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第一章 【第一星巡り部隊】
第二十二節 暖かいひと時
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◇◇◇
俺と兄さんの部屋から通路を挟んで反対側に位置するその場所は、俺たち家族が毎食共にする場所だ。
白を基調とした広めのスペースに楕円形の机が一つ置かれ、その周りに三脚の椅子。それぞれ、俺、兄さん、父さんが座っているもの。
いつも通りに椅子に座り、目の前に置かれたカップに手を伸ばす。
「…落ち着いたかの、レナト」
静かで落ち着いた声音。
その問いに頷いて返し、俺はゆっくりカップに口をつけた。
俺好みな濃さ、鼻孔をくすぐる柔らかな香り、適温に冷まされたそれは、隠し味に蜜を溶かし込んであるのかじんわりとした甘さが広がっていて、俺は何度もカップを傾けてしまう。
「父さんが入れてくれる紅のお茶…すごく好きだ」
はっと息を溢しながら呟いた言葉に、父さんは嬉しそうに眦を下げていた。
シンと静かな一室。
だけど、俺の部屋の時のような心細さは感じない。傍に家族がいてくれるだけで、こんなにも安心する。
残り少なくなったカップを置きながら、ふと兄さんの姿が見えないことに気づく。それと同時に一室の奥からかすかに香ばしい香りが漂ってきていた。
「いい匂いがする」
「レナトのために、ステイが今料理を作ってくれているそうだよ。楽しみだのぅ」
「料理…」
椅子から下りた俺は、厨房にいる兄さんのところまで向かう。
扉を開け、中を覗いてみると同時に俺の好きな料理の数々が瞳に飛び込んでくる。どの料理も三人前分はあるものの、種類が多く、厨房備え付けの机いっぱいに置かれて、今にも落ちそうなくらいだ。
中にいる兄さんはこれだけ作っても尚、まだ何か作っているようで忙しなく厨房内を歩き回っている。
「…これ流石に作りすぎなんじゃ」
呆然と見据え、溢した言葉は意識していたより弱々しくなってしまった。
俺が入ってきたことにも、言葉すらも聞こえていない様子の兄さんは、料理を作り終え皿に移し、机に置こうと後ろを振り返ったタイミングでようやく俺の存在に気が付き。
「レナト」
ポツリ、と一言呟いた。
その声音は中身が籠っていないように感じられるほど空虚で、見据えた瞳はひどく濁っているように見えて、俺は一瞬体を強張らせてしまう。
「兄さん、俺も父さんもこんなには食べれないって」
強張った体に知らぬふりをして、立ち竦んでしまった兄さんに普段通りに声をかける。
調子よく兄さんに言葉を伝え続けていくうちに、無表情だった顔がだんだんと怒りにも悲しみにも見える表情に変わっていく。
「レナトッ…!!」
先ほどまでの空虚な声音も、跡形もなく消えていた。
「もう大丈夫なのですか!?頭の痛みは?気持ち悪さはないですか?ああッ、何度私に心配かければ気が済むのですか!あれほど無理はするなとっ!気を失った貴方を見た時、私がどれだけ心配したかッ!それよりも立っても大丈夫なのですか!?何で座っていないんですか、父さんも傍にいたでしょう!!」
思わず耳を塞いでしまうほどの大音声と共に、肩を思い切り掴まれまくしたててくる。
支離滅裂な言葉と、心配と怒りを存分にのせた声音が塞いだ掌をすり抜け、俺の鼓膜におもいきり突き刺さって耳が痛い。それでも、その痛みの分だけ兄さんは俺を心配してくれていたのだ。
甘んじて受け止めるしか、俺には返せるものがない。
「…気絶した貴方に触れた時、驚くほど体が熱くかった。触れて分かるほどに保有魔力が枯渇しかけていたんですよ。あの場所は範囲魔法と空間認知の魔力陣、二つの魔法が混在していて応急処置すらできなかった。抱えて走っているうちに、貴方の呼吸が弱くなってくのを感じて……」
肩を掴まれたまま、ゴツンっと力強く額をぶつけられる。
「ホンマ勘弁してぇな。失うとこなん、もう二度と見たくないんよ。…バカやろう」
痛いほどの心配をその身に受けながらも、俺は兄さんの口調に驚いてしまう。
久々に聞いた、兄さんの素。
昔はずっとこの口調でしゃべっていたのに、いつ頃からか今のように変わってしまっていた。教会に勤める以上それなりの言葉遣いが必要だったのだろう。
分かってはいても、違和感がぬぐえなかったんだ。
けど久々に兄さんの素の口調を聞いて、昔に戻ったような安心感に思わず笑ってしまう。
「なん笑っとん」
「へへへ…兄さんは、兄さんだなぁって」
「なんや意味の分からん。僕の言っとる意味分かっとるんか?」
「うん、分かってるよ。もう無茶しないって」
「本当かやぁ…」
「本当だって」
呆れた様子の兄さんだが、気にせず笑みを浮かべてしまう。
何度言っても変わらない俺の返答に折れたのは、兄さんの方だった。大きな溜息を溢して肩に置いた手をどけてくれる。咳ばらいを一つ溢した後、料理の皿を手に取った。
「……料理が冷めてしまいます。父さんのとこまで持っていきますよ」
「今俺と父さんしか居ないんだから、さっきの口調のままでも…」
「ほら、レナト。いきますよ」
「…兄さんって、そういうとこ頑なだよな」
兄さんに伴って大きめの盆の上に料理の皿をのせ、父さんのとこまで持っていく。
父さんは父さんで、お茶の準備をして待ってくれていたようで机の上には三人分のカップとティーポッド。そして兄さんの料理が並んだ。
――――
memo
紅のお茶は文字の通り紅茶のことです。
更新頻度が低下しますが、月曜日更新は継続していきます。
私生活が忙しいため毎週というわけにはいかなくなってきました。気が向いたときに覗いてもらえれば、と思っております。
俺と兄さんの部屋から通路を挟んで反対側に位置するその場所は、俺たち家族が毎食共にする場所だ。
白を基調とした広めのスペースに楕円形の机が一つ置かれ、その周りに三脚の椅子。それぞれ、俺、兄さん、父さんが座っているもの。
いつも通りに椅子に座り、目の前に置かれたカップに手を伸ばす。
「…落ち着いたかの、レナト」
静かで落ち着いた声音。
その問いに頷いて返し、俺はゆっくりカップに口をつけた。
俺好みな濃さ、鼻孔をくすぐる柔らかな香り、適温に冷まされたそれは、隠し味に蜜を溶かし込んであるのかじんわりとした甘さが広がっていて、俺は何度もカップを傾けてしまう。
「父さんが入れてくれる紅のお茶…すごく好きだ」
はっと息を溢しながら呟いた言葉に、父さんは嬉しそうに眦を下げていた。
シンと静かな一室。
だけど、俺の部屋の時のような心細さは感じない。傍に家族がいてくれるだけで、こんなにも安心する。
残り少なくなったカップを置きながら、ふと兄さんの姿が見えないことに気づく。それと同時に一室の奥からかすかに香ばしい香りが漂ってきていた。
「いい匂いがする」
「レナトのために、ステイが今料理を作ってくれているそうだよ。楽しみだのぅ」
「料理…」
椅子から下りた俺は、厨房にいる兄さんのところまで向かう。
扉を開け、中を覗いてみると同時に俺の好きな料理の数々が瞳に飛び込んでくる。どの料理も三人前分はあるものの、種類が多く、厨房備え付けの机いっぱいに置かれて、今にも落ちそうなくらいだ。
中にいる兄さんはこれだけ作っても尚、まだ何か作っているようで忙しなく厨房内を歩き回っている。
「…これ流石に作りすぎなんじゃ」
呆然と見据え、溢した言葉は意識していたより弱々しくなってしまった。
俺が入ってきたことにも、言葉すらも聞こえていない様子の兄さんは、料理を作り終え皿に移し、机に置こうと後ろを振り返ったタイミングでようやく俺の存在に気が付き。
「レナト」
ポツリ、と一言呟いた。
その声音は中身が籠っていないように感じられるほど空虚で、見据えた瞳はひどく濁っているように見えて、俺は一瞬体を強張らせてしまう。
「兄さん、俺も父さんもこんなには食べれないって」
強張った体に知らぬふりをして、立ち竦んでしまった兄さんに普段通りに声をかける。
調子よく兄さんに言葉を伝え続けていくうちに、無表情だった顔がだんだんと怒りにも悲しみにも見える表情に変わっていく。
「レナトッ…!!」
先ほどまでの空虚な声音も、跡形もなく消えていた。
「もう大丈夫なのですか!?頭の痛みは?気持ち悪さはないですか?ああッ、何度私に心配かければ気が済むのですか!あれほど無理はするなとっ!気を失った貴方を見た時、私がどれだけ心配したかッ!それよりも立っても大丈夫なのですか!?何で座っていないんですか、父さんも傍にいたでしょう!!」
思わず耳を塞いでしまうほどの大音声と共に、肩を思い切り掴まれまくしたててくる。
支離滅裂な言葉と、心配と怒りを存分にのせた声音が塞いだ掌をすり抜け、俺の鼓膜におもいきり突き刺さって耳が痛い。それでも、その痛みの分だけ兄さんは俺を心配してくれていたのだ。
甘んじて受け止めるしか、俺には返せるものがない。
「…気絶した貴方に触れた時、驚くほど体が熱くかった。触れて分かるほどに保有魔力が枯渇しかけていたんですよ。あの場所は範囲魔法と空間認知の魔力陣、二つの魔法が混在していて応急処置すらできなかった。抱えて走っているうちに、貴方の呼吸が弱くなってくのを感じて……」
肩を掴まれたまま、ゴツンっと力強く額をぶつけられる。
「ホンマ勘弁してぇな。失うとこなん、もう二度と見たくないんよ。…バカやろう」
痛いほどの心配をその身に受けながらも、俺は兄さんの口調に驚いてしまう。
久々に聞いた、兄さんの素。
昔はずっとこの口調でしゃべっていたのに、いつ頃からか今のように変わってしまっていた。教会に勤める以上それなりの言葉遣いが必要だったのだろう。
分かってはいても、違和感がぬぐえなかったんだ。
けど久々に兄さんの素の口調を聞いて、昔に戻ったような安心感に思わず笑ってしまう。
「なん笑っとん」
「へへへ…兄さんは、兄さんだなぁって」
「なんや意味の分からん。僕の言っとる意味分かっとるんか?」
「うん、分かってるよ。もう無茶しないって」
「本当かやぁ…」
「本当だって」
呆れた様子の兄さんだが、気にせず笑みを浮かべてしまう。
何度言っても変わらない俺の返答に折れたのは、兄さんの方だった。大きな溜息を溢して肩に置いた手をどけてくれる。咳ばらいを一つ溢した後、料理の皿を手に取った。
「……料理が冷めてしまいます。父さんのとこまで持っていきますよ」
「今俺と父さんしか居ないんだから、さっきの口調のままでも…」
「ほら、レナト。いきますよ」
「…兄さんって、そういうとこ頑なだよな」
兄さんに伴って大きめの盆の上に料理の皿をのせ、父さんのとこまで持っていく。
父さんは父さんで、お茶の準備をして待ってくれていたようで机の上には三人分のカップとティーポッド。そして兄さんの料理が並んだ。
――――
memo
紅のお茶は文字の通り紅茶のことです。
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