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第二章 【世界を護る役割】
第六節 水面下で進む嵐
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◆◆◆
「っだから、それはダメなんだよ!マルケス、お願いだ」
僕は大声を上げる。
場所なんて関係ない、今すぐに止めないといけない。手放してほしい。
「大丈夫だって、お前が心配するようなことはおきてない」
君はそういうけれど、僕は恐ろしくてたまらない。
ああ、そうさ。怖いんだ、ソレは人の身に余る強烈な力だ。今は何も起きていなくても、今後も何も起こらないとは限らない。
今もそう、背筋が粟立ち震えるような恐怖心が止まらない。
母様に仕立ててもらった服の裾を握りしめながら、懇願するように君に語る。僕の親友、変えの利かない幼馴染。失いたくない存在が、たった一つの装飾品によって脅かされている。
「マルケス、お願いだから…そのペンダントを手放してくれ。それは良くないものなんだよ、信じてくれ…!」
「幼馴染のお前の願いは聞き届けてやりたいが……悪い、俺はこれがいいんだ。―これじゃなきゃ、ダメなんだよ」
惚れた相手に向ける視線のように恍惚とて、マルケスはそのペンダントをゆるく撫でる。
本当に愛おしそうに、慈愛に満ちた瞳で撫で続ける。一回、二回と撫で続けていくうちに暗紫に輝いていくそのペンダントは、僕が初めて見た時はもっと真っ黒だった。
―漆黒と呼べるほど真っ黒だったそのペンダントが、だんだん、だんだんと彩度を上げて、暗紫に輝くその姿が不吉に見えてしょうがない。
「―――ッ」
もう限界だった。
耐えられない。そのペンダントが醸し出す恐ろしい気配に、本能的な恐怖を感じてその場に座り込んでしまう。
マルケスは座り込んだ僕にはっと意識を戻して、駆け寄ってくれる。
「クリステル…!とと、仕舞っておかないとな」
普段通りに戻ったように見えて、戻っていない。僕を心配しながら、意識だけはずっとペンダントに向けている。手に持ったペンダントを愛おし気に懐にしまいながら、僕を心配するその姿に怖気が走る。
―狂っている。
助け起こそうとする親友のその手を払いのけて、僕は部屋を飛び出した。
「姉様、姉様ッ…!」
すでに見慣れてしまった煌びやかな廊下を走りながら、一心不乱に外へと向かう。途中、侍女を連れた母様達がすれ違った際に「はしたない!」っと叱られても気に留めず、逃げ出していく。
僕じゃ何もできない。
感じる力のない母様達に言っても、きっと分かってくださらない。
けど姉様なら。僕と同じで感じる力の強い姉様なら、助けてくれる。親友を、僕を救ってくれる。
息が切れるほど走りながら、外へと続く城扉に手をかけ、僕は
―フレーデル家から、飛び出した。
◇◇◇
無事、第八星巡り部隊の隊室にたどり着き、エルルカ・バースデイと名乗った部隊員は大げさにお礼をしながら一室へと戻っていく。
「…それで、お前は何で皆と一緒にいないんだ?」
あの時、俺の後ろから現れたエスト。
そもそも先に一室に戻っていたなら通路にすらいなかったと思うが、大方迷ったか何かだろう。返す返事を予想していた俺は、エストが呟いた言葉に目を見開く。
「……見ていた、からです」
―見ていた?迷った、じゃなくて?
疑問を口にするも、エストは通路の先を見据えたまま黙ってしまう。
迷っていたわけじゃなく、見ていたっとエストは言う。視線の先は通路、そこまで考えてずっと疑問だったことを聞いてみれば、ようやく俺に視線を合わせてくれる。
一瞬目を合わせただけで、俺からはすぐ視線をそらしてしまったが。
「あの時、お前が後ろにいたのって」
「……そうです。ずっと見ていました。違和感があった、だからずっと」
「何で口を塞いだ?」
「……気づかれちゃいけない、そう思ったから、です」
あの異様な雰囲気、俺が来る前からずっとああだったのか?っと問えば、エストは小さく首を振った。
曰く、皆と共に戻る際に、第八星巡り部隊と共に歩くエルルカとすれ違ったようだ。そのときは何ともなく、ただ嫌な予感がしたために、皆から離れ後を追っている内に一度見失ったという。
どこを探しても見つからなかったため戻ろうと通路を歩いていたが、曲がる場所を間違えたせいで彷徨いかけ、俺の後ろ姿が見えたことで追いかけてきたらあの状況になっていた。らしい。
エストの言葉は途切れ途切れで、抽象的にしか語らないため要約すればこんな感じだ。
―というか結局迷ってんじゃん。
出かかった言葉は腹に押し込み、腕を組む。
「あの様子、どうしたんだろうな。本人も何であそこにいたのか知らない、って言ってたのが謎だ」
まぁ、エルルカのことはよく知らないしな。
本人にも分からない何かがあるのかもしれない。自分じゃない自分が出ていた、とかな。
「とにかく戻るか」
迷子になりかけるエストの腕を掴んで歩き、今度こそみんなが待つ隊室へと戻ることが出来そうだ。
「っだから、それはダメなんだよ!マルケス、お願いだ」
僕は大声を上げる。
場所なんて関係ない、今すぐに止めないといけない。手放してほしい。
「大丈夫だって、お前が心配するようなことはおきてない」
君はそういうけれど、僕は恐ろしくてたまらない。
ああ、そうさ。怖いんだ、ソレは人の身に余る強烈な力だ。今は何も起きていなくても、今後も何も起こらないとは限らない。
今もそう、背筋が粟立ち震えるような恐怖心が止まらない。
母様に仕立ててもらった服の裾を握りしめながら、懇願するように君に語る。僕の親友、変えの利かない幼馴染。失いたくない存在が、たった一つの装飾品によって脅かされている。
「マルケス、お願いだから…そのペンダントを手放してくれ。それは良くないものなんだよ、信じてくれ…!」
「幼馴染のお前の願いは聞き届けてやりたいが……悪い、俺はこれがいいんだ。―これじゃなきゃ、ダメなんだよ」
惚れた相手に向ける視線のように恍惚とて、マルケスはそのペンダントをゆるく撫でる。
本当に愛おしそうに、慈愛に満ちた瞳で撫で続ける。一回、二回と撫で続けていくうちに暗紫に輝いていくそのペンダントは、僕が初めて見た時はもっと真っ黒だった。
―漆黒と呼べるほど真っ黒だったそのペンダントが、だんだん、だんだんと彩度を上げて、暗紫に輝くその姿が不吉に見えてしょうがない。
「―――ッ」
もう限界だった。
耐えられない。そのペンダントが醸し出す恐ろしい気配に、本能的な恐怖を感じてその場に座り込んでしまう。
マルケスは座り込んだ僕にはっと意識を戻して、駆け寄ってくれる。
「クリステル…!とと、仕舞っておかないとな」
普段通りに戻ったように見えて、戻っていない。僕を心配しながら、意識だけはずっとペンダントに向けている。手に持ったペンダントを愛おし気に懐にしまいながら、僕を心配するその姿に怖気が走る。
―狂っている。
助け起こそうとする親友のその手を払いのけて、僕は部屋を飛び出した。
「姉様、姉様ッ…!」
すでに見慣れてしまった煌びやかな廊下を走りながら、一心不乱に外へと向かう。途中、侍女を連れた母様達がすれ違った際に「はしたない!」っと叱られても気に留めず、逃げ出していく。
僕じゃ何もできない。
感じる力のない母様達に言っても、きっと分かってくださらない。
けど姉様なら。僕と同じで感じる力の強い姉様なら、助けてくれる。親友を、僕を救ってくれる。
息が切れるほど走りながら、外へと続く城扉に手をかけ、僕は
―フレーデル家から、飛び出した。
◇◇◇
無事、第八星巡り部隊の隊室にたどり着き、エルルカ・バースデイと名乗った部隊員は大げさにお礼をしながら一室へと戻っていく。
「…それで、お前は何で皆と一緒にいないんだ?」
あの時、俺の後ろから現れたエスト。
そもそも先に一室に戻っていたなら通路にすらいなかったと思うが、大方迷ったか何かだろう。返す返事を予想していた俺は、エストが呟いた言葉に目を見開く。
「……見ていた、からです」
―見ていた?迷った、じゃなくて?
疑問を口にするも、エストは通路の先を見据えたまま黙ってしまう。
迷っていたわけじゃなく、見ていたっとエストは言う。視線の先は通路、そこまで考えてずっと疑問だったことを聞いてみれば、ようやく俺に視線を合わせてくれる。
一瞬目を合わせただけで、俺からはすぐ視線をそらしてしまったが。
「あの時、お前が後ろにいたのって」
「……そうです。ずっと見ていました。違和感があった、だからずっと」
「何で口を塞いだ?」
「……気づかれちゃいけない、そう思ったから、です」
あの異様な雰囲気、俺が来る前からずっとああだったのか?っと問えば、エストは小さく首を振った。
曰く、皆と共に戻る際に、第八星巡り部隊と共に歩くエルルカとすれ違ったようだ。そのときは何ともなく、ただ嫌な予感がしたために、皆から離れ後を追っている内に一度見失ったという。
どこを探しても見つからなかったため戻ろうと通路を歩いていたが、曲がる場所を間違えたせいで彷徨いかけ、俺の後ろ姿が見えたことで追いかけてきたらあの状況になっていた。らしい。
エストの言葉は途切れ途切れで、抽象的にしか語らないため要約すればこんな感じだ。
―というか結局迷ってんじゃん。
出かかった言葉は腹に押し込み、腕を組む。
「あの様子、どうしたんだろうな。本人も何であそこにいたのか知らない、って言ってたのが謎だ」
まぁ、エルルカのことはよく知らないしな。
本人にも分からない何かがあるのかもしれない。自分じゃない自分が出ていた、とかな。
「とにかく戻るか」
迷子になりかけるエストの腕を掴んで歩き、今度こそみんなが待つ隊室へと戻ることが出来そうだ。
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