の力を使うモノ。
保有魔力も扱うが、アース世界では魔力が封じられている俺には扱うことが出来ないため、導であるステラの魔力を主にしており、俺の魔力の消費は微々たるものだ。
解呪の際に扱った保有魔力の量はかなりのものだったが、それでも三分の一ほどの保有魔力が体内に残っていた。
それだけあれば、一日を終えるくらいなんてことない量だった筈なんだ。
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