Say!Yo!カマタケ物語

伊藤龍太郎

文字の大きさ
10 / 11

第10話(最終話)

しおりを挟む
あれから4年の時が経った。「華奈子。卒業と就職先決定おめでとう!」鎌田家では華奈子の卒業と就職先決定を祝してパーティーをしていた。華奈子は無事に大学を卒業した。卒業課題で少しつまずいて卒業できるのか全員不安だったが,なんとか締切日までに仕上げてくれてホッとした。
「まさか,あの華奈子が大学を卒業して
社会人になるとはな~。」と慶太が感慨深そうに話していると珠美と舞斗はそれに同意をするように「ほんと,あんなにわたしの後ろをついて回っていた華奈子がね~。」「母さんも,上の方できっと喜んでいるよ。なんせ、母さん頑張れ1番心配をしてたのは華奈子だもんな。」
と舞斗は亡き母の聖奈を思った。
慶太はグビッとビールを1口飲んでから
「ふぅ~。これでひとまず安心だな。
俺が会社の定年退職が近いからそこからの収入はどうすればいいかわからなかったが,子供3人が就職してくれたからよかったよ。」とホッとしたように言った。「それにしても、華奈子の就職先が
お父さんの会社だとは思ってもなかったわ。だってわたしはものすごく嫌で仕方がなかったんだもん。」と珠美はすごい。と言わんばかりの表情で言った。
「そういえば姉ちゃんはもうアラサーだけどいい人いないの?」と舞斗が興味津々に聞いてきた。「いないね~。わたしの運命の人はまだ現れないのよね。一体どこにいるのかしら?早く現れてほしいわ。もしかして,もう現れているけどわたしが気づいていないだけ?えぇ~もしそうだとしたらもう手遅れかも!どうしよう。わたし結婚できないじゃ~ん。」と珠美は酒が入っているために謎の妄想をしていた。その様子を見て舞斗は「ごめん。聞いた僕がバカだった。」と嘲笑うように謝った。
「そういう舞斗はいないの?」と正気に戻った珠美が聞き返した。「僕はいないね。てゆうか、求めてないからなんだけど。」「どういうこと?」「僕は、今のままで充分なんだ。家に帰ったら父さんがいて姉ちゃんがいて,華奈子がいて,遥子さんがいて,僕はそれだけで充分幸せなんだ。」と感傷に浸るように語る舞斗を見て全員が「こいつは酔ってるのか?」と思った。
「華奈子はどうなんだ?」と慶太が聞いた。「わたしに彼氏がいるわけないじゃん。みんなわかってるでしょ?わたしが恋に対してものすごく不器用だってこと。もちろん欲しいよ。欲しいけどいないんだもん。」と自嘲気味に言った。 
「なんでそんなこと聞くの?お父さん。」と華奈子が聞き返すと慶太が泣きそうになりながら「お前たちが心配なんだよ。このままいい人がいなくて結婚できなかったらって。」とここまで言うとケロッと泣き止んで「あと,これは俺の勝手な願望なんだけど。俺ももう60であと何年生きられるかわからない。だから,孫が見たい。」と続けた。
「わたしも,いい人がいないかなって一生懸命頑張っているけど,いないものはどうしようもないんだよ。」と珠美は嘆いた。それ以来珠美は口を開かずに,そのままパーティーはお開きになった。
翌日,珠美は会社に出社して自席に着いた。仕事を始めようとパソコンの電源を点けて準備をしていた時同期の渡辺俊博
が出社してきた。「鎌田さん。おはよう。」渡辺が挨拶をしたので「おはよう。」と珠美も返した。渡辺が席に着いたことを見た珠美は突然未知の感覚に襲われた。「なんだろう。このドキドキするこの感覚は。もしかして『恋』?仮にそうだとしても一体誰に?」と色々考えを巡らせている時渡辺の顔が思い浮かんだ。珠美は最初「ない。ない。」と否定したが徐々に完全に否定できなくなった。
その日の夜珠美は自室のベットで渡辺のことを無意識のうちに考えてしまっていた。「明日,渡辺を誘ってみよう。」
と決意をして寝た。
翌日珠美は「よし,誘うぞ」と意気込んでいたが本人が姿を現すと急に緊張して
「おはよう」と話しかけられたが「お,おはよう。」とぎこちなくなっていた。
その日の昼「あの,渡辺くん。今日の夜って空いてる?」と聞いた。「今日の夜?大丈夫。空いてる。どうしたの?」
「あの,ほら私たちせっかくの同期だけど一回も飲みに行ったことないでしょ?
だからたまにはどうかなって。あ,もちろん無理だったらいいんだよ。」と珠美は自分でも訳がわからない状態になっていた。「え,別にいいよ。じゃあいろいろ決めようか。まず,どこにする?」と意外にもノリノリだった。
その日の夜,珠美と渡辺は会社の近くの
イタリアン料理店で夕食を食べていた。
昼休みに遥子に「夕食はいらない」と連絡を入れたので心置きなくイタリアンを堪能できた。
その頃,鎌田家では普段夕食をパスしない珠美に何かあったのではないかと4人で考察していた。4人の考察は2つに分かれた。華奈子と遥子は「新入社員の歓迎会をしている。」舞斗と慶太は「いい人が見つかってデートをしている。」と言うことである。珠美はまさか自分が夕食をパスした理由が当てられているとは全く想像もしないまま,いや想像する余裕がないまま渡辺と楽しいひとときを過ごしていた。家に帰ると,舞斗がリビングでテレビを観ていた。珠美が「ただいま」と言うと「いい人が見つかったんだね。」とテレビから目を離さずに言った。図星だった珠美は「いや,見つかってないけど,」と必死に隠そうとしたが
舞斗は慌てふためく珠美の言葉を聞いて確信を持ち、「やっぱり」と呟いた。珠美はもう隠せないと思い,「絶対にこのことは他のみんなには言わないで」と強く頼んだ。「もちろん。言わない。」と約束してくれたが珠美は心配だった。
珠美はあの日を境に渡辺との距離が急速に縮まった。次第にデートの回数も増え,その度に舞斗は珠美のことを言おうか。言わないか。とても迷ったが結局言わなかった。
珠美と渡辺がデートをしている時,渡辺が珠美に「実は,君のことが好きなんだ。」と告白した。珠美は思わず「え,わたしも。」と告白し返した。
2人はお互いの告白に一瞬驚いたが,渡辺が意を決して「鎌田珠美さん。僕と結婚してください。」とプロポーズをした。珠美は数秒前の驚きを超えるほど驚き嬉しかったが,まだ付き合ってないのにいきなり結婚は早すぎる。と思って
「あの,今はまだ早いんじゃないかな?」とうまいこと避けた。
しかし,「まだ早い」という言葉を聞き逃さなかった渡辺は珠美も結婚したいという意思があることを推測したが,今は
頭の中からそのことを追い払い言い直した。「ごめん。そうだよね。じゃあ言い直します。僕とお付き合いしてください。」「はい。お願いします。」と溌剌と珠美は返事をした。
珠美と渡辺は1年付き合い,渡辺は1年前と同じ場所で珠美にプロポーズをして無事に成功した。珠美は「次の日曜日にお父さんに結婚の了承をもらおう」と渡辺に提案し,渡辺は賛成した。
慶太は定年退職して遥子と共に穏やかな老後を過ごしていた。もちろん2人は結婚はしていない。おそらく結婚したら聖奈に怒られてしまうからだろう。
そして迎えた日曜日。珠美は家に渡辺を連れてきた。慶太は渡辺をダイニングに通して席につかせた。そこに遥子がお茶を持ってきた。舞斗と華奈子はその場に立ち会うつもりだったのだが,予定が合わず結局リモート参加になった。渡辺は少し,慶太と軽い世間話をして場の雰囲気が良くなったところで本題に入った。「まずは,この度は
わざわざお時間をとっていただきありがとうございます。単刀直入に申しあげます。珠美さんとの結婚を了承していただけないでしょうか?お願いします。」と深々と頭を下げた。珠美も一緒に頭を下げた。慶太は頭を上げさせてから「珠美をよろしくお願いします。」と今度は慶太が頭を下げた。そのあと「本来,どこの馬の骨かもわからないやつに娘はやらん!って言おうとしたんだけど,なんか
大丈夫な気がしてね。ハハハハ」といつもの慶太に戻っていた。
その後珠美は子供を授かり、無事に出産。慶太は待望の初孫が生まれ,また1人家族が増えて楽しい日々を送っているのである。
      完
               
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...