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第二章 【世界を護る役割】
第五節 二人の迷子
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部隊室の前の通路はシンと静まり返っていた。
歩く人影すらもなく、通路に響くのは俺の足音だけ。俺以外の部隊員たちは皆隊室にいるのだとは思うが、ただっ広い通路を一人で歩くとなると多少の恐ろしさがあったりする。
この恐ろしさに慣れた。と言えれば格好がいいのかもしれないが、教会に配属されている俺たちの部隊は、今回のような緊急の一件がなければ本部には立ち入らない。
立ち入りを禁止されているわけじゃないが、差し迫って向かう用事がないため向かわないっていうのが理由だ。
(長期遠征任務があれば話は別だけど……って、あれ)
一人だと思っていた通路の先で、ゆらりっと何かが揺らいだ気がした。
じっと目を凝らせば、俺たちと同じ星巡り部隊の服が動いている。
星巡り部隊本部なのだから部隊員が通路にいるのは当たり前なのだが、通路の先の人物に違和感を覚える。歩いている、というより体を左右に動かしているだけ、のような。
実際、相手との距離が縮まらない。
俺が動いていて、相手も動いているなら、もう顔が見えたっておかしくない筈。
違和感を感じながらも歩き続けていればだんだんと部隊員の姿が近づいてくる。俺が歩けば、その分、近く、近くなっていって―。
ゆら、ゆら、ゆら。
一心不乱に、体を揺らしている。
見えるのは後ろ姿。部隊服の羽織は導のもの。相手は俺に気づかず、じっとその場に立ち尽くして体を揺らしている。音でも拾っているのだろうか。それにしてはひどく歪だ。
じりっ…っと、背筋が冷えていく。
声をかけようか、っと口を開きかけたところで、肩を掴まれ口元を覆われる。
「―――ッ!?」
「……声を出さないで、ください」
耳元で息を吹きかけるかのように、かすれた低い声が聞こえた。
視線だけを動かしてみれば、一房だけ見えた濡れ烏色の髪。―エストだ。声は出さない、と口元を押さえる手を叩けばゆっくりと放してくれる。すっと息を吸いながら、真後ろに立つ相手を見据える。
焦げ茶色の瞳は何を考えているか分からない表情で、目の前にいる部隊員を凝視していた。
ゆら、ゆら、っと揺れていた部隊員は、数分もすればはっと気が付いたように辺りを見回して動揺したような声を上げる。動揺したまま後ろを振り返ってようやく俺に気が付いたのかひぃえ、っと強張るような声を出していた。
「あ、あ、貴方は第一星巡り部隊の…!」
俺と目線を合わして、挙動不審に体を動かしてはきょろきょろと視線を外して、別の場所を見て、言葉を紡ぐ部隊員。―胸元の部隊識別徽章を見れば、第八星巡り部隊の導のようだ。
ちらり、っとエストを見やり頷くのを見てまた相手に向き直る。
「そこでいったい何をしていたんだ?」
「やっ!あの、その、ぼく…いえ、私?も何でここにいたのか…さっぱりで…。あああああの、嘘じゃないですよ!私、いえぼく、はそのきちんと部隊室にいた筈で…だからその、私もびっくりしたっていうか……あの、ぼく、はなんでここにいるんでしょう?」
いや、それを俺が聞いているんだが。
俺の質問にわたわたと身振り手振りで答えながら、最後にはわけがわからない。とでもいうように疑問を向けてくる。亜麻色の髪と、陶磁器のような白色の瞳、そして童顔のその顔に見覚えはあるが、名前は憶えていない。
面倒な相手と出会ってしまったな、っと立ち止まったことに後悔しながらそのまま素通りするのも感じが悪い。
「部隊室にいたのなら、皆待ってるんじゃないのか?戻った方がいいと思うぜ」
「は、はいっ…そうします!!あ、あ、ありがとうございました!!」
ぎくしゃくと腰を折って挨拶し、両手両足を同時に動かしたせいで体制を大きく崩しながらも倒れず、そのまま廊下を走り去って行ってしまった。
―あ、結局名前思い出せないままだったな。
「……レナトゥス、様」
「そういやエスト、お前何で後ろから?皆と先に戻ったんじゃ」
部隊員が走り去って行った先を見据え、俺に視線を戻すエスト。
焦げ茶色の瞳がじぃっと俺を凝視してくる。睨んでいるとも、怒っているとも、どちらともいえない無機質な瞳の温度。
まるで、俺の内側を覗き込むかのような、何かを急かしてるかのような、何かを待っているかのような、何かをしなければいけない、と責め立てているかのような。そんな感覚がぐるりとうずく。
こわい。
俺じゃない何かが体を乗っ取ってしまう。
恐怖からごく、っと咽喉を鳴らしたところでエストは俺から視線を外す。
それだけのことでほっと息を吐いてしまう俺がいて、何が何だか分からない。エストが怖いわけじゃないが、焦げ茶色の瞳が俺を見据えると、自分が分からなくなる。
ぼうっと窓の外を見るエストは、先ほどまでと違っていつも通り、に見える。
「……。なぁ、さっきの」
「あああああっ……あのっ、あの、すみません!!その、だ、だだ、第八星巡り部隊のお部屋ってどこでしたっけ…!!?」
走り去って行ったかと思えば、また走り戻ってきた部隊員に俺の言葉が遮られる。
肩で息をする相手を、なんとも言えない表情で見据えてから大きくため息を溢す。エストに質問する前に、この問題を解決しない事には話すらも出来ないらしい。
口頭で説明しても道に迷うだろうから、っと案内するために来た道を一旦戻っていく。
―勿論、エストも連れて。
歩く人影すらもなく、通路に響くのは俺の足音だけ。俺以外の部隊員たちは皆隊室にいるのだとは思うが、ただっ広い通路を一人で歩くとなると多少の恐ろしさがあったりする。
この恐ろしさに慣れた。と言えれば格好がいいのかもしれないが、教会に配属されている俺たちの部隊は、今回のような緊急の一件がなければ本部には立ち入らない。
立ち入りを禁止されているわけじゃないが、差し迫って向かう用事がないため向かわないっていうのが理由だ。
(長期遠征任務があれば話は別だけど……って、あれ)
一人だと思っていた通路の先で、ゆらりっと何かが揺らいだ気がした。
じっと目を凝らせば、俺たちと同じ星巡り部隊の服が動いている。
星巡り部隊本部なのだから部隊員が通路にいるのは当たり前なのだが、通路の先の人物に違和感を覚える。歩いている、というより体を左右に動かしているだけ、のような。
実際、相手との距離が縮まらない。
俺が動いていて、相手も動いているなら、もう顔が見えたっておかしくない筈。
違和感を感じながらも歩き続けていればだんだんと部隊員の姿が近づいてくる。俺が歩けば、その分、近く、近くなっていって―。
ゆら、ゆら、ゆら。
一心不乱に、体を揺らしている。
見えるのは後ろ姿。部隊服の羽織は導のもの。相手は俺に気づかず、じっとその場に立ち尽くして体を揺らしている。音でも拾っているのだろうか。それにしてはひどく歪だ。
じりっ…っと、背筋が冷えていく。
声をかけようか、っと口を開きかけたところで、肩を掴まれ口元を覆われる。
「―――ッ!?」
「……声を出さないで、ください」
耳元で息を吹きかけるかのように、かすれた低い声が聞こえた。
視線だけを動かしてみれば、一房だけ見えた濡れ烏色の髪。―エストだ。声は出さない、と口元を押さえる手を叩けばゆっくりと放してくれる。すっと息を吸いながら、真後ろに立つ相手を見据える。
焦げ茶色の瞳は何を考えているか分からない表情で、目の前にいる部隊員を凝視していた。
ゆら、ゆら、っと揺れていた部隊員は、数分もすればはっと気が付いたように辺りを見回して動揺したような声を上げる。動揺したまま後ろを振り返ってようやく俺に気が付いたのかひぃえ、っと強張るような声を出していた。
「あ、あ、貴方は第一星巡り部隊の…!」
俺と目線を合わして、挙動不審に体を動かしてはきょろきょろと視線を外して、別の場所を見て、言葉を紡ぐ部隊員。―胸元の部隊識別徽章を見れば、第八星巡り部隊の導のようだ。
ちらり、っとエストを見やり頷くのを見てまた相手に向き直る。
「そこでいったい何をしていたんだ?」
「やっ!あの、その、ぼく…いえ、私?も何でここにいたのか…さっぱりで…。あああああの、嘘じゃないですよ!私、いえぼく、はそのきちんと部隊室にいた筈で…だからその、私もびっくりしたっていうか……あの、ぼく、はなんでここにいるんでしょう?」
いや、それを俺が聞いているんだが。
俺の質問にわたわたと身振り手振りで答えながら、最後にはわけがわからない。とでもいうように疑問を向けてくる。亜麻色の髪と、陶磁器のような白色の瞳、そして童顔のその顔に見覚えはあるが、名前は憶えていない。
面倒な相手と出会ってしまったな、っと立ち止まったことに後悔しながらそのまま素通りするのも感じが悪い。
「部隊室にいたのなら、皆待ってるんじゃないのか?戻った方がいいと思うぜ」
「は、はいっ…そうします!!あ、あ、ありがとうございました!!」
ぎくしゃくと腰を折って挨拶し、両手両足を同時に動かしたせいで体制を大きく崩しながらも倒れず、そのまま廊下を走り去って行ってしまった。
―あ、結局名前思い出せないままだったな。
「……レナトゥス、様」
「そういやエスト、お前何で後ろから?皆と先に戻ったんじゃ」
部隊員が走り去って行った先を見据え、俺に視線を戻すエスト。
焦げ茶色の瞳がじぃっと俺を凝視してくる。睨んでいるとも、怒っているとも、どちらともいえない無機質な瞳の温度。
まるで、俺の内側を覗き込むかのような、何かを急かしてるかのような、何かを待っているかのような、何かをしなければいけない、と責め立てているかのような。そんな感覚がぐるりとうずく。
こわい。
俺じゃない何かが体を乗っ取ってしまう。
恐怖からごく、っと咽喉を鳴らしたところでエストは俺から視線を外す。
それだけのことでほっと息を吐いてしまう俺がいて、何が何だか分からない。エストが怖いわけじゃないが、焦げ茶色の瞳が俺を見据えると、自分が分からなくなる。
ぼうっと窓の外を見るエストは、先ほどまでと違っていつも通り、に見える。
「……。なぁ、さっきの」
「あああああっ……あのっ、あの、すみません!!その、だ、だだ、第八星巡り部隊のお部屋ってどこでしたっけ…!!?」
走り去って行ったかと思えば、また走り戻ってきた部隊員に俺の言葉が遮られる。
肩で息をする相手を、なんとも言えない表情で見据えてから大きくため息を溢す。エストに質問する前に、この問題を解決しない事には話すらも出来ないらしい。
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