【完結】誓いの鳥籠

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第十八話

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 街を走り、半ば誘拐気味に連れられ乗り込んだのは新幹線だった。素早く流れる窓の景色を一瞥する。
「どこに行くつもりなんだ」
「北だ。そこなら組も手が届かないはずだ」
「なぁ次の駅で降りよう。父さんを心配させたくない。お前のことは俺が無理矢理連れ出したって言ってお咎めがないようにするから。だから──」
「鐵、あんなとこに戻ったって苦しいだけだぞ」
 樋宮の言葉がどういう意味か理解出来ない。すると彼は突然脈絡もないことを訊ねる。
「何故組長はあんなに貞操帯に執着していたと思う?」
「お前が言うにはイカれてたからって話だろ」
「鐵の親父さん……血の繋がりがある方、つまり勇気さんだが、鐵は勇気さんが亡くなった理由を知ってるか?」
「交通事故だって聞いてる。父さんが俺を預かっている間に父と母は旅行に行ってその途中で事故に遭ったって……」
 樋宮は話を聞いて、懐から新聞紙の切れ端を取り出し勇士に手渡す。
 大きく文字が書かれた見出しに目がいく。
『暴力団が夫婦を惨殺』
 載っている二つの顔写真は家に置かれている写真と同じ顔をしていた。
 目を見張る。呼吸することも忘れて記事を読む。
 殺人現場は人気のない山奥の小屋。遺体があると匿名の通報を受け、警察が向かったところ夫婦二人の遺体を発見した。遺体は刺し傷、殴打の痕など損傷がひどく、両名に性的暴行を受けた形跡があった。調べによると夫婦は子どもを友人宅に預け、旅行に出かけていたという。夫婦が乗っていたと思われる車は道路を外れ、木に正面衝突している状態で見つかっており、銃撃された跡が見られた。最近大志万組と蒼天会間での抗争が激しく、十日前にも民間人が銃で発砲された事件を受け、暴力団が関与しているとみて捜査を続けている。
 亡くなった理由は交通事故ではなかった。両親はヤクザによって無残に殺されたのだ。
 茫然と新聞を眺め、瞳の奥を暗くさせる。そんな勇士に樋宮はそっと補足する。
「先代組長が亡くなって、次代の頭として選ばれたのが鐵組長だった。だが組長はいわゆる私生児だった。それで継承問題が起きて抗争に発展、見せしめにと組長の親友であった勇気さんとその奥さんである舞さんが旅行中に襲われたんだ。組にもその情報が伝わって来て組長自ら急いで現場に向かった。けど遅かった」
 自我がはっきりと芽生える頃は既に龍一郎が父親だったため正直両親との記憶はない。だがアルバムに残るおそらく出産直後だろう、涙目になって愛おしそうに赤ちゃんである勇士を抱く母親や、四つん這いで自身に向かってハイハイをする我が子に可愛らしさで頬を緩め、子どもの成長を心から喜ぶ父親の姿をビデオで胸に深く刻んでいる。
 記憶はなくとも両親からいっぱいの愛情を注がれていたことを勇士は知っている。両親を殺した奴らに憎悪を抱かないはずがない。
「……犯人は?」
「新聞には載っていないが、組長が既に報復の手を打って死んでる」
 それを聞いて幾らか重く沈んでいた胸がすく。しかし直後疑問が浮かぶ。
「……父さんはなんでこのことを隠してたんだ?」
「はっきりとは知らない。だが悪意があって隠していたわけじゃないはずだ」
 樋宮は続ける。
「これは俺の親父から聞いた話だが、組長は事件後深く精神をやられて、敵なら容赦なく潰す鬼のような性格になってしまったらしい。けれど復讐を果たし、抗争に決着がついた後組長はあっさりトップの座を放り出して、養子にしたお前とヤクザとは無縁な暮らしを始めた」
 樋宮が一度窓の向こうへ視線を向ける。空は曇っていて今にも雨が降り出しそうだった。勇士に向き合い、突きつける。
「たとえ親友の子だとはいえ、子どもを引き取り育てる決断なんてそう簡単に出来るわけがない。ましてや過保護を盾に息子に貞操帯を着けるだなんて普通じゃない。……組長は勇気さんととても仲が良かった。そしてお前は勇気さんとよく似ている」
「……何が言いたい?」
 そう訊く勇士の舌は怯えてうまく動けない。
「……勇気さんは舞さんと結婚して、組長は伴侶として勇気さんと共に生きることは叶わなかった。だから組長はお前を勇気さんと重ねて、代わりの伴侶にした。勇気さんとしてお前を深く愛していたんだ」
 ブチブチと心が裂ける音がした。
「あの事件で勇気さんは性的暴行も受けていた。貞操帯に執着していたのはそのためだろう。もう誰にも勇気さんを奪われないようにと組長は貞操帯でお前を徹底的に管理していた」
 樋宮が付け加える。
 勇士はというとちぐはぐな表情を浮かべていた。
「はは。父さん、そういうことだったんだね」
 頬を涙で濡らし、心を護る脆い笑みを溢す。
 龍一郎は代わりの伴侶を深く愛し続けてきた。勇士その者ではない。
 父は自分を愛しているのか。
 ずっと苦悩し続けてきた問いはついに消え、哀しみの雨が降る。
 雲は黒い。目で追うことは叶わない、景色が流れる窓には横一線に雨粒が張り付いていた。
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