17 / 20
第十七話
しおりを挟む
「あの首輪、森との繋がりを切断して加護を受けさせないよう加工したものなのに単体でこの破壊力。ん~これは予想外だったなぁ」
切れた口から血を流しながら殴られた頬を摩る。その彼の口角は楽しげに上がっていた。
「ルイは遊び盛りだから鬼ごっこがしたかったんだね。最初からそう言ってくれればよかったのに。でもルイの頼みだ。勿論付き合ってあげるよ」
♢♢♢
俺をあの家に連れて来た際に残っていた匂いを逆に辿り、森を抜け街に戻る。街にはまだザァザァと雨が降りしきっていた。
近頃はずっとヴィンセントと行動を共にしていたからこの街のことも家の場所も頭には入っている。だから問題なく家には帰れるだろうが、人の目には気をつける必要があるだろう。
人の国に獣人はいない。人とは違うこの耳と尻尾が周囲にバレてしまったら大変な目に遭うのは明らかだった。
シーツをマントのようにして頭から被り、尻尾は垂れないように腰に巻き付ける。人目を避けて路地裏を歩いていると忙しない雨音に混じって俺を呼ぶ声が微かに聞こえた。耳をそばだて音を拾う。
「ッルイ、ルイ、ルイ……!」
この声……ヴィンセントだ!
声のもとへ全速力で駆けていく。
「ッルイ、ルイ……!」
ヴィンセントはそこにいた。ひどい雨の中、傘もささずに名を呼び必死に俺の姿を探し続ける。頭から足の先までびしょ濡れで、美しい銀髪も荒れていた。
いてもたってもいられなかった。
「ヴィンセント!」
大きく叫ぶ。すぐさま振り向く彼。けれど俺は大事なことに気付く。
ヴィンセントが可愛がっていたのは犬の姿をした俺で、獣人になった俺ではない。この国にとって獣人は珍しいが、もしかしたら偏見もあるかもしれない。
嫌われてしまうんじゃないか。
叫んだことを後悔する。
「団長! 東の方も手分けして捜しましたがどこにも──」
「西にもいませんでした。もしかして橋を渡って隣街の方に行ってしまったのではないでしょうか。団長の指示があれば今すぐにでも向かいま──」
一斉に集まる騎士団のみんな。その中を掻い潜って真っ直ぐヴィンセントがこちらに歩み寄ってくる。
「君は……」
「っ…………」
「──ま、待ってくれ!」
怖くて思わずその場を逃げ出す。しかしすぐに腕を掴まれ阻まれてしまう。顔を背ける。獣人であることを知られたくなかった。けれど頬に大きな手が添えられ、しゃがんで同じ視線となったヴィンセントへと顔を向き合わされる。
「ルイ……?」
鋭い赤い瞳が俺を映す。
いつもの癖だった。名前を呼ばれて無意識に顔を上げる。
するりと頭を覆っていたシーツが落ち、犬の耳が露わになる。
「っルイ……」
その名前は確信に変わり、くしゃりと顔が歪む。安堵したような微笑みを浮かべ、ヴィンセントの瞳からはボロボロと涙が流れていた。
「っルイ、ルイ、ルイ!」
ぎゅっと抱きしめられ夢じゃないのだと、俺の存在を確かめるように何度も何度も名前を呼ばれる。
嬉しい。けれど心が苦しかった。
どうにかしたくて俺も背中に手を回し、大きな体に抱きついてこれが現実だということを彼に伝える。
いつも暖かな彼の体は雨でひどく冷たくなっていた。
俺を捜しに回っていた騎士全員がこの場に集まるまでヴィンセントはずっと涙を流していた。
切れた口から血を流しながら殴られた頬を摩る。その彼の口角は楽しげに上がっていた。
「ルイは遊び盛りだから鬼ごっこがしたかったんだね。最初からそう言ってくれればよかったのに。でもルイの頼みだ。勿論付き合ってあげるよ」
♢♢♢
俺をあの家に連れて来た際に残っていた匂いを逆に辿り、森を抜け街に戻る。街にはまだザァザァと雨が降りしきっていた。
近頃はずっとヴィンセントと行動を共にしていたからこの街のことも家の場所も頭には入っている。だから問題なく家には帰れるだろうが、人の目には気をつける必要があるだろう。
人の国に獣人はいない。人とは違うこの耳と尻尾が周囲にバレてしまったら大変な目に遭うのは明らかだった。
シーツをマントのようにして頭から被り、尻尾は垂れないように腰に巻き付ける。人目を避けて路地裏を歩いていると忙しない雨音に混じって俺を呼ぶ声が微かに聞こえた。耳をそばだて音を拾う。
「ッルイ、ルイ、ルイ……!」
この声……ヴィンセントだ!
声のもとへ全速力で駆けていく。
「ッルイ、ルイ……!」
ヴィンセントはそこにいた。ひどい雨の中、傘もささずに名を呼び必死に俺の姿を探し続ける。頭から足の先までびしょ濡れで、美しい銀髪も荒れていた。
いてもたってもいられなかった。
「ヴィンセント!」
大きく叫ぶ。すぐさま振り向く彼。けれど俺は大事なことに気付く。
ヴィンセントが可愛がっていたのは犬の姿をした俺で、獣人になった俺ではない。この国にとって獣人は珍しいが、もしかしたら偏見もあるかもしれない。
嫌われてしまうんじゃないか。
叫んだことを後悔する。
「団長! 東の方も手分けして捜しましたがどこにも──」
「西にもいませんでした。もしかして橋を渡って隣街の方に行ってしまったのではないでしょうか。団長の指示があれば今すぐにでも向かいま──」
一斉に集まる騎士団のみんな。その中を掻い潜って真っ直ぐヴィンセントがこちらに歩み寄ってくる。
「君は……」
「っ…………」
「──ま、待ってくれ!」
怖くて思わずその場を逃げ出す。しかしすぐに腕を掴まれ阻まれてしまう。顔を背ける。獣人であることを知られたくなかった。けれど頬に大きな手が添えられ、しゃがんで同じ視線となったヴィンセントへと顔を向き合わされる。
「ルイ……?」
鋭い赤い瞳が俺を映す。
いつもの癖だった。名前を呼ばれて無意識に顔を上げる。
するりと頭を覆っていたシーツが落ち、犬の耳が露わになる。
「っルイ……」
その名前は確信に変わり、くしゃりと顔が歪む。安堵したような微笑みを浮かべ、ヴィンセントの瞳からはボロボロと涙が流れていた。
「っルイ、ルイ、ルイ!」
ぎゅっと抱きしめられ夢じゃないのだと、俺の存在を確かめるように何度も何度も名前を呼ばれる。
嬉しい。けれど心が苦しかった。
どうにかしたくて俺も背中に手を回し、大きな体に抱きついてこれが現実だということを彼に伝える。
いつも暖かな彼の体は雨でひどく冷たくなっていた。
俺を捜しに回っていた騎士全員がこの場に集まるまでヴィンセントはずっと涙を流していた。
0
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
【ご報告】
最終回まで予約投稿済みです。
毎日8時・20時に更新予定です。
ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!
由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。
しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。
さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。
そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。
「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」
やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった!
しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って?
いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー
白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿)
金持ち社長・溺愛&執着 α × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω
幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。
ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。
発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう
離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。
すれ違っていく2人は結ばれることができるのか……
思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいαの溺愛、身分差ストーリー
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
花屋の息子
きの
BL
ひょんなことから異世界転移してしまった、至って普通の男子高校生、橘伊織。
森の中を一人彷徨っていると運良く優しい夫婦に出会い、ひとまずその世界で過ごしていくことにするが___?
瞳を見て相手の感情がわかる能力を持つ、普段は冷静沈着無愛想だけど受けにだけ甘くて溺愛な攻め×至って普通の男子高校生な受け
の、お話です。
不定期更新。大体一週間間隔のつもりです。
攻めが出てくるまでちょっとかかります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる