強面黒騎士は犬を溺愛する

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第十七話

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「あの首輪、森との繋がりを切断して加護を受けさせないよう加工したものなのに単体でこの破壊力。ん~これは予想外だったなぁ」
 切れた口から血を流しながら殴られた頬を摩る。その彼の口角は楽しげに上がっていた。
「ルイは遊び盛りだから鬼ごっこがしたかったんだね。最初からそう言ってくれればよかったのに。でもルイの頼みだ。勿論付き合ってあげるよ」


♢♢♢


 俺をあの家に連れて来た際に残っていた匂いを逆に辿り、森を抜け街に戻る。街にはまだザァザァと雨が降りしきっていた。
 近頃はずっとヴィンセントと行動を共にしていたからこの街のことも家の場所も頭には入っている。だから問題なく家には帰れるだろうが、人の目には気をつける必要があるだろう。
 人の国に獣人はいない。人とは違うこの耳と尻尾が周囲にバレてしまったら大変な目に遭うのは明らかだった。
 シーツをマントのようにして頭から被り、尻尾は垂れないように腰に巻き付ける。人目を避けて路地裏を歩いていると忙しない雨音に混じって俺を呼ぶ声が微かに聞こえた。耳をそばだて音を拾う。
「ッルイ、ルイ、ルイ……!」
 この声……ヴィンセントだ!
 声のもとへ全速力で駆けていく。
「ッルイ、ルイ……!」
 ヴィンセントはそこにいた。ひどい雨の中、傘もささずに名を呼び必死に俺の姿を探し続ける。頭から足の先までびしょ濡れで、美しい銀髪も荒れていた。
 いてもたってもいられなかった。
「ヴィンセント!」
 大きく叫ぶ。すぐさま振り向く彼。けれど俺は大事なことに気付く。
 ヴィンセントが可愛がっていたのは犬の姿をした俺で、獣人になった俺ではない。この国にとって獣人は珍しいが、もしかしたら偏見もあるかもしれない。
 嫌われてしまうんじゃないか。
 叫んだことを後悔する。
「団長! 東の方も手分けして捜しましたがどこにも──」
「西にもいませんでした。もしかして橋を渡って隣街の方に行ってしまったのではないでしょうか。団長の指示があれば今すぐにでも向かいま──」
 一斉に集まる騎士団のみんな。その中を掻い潜って真っ直ぐヴィンセントがこちらに歩み寄ってくる。
「君は……」
「っ…………」
「──ま、待ってくれ!」
 怖くて思わずその場を逃げ出す。しかしすぐに腕を掴まれ阻まれてしまう。顔を背ける。獣人であることを知られたくなかった。けれど頬に大きな手が添えられ、しゃがんで同じ視線となったヴィンセントへと顔を向き合わされる。
「ルイ……?」
 鋭い赤い瞳が俺を映す。
 いつもの癖だった。名前を呼ばれて無意識に顔を上げる。
 するりと頭を覆っていたシーツが落ち、犬の耳が露わになる。
「っルイ……」
 その名前は確信に変わり、くしゃりと顔が歪む。安堵したような微笑みを浮かべ、ヴィンセントの瞳からはボロボロと涙が流れていた。
「っルイ、ルイ、ルイ!」
 ぎゅっと抱きしめられ夢じゃないのだと、俺の存在を確かめるように何度も何度も名前を呼ばれる。
 嬉しい。けれど心が苦しかった。
 どうにかしたくて俺も背中に手を回し、大きな体に抱きついてこれが現実だということを彼に伝える。
 いつも暖かな彼の体は雨でひどく冷たくなっていた。
 俺を捜しに回っていた騎士全員がこの場に集まるまでヴィンセントはずっと涙を流していた。
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