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白龍
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真生の部屋へ向かうため、階段を上っていると、さっき両親に聞いた話が、頭の中をぐるぐるまわる。
御伽噺めいたことばかりで現実味がないのに、どこか信じている自分もいて、これから先に起こるかもしれないことに不安が募る。
二階にあがってすぐ左にある真生の部屋の引き戸が少し開いている。真生が寝る時にはいつも、ライが自由に出入り出来るようにと開けているのだ。たぶん、今も真生のベッドにはライが一緒に寝ているのだろう。同じようにドアを少し開けておいても、寝相の悪いオレや武玄のところには来ないあたり、ライは賢いと思う。
そっと覗くと、案の定、ライは定位置の真生の顔の傍で丸まって寝ている。
真生の様子を見ようと部屋に入ると、ライがオレの気配を感じてすぐに顔を上げてこちらを見る。
ライは『おまえか』とでも言うようにオレを認識すると、また目を閉じて枕に顎を乗せる。
オレはベッドに腰かけ、真生の顔を覗き込むと、真生はとても気持ち良さそうに寝入っていた。
布団から出ている首元が、とても細くて頼りなく見える。
―こんな細かったっけ?やっぱ痩せたよな…
そう思いながら無意識に真生の首元に手を伸ばしていた。
「んっ」
オレの指が首に触れると、真生は身動ぎながら小さく声をあげる。
その声と動きに、ドキッとしてすぐに手を引っ込めた。心臓が早まっていくのを感じる。
「な、なんだよ・・・、そんな眼で見るなよ・・・」
ライが薄目を開けてじとっとオレのことを見ている。
ライが何か言いたげに見えてしまっているのは、そこはかとないオレの後ろめたさからなんだろう。
さっき首に触れた指先から、じわじわと手が熱くなっていく。そして、考えないようにすればするほど、今朝の真生の胸の感触がまざまざと両手に蘇ってくる。見てはいけないというオレの理性に反して、視線は真生の胸元に釘付けになる。さっき真生が動いたことで布団から鎖骨がのぞいている。
―――ゴクリッ
喉が鳴る音がやけに大きく聞こえた。
「・・・・・・」
自分の手が真生の方へ伸びていくのが視界に入ってくる。
―確認、、する、だけ…
誰かに弁明するようにそう頭の中で何度も呟く。
真生の布団に手が掛かろうとした瞬間、
「ウゥウウゥ、フシャァァァァァァァッッ!!」
普段怒ることのないライが、オレの方を見て唸り声を上げ、見たことのない鋭い顔つきで威嚇してきた。
「ご、ごめんなさい!!」
オレの邪な衝動を窘められたと思い、ライの剣幕に思わず敬語で謝ってしまう。
「そ、そんなに怒るなよ~」
とライを見ると、毛が逆立ち、まだ警戒を解いていない。
―あれ?
ライの視線は微妙にオレからずれている。
オレの顔の少し左のあたりを凝視している。
ライの視線につられるように左に顔を向ける。
「!!!!?????」
―――ドスンッ
「うわあぁあぁぁあぁぁぁ!!??」
座っていたベッドから落ち、思わず大声をあげてしまった。
「えっ、な、なに!?虎、白???」
「どうした!?」
「何事!?」
オレの叫び声に飛び起きた真生と、慌てて駆けつけた両親。
「「「なにこれ・・・」」」
思わず出た声が被る。
オレたちの目の前には、白い龍のようなものがふよふよと漂っている。
それは、さっき見た東守家の古い本に描かれていた龍そのままだった。
あまりにも非現実的な目の前のものに、オレと真生と母、そしてライが凝視して固まっている中、
「え?なになに?そこになにかあるの?」
と父だけがオレたちの様子に戸惑っている。
「青嗣さん、見えてないの!?」
「本に描かれてた龍が、そこに」
「えぇっ?僕には見えないんだけど!?」
座ったままのオレが龍の方を指差すと、龍がオレの方へ近づいてこようとする。
「っっ!!」
思わず後ずさるオレの様子を見た龍が、何かを察した様にその場に留まる。
その龍の顔が、心なしか申し訳なさそうなしょんぼりした表情に見える。
「ちょっと落ち着こう」
誰も動けない状態の中、母が口を開く。
「私と虎白、真生に見えてるのは白龍でOK?」
「・・・うん」
「白い龍みたいなのが見えてる」
母の問いにオレと真生がコクコクと頷く。
「青嗣さんにはこれ、見えてないのね?」
「見えてない・・・なんで僕だけ・・・見たい・・・」
龍を指して問う母に、父は残念そうにつぶやく。
その間も、龍は大人しく留まったまま、オレたちのやりとりをきょろきょろと見ている。
あの本の通りであるならば、『人語を理解』して話を聞いているのだと思う。
少し落ち着いて、目の前に浮いてる龍を改めて見てみると、敵意はないように思える。
「信じがたいことだけど、これって現実よね」
ふうっと深く息を吐いて母の言うことにオレと真生がまたコクコクと頷くのと同時に、
「ピィッ」
「「「「!!??」」」」
目の前の龍から音がした。
「今のは聞こえた!!」
父が喜々として言う。
「い、今のって、へ、返事した、ってこと?」
「ピッ」
母が誰とはなしにつぶやいた問いに、龍が母の方を向いて返事をするようにまた音を出す。
これはこの龍の鳴き声なのだろう。えらく可愛い鳴き声になんだか拍子抜けする。すずめやひよこに近いような鳴き声だ。
母は腰が抜けたようにへなへなとその場に座り込む。
「やっぱついてんじゃない・・・」
「いや、ホントさっき突然出てきたんだって!」
「あの本に書かれてたことは本当だったってことか」
「え、オレだけついていけてないんだけど・・・」
母とオレと父の言葉に、真生だけがきょとんとしている。
そんな中で、白い龍はゆっくりオレに近づき、オレの周囲をくるりと回って顔の前で止まると、
「ピィッ」
オレと目を合わせ、また小さい声で鳴く。その声に頭の中には『よろしく』と言っているようなイメージが湧いてきた。
なんだかそれだけで一気に可愛く見えてくるのが不思議だ。
「これはもう・・・揺るぎない事実ね・・・もう始まってるってことか。上等じゃない」
そんなオレと龍のやりとりを見て、フッと力なく笑って母が呟く。そういうことだ。真生が龍の嫁と認定されているという証でもあるのだ。
「『白龍』って言ってたよね。虎白は東守家の血筋だから、本の通りなら『青龍』だと思うんだけど。本当に白いの?」
「ええ、真っ白ね」
「東西南北は関係ないのか?普段も毎年いずれかの守護家に龍が出現しているとしたら、『龍の嫁』がいる龍濤家の守護家には『白龍』が出現するって考えも出来るのか?いや、来年の龍の嫁にこだわってることからすると、なにか他に法則がありそうな気もするな。そうするとやっぱり白龍の出現は、他にも龍の嫁候補がいるかもしれないと仮定するべきなのか?血筋ではあるとはいえ、厳密にいうと真生は龍濤家じゃないし、虎白も東守家じゃないのにどういう原理の元『龍の嫁』と『眷属龍』の発現が行われてるのか…」
また仕事モードで父がぶつぶつ言っている。
「どちらにせよ、御婆様の心配は当たってしまったってことね。やっぱりいろいろ調べて対応を考えなきゃ。他にも龍の嫁候補がいればなんとかそっちにお任せして、真生のことは諦めてもらうしかないわね」
母はどこか腹を括っていたようにそう言いながら立ち上がる。
父と母のぶれない姿に安心感を覚え、オレも母に釣られるように腰を上げる。
「ちょっと!!オレ意味わかんないんだけど!?」
「「「あ・・・」」」
「三人はなんか知ってる風だけど、この状況説明してよ。白龍って、これ本物?オレのこと諦めてもらうってどういうこと?」
事情を知らない真生は布団を握りしめて不安そうにしている。
「真生、ちょっとごめんね」
「え?」
母はスタスタと真生に速足で近づくと、突然ギュッと真生を抱きしめる。
「体調はどう?もう大丈夫なの?」
「え?え?え?うん・・・大丈夫、だけ、ど???」
突然のことに戸惑って固まっている真生を、母は何かを確認するように真生の身体のあちこちを撫でまくっている。
―あ、これ、女に成ってるかどうか確認してるな・・・
その光景を見ていた父とオレはきっと同じことを考えていたと思う。
母はあらかた真生の身体を確かめたあと、今度はなぜかオレの方へ向かってくる。
「は?」
そして、さっきの真生と同じ状況にオレは陥っていた。
「ちょちょちょっ、なにすんだよ!」
べりっと力任せに母を引きはがすと、
「筋肉質で硬すぎっっ、あんたじゃ比較対象になんないっ」
となぜか憤慨された。理不尽だ。
「胸はなさそうだけど男の子にしては全体的に柔らかすぎる気がするなぁ・・・真生は元々肉付き薄いからなぁ」
腕を組んで小さな声で母はぶつぶつ言っている。
オレと母のそんなやりとりの間に、父が真生に、
「真生が朝ご飯食べたら、ちゃんと説明するから。・・・食べられそう?」
と言っているのは聞こえていた。
白龍はというと、フーッシャーッ言っているライと仲良くしようと奮闘中のようだった。
「ちょっと、ライが怖がってて可哀想だからやめたげて」
「ピィ・・・」
オレが声を掛けるとすごすごといった感じでこちらへ戻ってくる。
―あぁ、やっぱちゃんと言うこと理解してるんだ
こういう姿を見るに、なんだか憎めない。
『龍の嫁』を守護する力があるのなら、真生を守ってくれるということなのだろうか。
でも、そもそも守護する力ってどういうものなんだろう。オレについてるってことは、ゲームのモンスターのようにオレの指示で技でも出せたりするんだろうか。それはちょっとやってみたいな。なんて考えながら、近くを漂う白龍に触ろうと手を伸ばす。
「虎白っっ!!」
「な、なに!?」
いきなり母に名前を呼ばれビクッとする。
「白龍はライみたいに顎撫でたら駄目だからね!」
「え?」
「逆鱗があるはずだから、触ったら殺されちゃうかもしれないよ」
まさに今、白龍の顎下をライと同じ感覚で撫でようとしていたオレに、母の言葉のあとに真生を連れて部屋を出ようとしていた父がさらっと怖いことを言う。
「それってことわざのやつ?」
「そうだよ。顎の下に一枚だけ逆さに生えてる鱗がたぶんあるはずだから、そこを人が触ると龍は怒って触った人を殺すって言われてて、そっから『逆鱗に触れる』ってことわざになってるからね」
―コワッ、そんな爆弾みたいなものがついてるのか・・・オレ・・・
こんな小さい龍ならちょっと可愛いなんて思っていたオレは、改めて龍の特異さを感じずにはいられなかった。
御伽噺めいたことばかりで現実味がないのに、どこか信じている自分もいて、これから先に起こるかもしれないことに不安が募る。
二階にあがってすぐ左にある真生の部屋の引き戸が少し開いている。真生が寝る時にはいつも、ライが自由に出入り出来るようにと開けているのだ。たぶん、今も真生のベッドにはライが一緒に寝ているのだろう。同じようにドアを少し開けておいても、寝相の悪いオレや武玄のところには来ないあたり、ライは賢いと思う。
そっと覗くと、案の定、ライは定位置の真生の顔の傍で丸まって寝ている。
真生の様子を見ようと部屋に入ると、ライがオレの気配を感じてすぐに顔を上げてこちらを見る。
ライは『おまえか』とでも言うようにオレを認識すると、また目を閉じて枕に顎を乗せる。
オレはベッドに腰かけ、真生の顔を覗き込むと、真生はとても気持ち良さそうに寝入っていた。
布団から出ている首元が、とても細くて頼りなく見える。
―こんな細かったっけ?やっぱ痩せたよな…
そう思いながら無意識に真生の首元に手を伸ばしていた。
「んっ」
オレの指が首に触れると、真生は身動ぎながら小さく声をあげる。
その声と動きに、ドキッとしてすぐに手を引っ込めた。心臓が早まっていくのを感じる。
「な、なんだよ・・・、そんな眼で見るなよ・・・」
ライが薄目を開けてじとっとオレのことを見ている。
ライが何か言いたげに見えてしまっているのは、そこはかとないオレの後ろめたさからなんだろう。
さっき首に触れた指先から、じわじわと手が熱くなっていく。そして、考えないようにすればするほど、今朝の真生の胸の感触がまざまざと両手に蘇ってくる。見てはいけないというオレの理性に反して、視線は真生の胸元に釘付けになる。さっき真生が動いたことで布団から鎖骨がのぞいている。
―――ゴクリッ
喉が鳴る音がやけに大きく聞こえた。
「・・・・・・」
自分の手が真生の方へ伸びていくのが視界に入ってくる。
―確認、、する、だけ…
誰かに弁明するようにそう頭の中で何度も呟く。
真生の布団に手が掛かろうとした瞬間、
「ウゥウウゥ、フシャァァァァァァァッッ!!」
普段怒ることのないライが、オレの方を見て唸り声を上げ、見たことのない鋭い顔つきで威嚇してきた。
「ご、ごめんなさい!!」
オレの邪な衝動を窘められたと思い、ライの剣幕に思わず敬語で謝ってしまう。
「そ、そんなに怒るなよ~」
とライを見ると、毛が逆立ち、まだ警戒を解いていない。
―あれ?
ライの視線は微妙にオレからずれている。
オレの顔の少し左のあたりを凝視している。
ライの視線につられるように左に顔を向ける。
「!!!!?????」
―――ドスンッ
「うわあぁあぁぁあぁぁぁ!!??」
座っていたベッドから落ち、思わず大声をあげてしまった。
「えっ、な、なに!?虎、白???」
「どうした!?」
「何事!?」
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「「「なにこれ・・・」」」
思わず出た声が被る。
オレたちの目の前には、白い龍のようなものがふよふよと漂っている。
それは、さっき見た東守家の古い本に描かれていた龍そのままだった。
あまりにも非現実的な目の前のものに、オレと真生と母、そしてライが凝視して固まっている中、
「え?なになに?そこになにかあるの?」
と父だけがオレたちの様子に戸惑っている。
「青嗣さん、見えてないの!?」
「本に描かれてた龍が、そこに」
「えぇっ?僕には見えないんだけど!?」
座ったままのオレが龍の方を指差すと、龍がオレの方へ近づいてこようとする。
「っっ!!」
思わず後ずさるオレの様子を見た龍が、何かを察した様にその場に留まる。
その龍の顔が、心なしか申し訳なさそうなしょんぼりした表情に見える。
「ちょっと落ち着こう」
誰も動けない状態の中、母が口を開く。
「私と虎白、真生に見えてるのは白龍でOK?」
「・・・うん」
「白い龍みたいなのが見えてる」
母の問いにオレと真生がコクコクと頷く。
「青嗣さんにはこれ、見えてないのね?」
「見えてない・・・なんで僕だけ・・・見たい・・・」
龍を指して問う母に、父は残念そうにつぶやく。
その間も、龍は大人しく留まったまま、オレたちのやりとりをきょろきょろと見ている。
あの本の通りであるならば、『人語を理解』して話を聞いているのだと思う。
少し落ち着いて、目の前に浮いてる龍を改めて見てみると、敵意はないように思える。
「信じがたいことだけど、これって現実よね」
ふうっと深く息を吐いて母の言うことにオレと真生がまたコクコクと頷くのと同時に、
「ピィッ」
「「「「!!??」」」」
目の前の龍から音がした。
「今のは聞こえた!!」
父が喜々として言う。
「い、今のって、へ、返事した、ってこと?」
「ピッ」
母が誰とはなしにつぶやいた問いに、龍が母の方を向いて返事をするようにまた音を出す。
これはこの龍の鳴き声なのだろう。えらく可愛い鳴き声になんだか拍子抜けする。すずめやひよこに近いような鳴き声だ。
母は腰が抜けたようにへなへなとその場に座り込む。
「やっぱついてんじゃない・・・」
「いや、ホントさっき突然出てきたんだって!」
「あの本に書かれてたことは本当だったってことか」
「え、オレだけついていけてないんだけど・・・」
母とオレと父の言葉に、真生だけがきょとんとしている。
そんな中で、白い龍はゆっくりオレに近づき、オレの周囲をくるりと回って顔の前で止まると、
「ピィッ」
オレと目を合わせ、また小さい声で鳴く。その声に頭の中には『よろしく』と言っているようなイメージが湧いてきた。
なんだかそれだけで一気に可愛く見えてくるのが不思議だ。
「これはもう・・・揺るぎない事実ね・・・もう始まってるってことか。上等じゃない」
そんなオレと龍のやりとりを見て、フッと力なく笑って母が呟く。そういうことだ。真生が龍の嫁と認定されているという証でもあるのだ。
「『白龍』って言ってたよね。虎白は東守家の血筋だから、本の通りなら『青龍』だと思うんだけど。本当に白いの?」
「ええ、真っ白ね」
「東西南北は関係ないのか?普段も毎年いずれかの守護家に龍が出現しているとしたら、『龍の嫁』がいる龍濤家の守護家には『白龍』が出現するって考えも出来るのか?いや、来年の龍の嫁にこだわってることからすると、なにか他に法則がありそうな気もするな。そうするとやっぱり白龍の出現は、他にも龍の嫁候補がいるかもしれないと仮定するべきなのか?血筋ではあるとはいえ、厳密にいうと真生は龍濤家じゃないし、虎白も東守家じゃないのにどういう原理の元『龍の嫁』と『眷属龍』の発現が行われてるのか…」
また仕事モードで父がぶつぶつ言っている。
「どちらにせよ、御婆様の心配は当たってしまったってことね。やっぱりいろいろ調べて対応を考えなきゃ。他にも龍の嫁候補がいればなんとかそっちにお任せして、真生のことは諦めてもらうしかないわね」
母はどこか腹を括っていたようにそう言いながら立ち上がる。
父と母のぶれない姿に安心感を覚え、オレも母に釣られるように腰を上げる。
「ちょっと!!オレ意味わかんないんだけど!?」
「「「あ・・・」」」
「三人はなんか知ってる風だけど、この状況説明してよ。白龍って、これ本物?オレのこと諦めてもらうってどういうこと?」
事情を知らない真生は布団を握りしめて不安そうにしている。
「真生、ちょっとごめんね」
「え?」
母はスタスタと真生に速足で近づくと、突然ギュッと真生を抱きしめる。
「体調はどう?もう大丈夫なの?」
「え?え?え?うん・・・大丈夫、だけ、ど???」
突然のことに戸惑って固まっている真生を、母は何かを確認するように真生の身体のあちこちを撫でまくっている。
―あ、これ、女に成ってるかどうか確認してるな・・・
その光景を見ていた父とオレはきっと同じことを考えていたと思う。
母はあらかた真生の身体を確かめたあと、今度はなぜかオレの方へ向かってくる。
「は?」
そして、さっきの真生と同じ状況にオレは陥っていた。
「ちょちょちょっ、なにすんだよ!」
べりっと力任せに母を引きはがすと、
「筋肉質で硬すぎっっ、あんたじゃ比較対象になんないっ」
となぜか憤慨された。理不尽だ。
「胸はなさそうだけど男の子にしては全体的に柔らかすぎる気がするなぁ・・・真生は元々肉付き薄いからなぁ」
腕を組んで小さな声で母はぶつぶつ言っている。
オレと母のそんなやりとりの間に、父が真生に、
「真生が朝ご飯食べたら、ちゃんと説明するから。・・・食べられそう?」
と言っているのは聞こえていた。
白龍はというと、フーッシャーッ言っているライと仲良くしようと奮闘中のようだった。
「ちょっと、ライが怖がってて可哀想だからやめたげて」
「ピィ・・・」
オレが声を掛けるとすごすごといった感じでこちらへ戻ってくる。
―あぁ、やっぱちゃんと言うこと理解してるんだ
こういう姿を見るに、なんだか憎めない。
『龍の嫁』を守護する力があるのなら、真生を守ってくれるということなのだろうか。
でも、そもそも守護する力ってどういうものなんだろう。オレについてるってことは、ゲームのモンスターのようにオレの指示で技でも出せたりするんだろうか。それはちょっとやってみたいな。なんて考えながら、近くを漂う白龍に触ろうと手を伸ばす。
「虎白っっ!!」
「な、なに!?」
いきなり母に名前を呼ばれビクッとする。
「白龍はライみたいに顎撫でたら駄目だからね!」
「え?」
「逆鱗があるはずだから、触ったら殺されちゃうかもしれないよ」
まさに今、白龍の顎下をライと同じ感覚で撫でようとしていたオレに、母の言葉のあとに真生を連れて部屋を出ようとしていた父がさらっと怖いことを言う。
「それってことわざのやつ?」
「そうだよ。顎の下に一枚だけ逆さに生えてる鱗がたぶんあるはずだから、そこを人が触ると龍は怒って触った人を殺すって言われてて、そっから『逆鱗に触れる』ってことわざになってるからね」
―コワッ、そんな爆弾みたいなものがついてるのか・・・オレ・・・
こんな小さい龍ならちょっと可愛いなんて思っていたオレは、改めて龍の特異さを感じずにはいられなかった。
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