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第五話
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※黒騎士視点
「はぁはぁはぁはぁはぁ……」
弱りきった子犬を抱え上げ、岸を目指す。
アリゲフィッシュにやられた。ここの湖はアリゲーターのような頭を持つ魚、アリゲフィッシュの棲家。子犬が湖に飛び込んだ途端、俺はすぐさま剣を手に取り後を追ったが遅かった。なんとかアリゲフィッシュを撃退し子犬を救いだすが、子犬は深い傷を負ってしまっていた。
「キャウ……」
弱々しく子犬が鳴き声を上げる。脚からは止めどなく血が流れ今にも意識を失いそうだった。
腕の中で冷たくなるこの子を想像してゾッとする。
……いや、そんなことはさせない! 絶対に死なせるもんか!
安心させようと頭を撫でる。
「大丈夫。俺がお前を絶対に助けてやるからな」
そう言うと同時に子犬は意識を失ってしまった。もう残された時間は少ない。犬を抱え、湖の近くに停めていた馬に跨り、急いで街へ向かう。
勢いよく扉を開くと、家に現れた突然の訪問者に中年の男が驚いて目を見開く。
「っこの子を救ってくれ!」
子犬を抱え上げそう迫る。
彼は俺の騎士団で扱う馬の面倒を見てもらっている専門の獣医だ。
しかし獣医は慌てもせず腕に抱える子犬を見てポカンと口を開ける。
「あ、貴方様がこの犬を?」
「ああそうだ! 早くこの子を救ってくれ」
「飼い犬ではなさそうですが……」
「ああ、さっき出会ったばかりの野犬だ!」
「ではなぜ……」
「そんなことはどうでもいいだろう! つべこべ言わずさっさと治療を始めろ!」
俺が飼い犬でもないそこらの野犬を助けることが余程おかしいのだろう。しかし俺の鬼気迫る様子に男はすぐさま子犬の治療にあたった。
子犬のもとにいてやりたかったが、獣医の邪魔をするわけにもいかなかった。しかしいてもたってもいられず部屋の中をぐるぐると歩き回る。
もう外も暗くなった頃、やっとのこと獣医が奥の部屋から現れる。
「あの子は……あの子は無事か」
「……はい、なんとか手術は無事成功しました」
その言葉に安堵し、はぁと息を吐く。
獣医が布で額に伝う汗を拭う。
「普段は馬ばかりを診ていましたので久々すぎてとても緊張しましたよ。とりあえず死の淵は抜け出しましたが、まだ油断は禁物です。しばらくは入院が必要でしょう」
「入院? まさかここでか?」
「はい、そうでございます」
信じられなかった。到底頷けない。
「駄目だ。お前は明日も騎士団の馬を診に行くのだろう。あの子を一人にしてはおけない」
獣医がありえないとでも言うように仰天する。何か文句があるのかと眉間に皺を寄せると獣医が表情を隠すように咳払いをする。
「っごほん、ごほん。失礼、ではどうするおつもりなのですか?」
「俺の屋敷で面倒を見る。急変することも考えて夜は俺の屋敷に泊まっていけ」
「そこまでおっしゃるとは……。貴方様が野犬を助けるなどと。あの犬は何か特別な犬なのですか?」
その問いにフッと笑みが溢れる。
「いや普通そのもの、ただ愛おしい子犬だ」
「はぁはぁはぁはぁはぁ……」
弱りきった子犬を抱え上げ、岸を目指す。
アリゲフィッシュにやられた。ここの湖はアリゲーターのような頭を持つ魚、アリゲフィッシュの棲家。子犬が湖に飛び込んだ途端、俺はすぐさま剣を手に取り後を追ったが遅かった。なんとかアリゲフィッシュを撃退し子犬を救いだすが、子犬は深い傷を負ってしまっていた。
「キャウ……」
弱々しく子犬が鳴き声を上げる。脚からは止めどなく血が流れ今にも意識を失いそうだった。
腕の中で冷たくなるこの子を想像してゾッとする。
……いや、そんなことはさせない! 絶対に死なせるもんか!
安心させようと頭を撫でる。
「大丈夫。俺がお前を絶対に助けてやるからな」
そう言うと同時に子犬は意識を失ってしまった。もう残された時間は少ない。犬を抱え、湖の近くに停めていた馬に跨り、急いで街へ向かう。
勢いよく扉を開くと、家に現れた突然の訪問者に中年の男が驚いて目を見開く。
「っこの子を救ってくれ!」
子犬を抱え上げそう迫る。
彼は俺の騎士団で扱う馬の面倒を見てもらっている専門の獣医だ。
しかし獣医は慌てもせず腕に抱える子犬を見てポカンと口を開ける。
「あ、貴方様がこの犬を?」
「ああそうだ! 早くこの子を救ってくれ」
「飼い犬ではなさそうですが……」
「ああ、さっき出会ったばかりの野犬だ!」
「ではなぜ……」
「そんなことはどうでもいいだろう! つべこべ言わずさっさと治療を始めろ!」
俺が飼い犬でもないそこらの野犬を助けることが余程おかしいのだろう。しかし俺の鬼気迫る様子に男はすぐさま子犬の治療にあたった。
子犬のもとにいてやりたかったが、獣医の邪魔をするわけにもいかなかった。しかしいてもたってもいられず部屋の中をぐるぐると歩き回る。
もう外も暗くなった頃、やっとのこと獣医が奥の部屋から現れる。
「あの子は……あの子は無事か」
「……はい、なんとか手術は無事成功しました」
その言葉に安堵し、はぁと息を吐く。
獣医が布で額に伝う汗を拭う。
「普段は馬ばかりを診ていましたので久々すぎてとても緊張しましたよ。とりあえず死の淵は抜け出しましたが、まだ油断は禁物です。しばらくは入院が必要でしょう」
「入院? まさかここでか?」
「はい、そうでございます」
信じられなかった。到底頷けない。
「駄目だ。お前は明日も騎士団の馬を診に行くのだろう。あの子を一人にしてはおけない」
獣医がありえないとでも言うように仰天する。何か文句があるのかと眉間に皺を寄せると獣医が表情を隠すように咳払いをする。
「っごほん、ごほん。失礼、ではどうするおつもりなのですか?」
「俺の屋敷で面倒を見る。急変することも考えて夜は俺の屋敷に泊まっていけ」
「そこまでおっしゃるとは……。貴方様が野犬を助けるなどと。あの犬は何か特別な犬なのですか?」
その問いにフッと笑みが溢れる。
「いや普通そのもの、ただ愛おしい子犬だ」
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