強面黒騎士は犬を溺愛する

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第三話

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「どうしたんだお前、母親とはぐれたのか?」
 お腹を撫でながら優しく何かを俺に訊ねているようだったが、生憎人間の言葉は分からない。「くぅん?」と首を傾げると「ふふ」と笑みを浮かべて頭を撫でられる。
 嬉しさに辺りを駆け回りたい気分だった。
 俺は今願いを叶えている。
 可愛がられ、男は俺にメロメロだ。
「お腹空いてるか?」
 そう言って男はごそごそと木の下に置いていたバックから何かを取り出す。
 目の前に差し出されたのは茶色の棒状の何か。くんくんと鼻を近付けると獣の肉となんだか香ばしいいい匂いがした。もしかして食べていいよってことなのか。
「ああ、これじゃあ食べにくいよな」
 男の様子を窺っていた俺を見兼ねてか、棒状のそれを一口サイズに細かく千切る。
「ほら遠慮するな」
 勧められる肉片に、香ばしい匂い。そっぽを向くわけもなくパクリと一気に口に含む。
 ……なんだこれめちゃくちゃ美味い。
 思わず理性を無くして口の周りをこれでもかと汚しながらバクバクとむしゃぶりつく。
「美味いか?」
「キャン!」
「そうかそうか。他にもまだ沢山あるからな。腹いっぱい食え」
 なんだか色々差し出されたが、どれも美味しくて結局全部平らげてしまった。そのせいでお腹がポコリと出てしまっていた。
「ふふ、なんだかお前タヌキみたいだな」
 こんなに食べ物というものが美味いだなんて初めて知った。
 妖精は樹木や花に宿る。故に宿る植物が死なない限り妖精は生きる上での制約は受けない。つまり食事や睡眠は必須ではないということだ。犬の妖精クー・シーも同じだ。だから普段食事をしない俺にとっては驚きだった。
 体を抱えられ、胡坐をかいていた男の膝元にすっぽりと収まる。なんだろうと首を傾げると男がポケットからハンカチを取り出す。
「口の周りフキフキして綺麗にしような」
 口の汚れを優しく拭き取っていく。
 至れり尽くせりだった。
「終わったぞ。よしよし、お前は大人しくていい子だな~」
 褒められているのだとなんとなく分かった。頭を撫でられ、気持ちよさに立っていた耳がペタッと寝る。
「キャン!」
 お礼をしなきゃと思った。彼が教えてくれなかったら、こんなに美味しいものがあることも一生知らなかっただろう。
 座っていた男の元からピョンと飛び降りる。
「ん? どうしたんだ?」
 小さな脚でタッタッタッと全速力で湖へ駆ける。犬の妖精クー・シーって言ったって元々は狩りをする犬なんだ。小魚程度なら俺だって捕れるだろう。
「待て! そっちは危な──」
 そう男が叫ぶと同時に俺は湖へ飛び込んだ。
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