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第十六話
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そうして立ち上がり、ドアノブに手を掛けるがガチャリと音が鳴るだけでびくともしない。何度やっても同じだった。
あ、あれ? 開け方が違うのかな。これ内開き?
背後から笑い声が聞こえる。
「ぷはは。そんなに必死になっちゃってかわい~」
「(おい、これ開かないんだけど)」
「ドア? そんなの開ける必要ないじゃん」
「(は?)」
「だってルイはずっとずぅっとここにいるんだから」
……何言ってるんだ、コイツ。
男の蛇のような瞳が妖しげに光る。ゆっくりと男が近付く。ただならぬ気配が漂う。
逃げなければ!
そう本能が警鐘を鳴らすのになぜか全く体が動かない。訳が分からなかった。
四苦八苦している間に男から抱え上げられ、ぎゅっと強く抱きしめられる。
「今度は誰にも奪わせない。俺がルイを守るって決めたんだ」
「(はぁ? アンタ何言って──)」
額に柔らかな唇が触れる。その甘やかさに驚いて思わず彼を見つめる。
「安心して。この家には何重も結界が張ってあるんだ。容易に人には感知されないし、傷つけることも出来ない。だからここにいればもう人間たちから傷つけられることはない。ここにいればルイは一生幸せなままだ」
口から紡がれるその言葉は甘くねっとりとしていてまるで体を縛り付けられるような感覚に襲われる。
理解不能だった。
「(ほんとお前何言ってるんだよ!)」
「俺がルイを守る。そう言っているんだ」
やっぱり分からない。
「(守るって言ったってこれどう見ても監禁じゃないか。監禁することが俺の幸せになるってそう本気で思ってるのか? お前頭おかしいんじゃないのか!?)」
「何もおかしなことはないよ。今のルイじゃあきっと理解できないだろうけど後で必ず気付く。こうなるのが自分にとって一番幸せだって。恋人としてルイに代わって最上の選択を取るのは当たり前だろ?」
「(そ、そもそも監禁されちゃあお前の言うデートも出来なくなっちゃうぞ。それでもいいのかよ!)」
「お茶会自体はここで出来る。だから何の問題もないよ」
鼻先にそっと口づけ、どろりと甘く重ったるい瞳を細めて「ルイ」と優しく呼び、諭すように言う。
「俺の隣にいることがルイにとっての一番の幸福なんだよ」
駄目だ。全く分からない。
なんとか説得しようと思ったがそんなことコイツには通用しない。
けれど逃げようとしようとしても蛇に睨まれた蛙のように体が全く動かない。
理解できない。それが途轍もなく怖かった。
気付けばプルプルと体が震えていた。
いつの間にかベッドに降ろされ、上から男に覆い被される。カチャリと何かを首に付けられる。
これは首輪……?
「(……なにこれ)」
「ルイが俺の物っていう証。ルイのために俺が丹精込めて作ったんだ」
男の瞳と同じ色をした青い首輪は執着に染まってずっしりと重かった。
「ルイ、愛してる」
頬を上気させ、絶対離さないとばかりに苦しいくらいに抱きしめられる。ゆっくりと顔が近付き、熱い吐息が触れる。
嫌だ!!!!
強い拒絶。
それが何を引き起こしたのかは分からない。
目を思わず瞑ってしまうくらいに光を放つ自分の体。輝きが収まった頃には俺は人間のような体を得ていた。
闇夜のような黒髪、海をはめ込んだ青い瞳。それは人間特有のもので人と違うものといえば、頭から生えた大きな耳と立っていたら余裕で床につく程の長い尻尾くらいのものだ。
男が驚いたように目を大きく見開く。
この隙だ!
固く手を握り、拳を男の頬に殴り付ける。勢いの強さにそのままベッドから倒れ、衝撃に男がよろめく。
今のうちだ。ベッドのシーツをぶん取り、扉に向かって走る。
漲る力に今ならいけると思った。
ドォン!
重い衝撃音の後にばらける木片と視界を覆う塵。
突き出した拳を引っ込めて全身をシーツで覆い、全速力で俺は逃げ出した。
あ、あれ? 開け方が違うのかな。これ内開き?
背後から笑い声が聞こえる。
「ぷはは。そんなに必死になっちゃってかわい~」
「(おい、これ開かないんだけど)」
「ドア? そんなの開ける必要ないじゃん」
「(は?)」
「だってルイはずっとずぅっとここにいるんだから」
……何言ってるんだ、コイツ。
男の蛇のような瞳が妖しげに光る。ゆっくりと男が近付く。ただならぬ気配が漂う。
逃げなければ!
そう本能が警鐘を鳴らすのになぜか全く体が動かない。訳が分からなかった。
四苦八苦している間に男から抱え上げられ、ぎゅっと強く抱きしめられる。
「今度は誰にも奪わせない。俺がルイを守るって決めたんだ」
「(はぁ? アンタ何言って──)」
額に柔らかな唇が触れる。その甘やかさに驚いて思わず彼を見つめる。
「安心して。この家には何重も結界が張ってあるんだ。容易に人には感知されないし、傷つけることも出来ない。だからここにいればもう人間たちから傷つけられることはない。ここにいればルイは一生幸せなままだ」
口から紡がれるその言葉は甘くねっとりとしていてまるで体を縛り付けられるような感覚に襲われる。
理解不能だった。
「(ほんとお前何言ってるんだよ!)」
「俺がルイを守る。そう言っているんだ」
やっぱり分からない。
「(守るって言ったってこれどう見ても監禁じゃないか。監禁することが俺の幸せになるってそう本気で思ってるのか? お前頭おかしいんじゃないのか!?)」
「何もおかしなことはないよ。今のルイじゃあきっと理解できないだろうけど後で必ず気付く。こうなるのが自分にとって一番幸せだって。恋人としてルイに代わって最上の選択を取るのは当たり前だろ?」
「(そ、そもそも監禁されちゃあお前の言うデートも出来なくなっちゃうぞ。それでもいいのかよ!)」
「お茶会自体はここで出来る。だから何の問題もないよ」
鼻先にそっと口づけ、どろりと甘く重ったるい瞳を細めて「ルイ」と優しく呼び、諭すように言う。
「俺の隣にいることがルイにとっての一番の幸福なんだよ」
駄目だ。全く分からない。
なんとか説得しようと思ったがそんなことコイツには通用しない。
けれど逃げようとしようとしても蛇に睨まれた蛙のように体が全く動かない。
理解できない。それが途轍もなく怖かった。
気付けばプルプルと体が震えていた。
いつの間にかベッドに降ろされ、上から男に覆い被される。カチャリと何かを首に付けられる。
これは首輪……?
「(……なにこれ)」
「ルイが俺の物っていう証。ルイのために俺が丹精込めて作ったんだ」
男の瞳と同じ色をした青い首輪は執着に染まってずっしりと重かった。
「ルイ、愛してる」
頬を上気させ、絶対離さないとばかりに苦しいくらいに抱きしめられる。ゆっくりと顔が近付き、熱い吐息が触れる。
嫌だ!!!!
強い拒絶。
それが何を引き起こしたのかは分からない。
目を思わず瞑ってしまうくらいに光を放つ自分の体。輝きが収まった頃には俺は人間のような体を得ていた。
闇夜のような黒髪、海をはめ込んだ青い瞳。それは人間特有のもので人と違うものといえば、頭から生えた大きな耳と立っていたら余裕で床につく程の長い尻尾くらいのものだ。
男が驚いたように目を大きく見開く。
この隙だ!
固く手を握り、拳を男の頬に殴り付ける。勢いの強さにそのままベッドから倒れ、衝撃に男がよろめく。
今のうちだ。ベッドのシーツをぶん取り、扉に向かって走る。
漲る力に今ならいけると思った。
ドォン!
重い衝撃音の後にばらける木片と視界を覆う塵。
突き出した拳を引っ込めて全身をシーツで覆い、全速力で俺は逃げ出した。
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