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第六話
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目が覚めると俺は温かな暖炉のそばで柔らかなクッションの上に寝ていた。部屋を見渡す。簡素ながらもそのどれもが安くはない調度品で囲まれている。
ここは一体どこなのだろうか。
けれどこの匂いには覚えがあった。
部屋に充満するいい香り。そうあの男の。
ここは彼の家なのか?
咬まれた右脚を見るとそこはぐるぐると包帯が巻かれていた。何か薬が効いているのかあまり痛みは感じないが、しばらくは充分に走ることは出来ないだろう。
ふとガチャリと扉が開く。輝く銀髪に震え上がるほどの強面。彼だ!
「起きたのか。どうだ具合は?」
もう二度と彼とは会えないと思っていたから嬉しくて傷のことも忘れて駆け寄る。
「キャンキャン!」
引きずる脚に慌てて男が走り寄る。
「こら、じっとしてないと駄目じゃないか!」
怒られて左右に振っていた尻尾が「くぅ~ん」と下に下がる。
ごめんなさい……。
俯き明らかに落ち込む俺に男が「はぁ……」と息を吐く。
「お前が無事で本当に良かったよ」
顔を大きな手で包まれ、眉間の辺りを親指で摩られる。気持ちよさに目を細める。良かった、どうやらそこまで怒ってはいなかったようだ。
「疲れているだろうが、丁度湯が沸いたところなんだ。だからもう少し頑張ろうな」
そう言って体を抱え上げられ、風呂場に連れて行かれる。
傷に触れないようにお湯をかけられ、包帯の巻かれた右脚以外の体全体を泡で洗っていく。彼と同じ匂いになっていく。良い匂いに全身を包まれて眠たくなるほど心地が良かった。ふと男が股を見て目を丸くする。
「ああ男の子だったのか。あまりにもかわいいものだから女の子だと思ってた」
なんだか男の矜持を傷つけられた気がして「キャン!」と大きく吠えた。
「すまん、すまん」
そう大きな手で頭をポンポンと撫でられる。プイッと顔を背ける。そんな易々と宥められても俺は許しは……。
「本当にすまない。馬鹿な俺が悪かったから。だからどうかこっちを向いてくれないか?」
あまりにも悲痛な声に反射的に振り向く。途端、男がふわりと微笑む。
トクンと胸が高鳴る。
こ、こんなの許すしかないじゃないかっ!
ふわふわのタオルで体を拭かれ、ふにゃふにゃと夢現になる。暖炉の揺れる炎がまた眠気を誘った。男が目を細め柔らかな微笑みを浮かべながら小さく呟く。
「名前を決めないとな……。そう、その美しい黒毛に相応しい立派な名前にしなければ」
そう俺の毛を一房掬いながら何かを考え込む。
「『黒き月』、『誇り高き騎士』。ルイ・トリア・ルヴェスティ……ふむ、これがいいな」
同じ視線になるように抱き抱え上げられる。
「お前の名はルイ・トリア・ルヴェスティ。そしてここが今からお前の家だ」
あまりに男が嬉しそうに言うものだから俺も嬉しくなって「キャン!」と吠える。ルイと名前を呼ばれた以外何を言っているのかさっぱりだったけど。それにしてもどうして彼が俺の名前を知っているのだろう。
扉を開く音を耳が拾う。首を出して覗くとエプロンをかけた老齢の女性が銀盤を持って立っていた。
「ヴィンセント様、お食事をお持ちしました」
「ありがとう。そこの暖炉のそばに置いておいてくれ」
無駄なく動く彼女。
誰だろうあの人。
首を傾げて見つめていると、男が俺に説明する。
「彼女はここの家政婦だ。俺が勤めで家を空けている間、彼女がお前の面倒を見る」
なるほど。よく分からん。
「君にも紹介しないとな。彼はルイ・トリア・ルヴェスティだ。君も分かってるだろうが、彼のことよろしく頼むぞ」
「は、はい。承知致しました……」
名前を聞いて彼女の顔は明らかに引きつっていた。
ここは一体どこなのだろうか。
けれどこの匂いには覚えがあった。
部屋に充満するいい香り。そうあの男の。
ここは彼の家なのか?
咬まれた右脚を見るとそこはぐるぐると包帯が巻かれていた。何か薬が効いているのかあまり痛みは感じないが、しばらくは充分に走ることは出来ないだろう。
ふとガチャリと扉が開く。輝く銀髪に震え上がるほどの強面。彼だ!
「起きたのか。どうだ具合は?」
もう二度と彼とは会えないと思っていたから嬉しくて傷のことも忘れて駆け寄る。
「キャンキャン!」
引きずる脚に慌てて男が走り寄る。
「こら、じっとしてないと駄目じゃないか!」
怒られて左右に振っていた尻尾が「くぅ~ん」と下に下がる。
ごめんなさい……。
俯き明らかに落ち込む俺に男が「はぁ……」と息を吐く。
「お前が無事で本当に良かったよ」
顔を大きな手で包まれ、眉間の辺りを親指で摩られる。気持ちよさに目を細める。良かった、どうやらそこまで怒ってはいなかったようだ。
「疲れているだろうが、丁度湯が沸いたところなんだ。だからもう少し頑張ろうな」
そう言って体を抱え上げられ、風呂場に連れて行かれる。
傷に触れないようにお湯をかけられ、包帯の巻かれた右脚以外の体全体を泡で洗っていく。彼と同じ匂いになっていく。良い匂いに全身を包まれて眠たくなるほど心地が良かった。ふと男が股を見て目を丸くする。
「ああ男の子だったのか。あまりにもかわいいものだから女の子だと思ってた」
なんだか男の矜持を傷つけられた気がして「キャン!」と大きく吠えた。
「すまん、すまん」
そう大きな手で頭をポンポンと撫でられる。プイッと顔を背ける。そんな易々と宥められても俺は許しは……。
「本当にすまない。馬鹿な俺が悪かったから。だからどうかこっちを向いてくれないか?」
あまりにも悲痛な声に反射的に振り向く。途端、男がふわりと微笑む。
トクンと胸が高鳴る。
こ、こんなの許すしかないじゃないかっ!
ふわふわのタオルで体を拭かれ、ふにゃふにゃと夢現になる。暖炉の揺れる炎がまた眠気を誘った。男が目を細め柔らかな微笑みを浮かべながら小さく呟く。
「名前を決めないとな……。そう、その美しい黒毛に相応しい立派な名前にしなければ」
そう俺の毛を一房掬いながら何かを考え込む。
「『黒き月』、『誇り高き騎士』。ルイ・トリア・ルヴェスティ……ふむ、これがいいな」
同じ視線になるように抱き抱え上げられる。
「お前の名はルイ・トリア・ルヴェスティ。そしてここが今からお前の家だ」
あまりに男が嬉しそうに言うものだから俺も嬉しくなって「キャン!」と吠える。ルイと名前を呼ばれた以外何を言っているのかさっぱりだったけど。それにしてもどうして彼が俺の名前を知っているのだろう。
扉を開く音を耳が拾う。首を出して覗くとエプロンをかけた老齢の女性が銀盤を持って立っていた。
「ヴィンセント様、お食事をお持ちしました」
「ありがとう。そこの暖炉のそばに置いておいてくれ」
無駄なく動く彼女。
誰だろうあの人。
首を傾げて見つめていると、男が俺に説明する。
「彼女はここの家政婦だ。俺が勤めで家を空けている間、彼女がお前の面倒を見る」
なるほど。よく分からん。
「君にも紹介しないとな。彼はルイ・トリア・ルヴェスティだ。君も分かってるだろうが、彼のことよろしく頼むぞ」
「は、はい。承知致しました……」
名前を聞いて彼女の顔は明らかに引きつっていた。
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