神官長は勇者に囚われて

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その日、王女リシェルは涙を浮かべて私のもとに現れた。
 「イリアス様……どうか勇者さまを、解き放ってください」

 白いドレスを握りしめる細い指は震えていた。
 彼女は、幼いころからずっと勇者を夢見ていたのだという。
 「この国を救う英雄は、私の伴侶になるはずだったのです。……それが、どうして」

 その言葉に、胸が締めつけられた。
 彼女は罪のない少女だ。ただ、純粋に勇者を愛そうとしただけなのに。

 けれど――。
 「……リシェル」
 背後から低い声が響いた。振り向くと、そこにシンが立っていた。

 「俺の伴侶はイリアスだ。君じゃない」

 冷たい声だった。
 王女の瞳が見開かれ、膝が崩れ落ちる。
 その姿に胸が痛む。だがシンは迷わない。

 「国も、教会も、誰も関係ない。……俺にはイリアスだけが必要だ」

 その宣言は、もはや狂気に近かった。
 けれど群衆の耳には「愛の誓い」として響き、人々は歓声を上げた。

 ――私はもう逃げられない。

 それを痛感した。
 そして同時に、心の奥底に沈めてきた過去を告げるべきだと悟った。
 このまま黙っていれば、シンはますます私を「清らかな神官」として縛りつけてしまう。

 孤児院を守るために、自らを差し出した夜。
 何度も穢され、涙で眠った記憶。
 そのすべてを、私は彼に告白しなければならない。

 「シン……」
 その名を呼んだとき、彼の黒い瞳が私を見つめ返した。
 ――次の瞬間、私はすべてを語る覚悟を決めていた。
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