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第十九話
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「すまない、気付くのが遅れて。ずっと苦しかっただろう? 誰にも打ち明けられず、耐えるしかなくて」
すぐさま否定する。
「ヴィンセントが謝ることなんて一つもないよ。俺が無理に仲良くなろうと家政婦さんに引っ付いていたのが悪かったんだ。それにもうそのことはいいんだ。怪我もこうして治ったんだし。……ほらスープが冷めちゃう。温かいうちに少しでも食べて!」
そう言ってヴィンセントに皿と匙を差し出す。けれど一向に口をつけようとしない。
「どうしたの? やっぱり食欲ない?」
重々しく彼が口を開く。
「……やはり犬の妖精の力でお前の傷が綺麗さっぱりなくなっても、俺はその傷をなかったことにはできない。俺にとってお前はそんな容易い存在じゃないんだ」
俺が犬の妖精であることもその能力も全てヴィンセントには伝えていた。
けれど、いやそれ故に俺をそこまで想ってくれているとは思っていなかった。心配をかけた申し訳なさと嬉しさで心がいっぱいになるが、今は想いに耽っているよりもすることがある。
「心配かけてごめん。……でも食欲は多少あるんでしょ。なら少しでも食べなきゃ」
全く食べようとしないヴィンセントの手から匙を取ってスープを彼の口元へ持っていく。
目をきょとんとさせるヴィンセントだったが、「ほら!」と匙を傾けると大人しくそれを飲み込んだ。
「……美味しい」
ヴィンセントの頬が緩む。良かった、初めての料理だったが無事口に合ったようだ。
「元気にな~れってまじないをかけて作ったんだ。だから早く元気になってね!」
結局俺の手が休まることはなく、ヴィンセントは完食した。医者から渡された薬を飲ませ、彼を寝かせて布団をかける。
「じゃあ俺、ちょっと掃除してるから何かあったら声かけて」
そう言って部屋を出ようとすると突然腕を掴まれる。
「どうしたの?──」
振り向くと同時にベッドに連れ込まれる。ぎゅっと抱きしめ、髪にぐりぐりと鼻先を埋もれさせる。
「ヴィ、ヴィンセント?」
突然の行動に驚きを隠せない。弱々しい声音で「すまない」と彼が囁く。
「すぐやめるからもう少しこうさせてくれ」
スゥースゥーと犬の姿の時にされたように髪の匂いを嗅がれる。やはり心細かったのだろう。我慢が切れたように俺に触れる。
ヴィンセントはああ言ったが、全然離してくれなかった。
ふと獣の耳をかぷりと甘噛みされる。
「はひっ──!」
背筋を走る刺激にビーンと尻尾が立つ。おまけに変な声も出てしまった。
ヴィンセントの意識ははっきりしていると思っていたがどうやらそうでもないらしい。熱に浮かされた彼は耳を口に含み堪能しながら、手をもぞもぞと動かす。
何をするのかと思えば脚を手で触ってくる。
言い忘れていたが、今の俺の体は少年の姿でヴィンセントの大きなシャツを袖を巻いて被っているだけだった。
つまり肌に直接ヴィンセントが触れている。見たところ触ることに目的があるわけではなく、どうやら何かを探しているようだった。けれどサワサワと太ももを行き来されるとなんだか変な気分になる。
ついに手は尻の方まで伸び、何も履いていない下に直に触れられていることにあたふたしていると、ヴィンセントに尻尾を掴まれる。
掴んだそれをヴィンセントは鼻に押し付けるようにしてスゥーと匂いを愉しむ。そうしてしばらくしてまるで枕のようにふわふわの尻尾に顔を埋めて彼は眠ってしまった。
ヴィンセントの目的は俺の尻尾にあったらしい。
俺が家政婦を追い出したのだから家を綺麗なままにしたかった。この家は一人暮らしにしては広く、掃除やら洗濯やら本当はやることが沢山あるのだが、ヴィンセントの穏やかな寝顔を見て俺も一緒に瞳を閉じた。
すぐさま否定する。
「ヴィンセントが謝ることなんて一つもないよ。俺が無理に仲良くなろうと家政婦さんに引っ付いていたのが悪かったんだ。それにもうそのことはいいんだ。怪我もこうして治ったんだし。……ほらスープが冷めちゃう。温かいうちに少しでも食べて!」
そう言ってヴィンセントに皿と匙を差し出す。けれど一向に口をつけようとしない。
「どうしたの? やっぱり食欲ない?」
重々しく彼が口を開く。
「……やはり犬の妖精の力でお前の傷が綺麗さっぱりなくなっても、俺はその傷をなかったことにはできない。俺にとってお前はそんな容易い存在じゃないんだ」
俺が犬の妖精であることもその能力も全てヴィンセントには伝えていた。
けれど、いやそれ故に俺をそこまで想ってくれているとは思っていなかった。心配をかけた申し訳なさと嬉しさで心がいっぱいになるが、今は想いに耽っているよりもすることがある。
「心配かけてごめん。……でも食欲は多少あるんでしょ。なら少しでも食べなきゃ」
全く食べようとしないヴィンセントの手から匙を取ってスープを彼の口元へ持っていく。
目をきょとんとさせるヴィンセントだったが、「ほら!」と匙を傾けると大人しくそれを飲み込んだ。
「……美味しい」
ヴィンセントの頬が緩む。良かった、初めての料理だったが無事口に合ったようだ。
「元気にな~れってまじないをかけて作ったんだ。だから早く元気になってね!」
結局俺の手が休まることはなく、ヴィンセントは完食した。医者から渡された薬を飲ませ、彼を寝かせて布団をかける。
「じゃあ俺、ちょっと掃除してるから何かあったら声かけて」
そう言って部屋を出ようとすると突然腕を掴まれる。
「どうしたの?──」
振り向くと同時にベッドに連れ込まれる。ぎゅっと抱きしめ、髪にぐりぐりと鼻先を埋もれさせる。
「ヴィ、ヴィンセント?」
突然の行動に驚きを隠せない。弱々しい声音で「すまない」と彼が囁く。
「すぐやめるからもう少しこうさせてくれ」
スゥースゥーと犬の姿の時にされたように髪の匂いを嗅がれる。やはり心細かったのだろう。我慢が切れたように俺に触れる。
ヴィンセントはああ言ったが、全然離してくれなかった。
ふと獣の耳をかぷりと甘噛みされる。
「はひっ──!」
背筋を走る刺激にビーンと尻尾が立つ。おまけに変な声も出てしまった。
ヴィンセントの意識ははっきりしていると思っていたがどうやらそうでもないらしい。熱に浮かされた彼は耳を口に含み堪能しながら、手をもぞもぞと動かす。
何をするのかと思えば脚を手で触ってくる。
言い忘れていたが、今の俺の体は少年の姿でヴィンセントの大きなシャツを袖を巻いて被っているだけだった。
つまり肌に直接ヴィンセントが触れている。見たところ触ることに目的があるわけではなく、どうやら何かを探しているようだった。けれどサワサワと太ももを行き来されるとなんだか変な気分になる。
ついに手は尻の方まで伸び、何も履いていない下に直に触れられていることにあたふたしていると、ヴィンセントに尻尾を掴まれる。
掴んだそれをヴィンセントは鼻に押し付けるようにしてスゥーと匂いを愉しむ。そうしてしばらくしてまるで枕のようにふわふわの尻尾に顔を埋めて彼は眠ってしまった。
ヴィンセントの目的は俺の尻尾にあったらしい。
俺が家政婦を追い出したのだから家を綺麗なままにしたかった。この家は一人暮らしにしては広く、掃除やら洗濯やら本当はやることが沢山あるのだが、ヴィンセントの穏やかな寝顔を見て俺も一緒に瞳を閉じた。
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