強面黒騎士は犬を溺愛する

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第十八話

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 あの梟の置物は対になって機能する魔道具の一つだったようで、部屋に置いてあった梟が俺たちの様子をヴィンセントの手元にある梟へ映像として伝えていたらしい。つまりはあの日、俺と家政婦さんとの間に何があったかヴィンセントは全て知っていたということである。
 ヴィンセントはそもそも彼女を疑っていたと言う。けれど不当に解雇するわけにもいかなくて、ああやって俺たちの様子を記録し証拠を集めていたそうだ。
 しかし充分な証拠を得て一時演習を抜け出そうとしたところで事は起こった。
 火傷を負いぐったりとした俺を抱えて家を飛び出す家政婦。
 俺に癒しを求めてヴィンセントの持つ魔道具へと集まっていた騎士たちもその一部始終を目撃した。
 全員で駆けつけようとする騎士団を僅かに残っていた冷静さで止め、ヴィンセントは連れて行ってくれと懇願する団員たちの中から数人を引き連れて家へ向かった。
 当然医者に連れて行ったと思っていたヴィンセントだったが、怯えて口を閉ざす彼女に嫌な予感がし問い詰める。
「……貴様!」
 とうとう吐いた衝撃の事実にヴィンセントは湧いた殺意に剣を抜くが、直前のところで団員が止めて自警団を呼んだそうだ。
 ヴィンセントはもう彼女には目も暮れず、俺を捜しに降りしきる雨の中へ駆け出した。
 しかし彼女は団員らが自警団を家の中へ招き入れようと目を離したその少しの隙に逃げてしまったらしい。
 団員たちは自身の失態に頭を抱えるが、ひとまず彼女のことは自警団に任せてヴィンセントの指示のもと俺を捜しに街中を走り回る。
 そうして必死に捜し続け、獣人の姿になった俺とヴィンセントは再会を果たした。
 結局彼女には会えず謝ることも出来なかった。仲直りがしたかった。けれどどこかで冷めた自分もいた。
 こうなることを分かっていた。
 仲直りましてや仲良くなろうだなんて最初から無理だったんだと。
 皆んなに迷惑をかけてしまったこともとても反省している。ヴィンセントには特にだ。
 彼は強靭な体躯をしていたが、俺を捜すために雨に打ちつけられ続けたことと心労が重なり、ヴィンセントは風邪を引いてしまっていた。
 寝込む彼のもとへそっと歩み寄り、ベッド横のサイドテーブルに銀盤を置く。ヴィンセントが俺に気付いて具合が悪そうにゆっくりと起き上がる。
「ルイ、ここに入ってはいけないだろう。風邪がうつる。すぐ出て行くんだ」
「けどヴィンセント、ずっと何も食べてないじゃないか。食欲がなくても少し食べないと」
 銀盤から皿を取ってベッドに腰掛ける。
 スープの良い匂いがヴィンセントの鼻をくすぐる。
「これルイが作ったのか?」
 こくりと頷く。
「家政婦さんのことはよく見ていたから。キッチンの使い方とか料理の作り方とかは憶えてた」
 その話題にヴィンセントの表情が罪悪感からか翳る。
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