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Act.14.5 ムコの条件 その2
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朝起きたら、僕はまたネコに戻ってた。
いつもはルーチェの柔らかい場所に抱きしめられてるのに、今日のルーチェは僕に背中を向けて寝てる。
ルーチェはとうとう僕のことを嫌いになっちゃったのかもしれない。
ベッドを抜け出して机に飛び移って、薬を飲んだ。
身支度を済ませてからキッチンに下りて、僕の一日は皆の朝食を作ることから始まる。ふと、リビングのテーブルに飾られた花を見て、母様のことを思い出した。
赤くて可愛い花。お城では、白と黄色もあった。
お城では、母様はいつも泣いてて、「どうしてソクシツにならなくてはいけなかったの」って言ってた。
アリーチェに聞いたら、ソクシツっていうのは幸せにはなれない女の人だって言ってた。嫌いなオトコの嫁にならなくちゃいけないんだって。あと、他のソクシツと戦わなきゃいけないんだって。
母様はいつも戦いに負けてたのかもしれない。だから、泣いてたのかも。
でもね、僕はイチズだからルーチェだけなの。ルーチェは僕のセイシツになるんだよ。
それに、マーレ王国は1人の婿に1人の嫁って決まってるイップイッサイセイっていうやつなんだ。
ルーチェの心配することなんて何もないのに……
ルーチェはやっぱり僕のことが嫌いなのかな。
***
診療所が休みの今日は、ルーチェは部屋で勉強するって言って朝食の後すぐにリビングを出て行っちゃった。
「ジュスト、ごめんね? お姉ちゃん、怒ってるみたい」
お皿を洗ってると、アリーチェが僕の隣に来てしょんぼりした。
「うん。僕、ルーチェに嫌われちゃったのかも」
「違うよ! 私がお姉ちゃんとジュストが仲良くしてるところを邪魔したから……あ、でも、やっぱり赤ちゃんは結婚してからじゃないとダメだと思うよ」
昨日の夜は、どっちかっていうとルーチェと僕は喧嘩してたんだけど……
あ! これが『喧嘩するほど仲が良い』っていうやつか!
そっか。ルーチェは僕のことが嫌いなわけじゃないんだ。喧嘩するんだもん。イジワルと同じだ。
「いいんだよ。それより、アリーチェ。僕とルーチェが仲良くすると、マノンとディオンが来るの?」
「マノン? ディオン?」
アリーチェが首を傾げたから、僕がサラ姉様とユベール兄様の赤ちゃんのことを話すと、マノンとディオンとは違う赤ちゃん――僕とルーチェの赤ちゃん!――が来るって教えてくれた。
「ホント!?」
僕も、赤ちゃん欲しい。サラ姉様はすっごく嬉しそうだったもん。きっとルーチェも喜んでくれる。
僕は急いで洗い終わったお皿を片付けて、ルーチェの部屋に走った。
「ルーチェ! 僕の嫁はルーチェだけなの!」
ドアを勢いよく開けたら、ルーチェはびっくりした顔で僕を見た。
「僕はアイドルだけど、浮気はしないから! だからね、誤解しないで! 僕は、ルーチェのことしか抱きしめないし、キスもルーチェとしたいし、キスマークもルーチェにだけ残したいの。赤ちゃんもルーチェと――痛っ!」
「バカジュスト! 言っている意味わかってないでしょ?」
ルーチェに近づいてギュッてしたら、本の角で叩かれた。
痛い。
「でも、アリーチェが昨日邪魔してごめんねって言ってたんだもん。アリーチェが来なかったら赤ちゃんが来たかもしれないんだって。僕もマノンとディオンみたいな双子の赤ちゃんがいい」
僕とルーチェが仲良くすると、マノンとディオンみたいに赤ちゃんが来るなんて、僕は知らなかったよ。
「それでね、もっとルーチェと仲良くしたら赤ちゃんもすぐに来ると思うんだ。だから、僕はルーチェのことをいっぱい知ろうと思って、ここにまとめてあるからルーチェも読んで!」
デボラ先生に恋人はいっぱい相手のことを知るんだって言われてから、僕はいっぱいルーチェのことを調べたんだ。
ルーチェのことをまとめたノートを渡すと、ルーチェははぁってため息をついてそれを開いた。
「ルーチェ・バラルディ、1月11日生まれ、21歳、女の子。身長160.2センチ、体重51キロ、靴は24センチ、スリーサイズは上から――痛い!」
もう全部覚えてるルーチェのことを読み上げると、今度は僕のノートの角で叩かれた。
もう! ルーチェは乱暴なんだから!
ちなみに、ルーチェの好きなタイプは僕。
「もう! バカなことしてないで、ジュストは婿修行に励みなさいよ。勉強の邪魔しないで!」
ルーチェはプイッとそっぽを向いてしまった。
僕、またルーチェに怒られた。
やっぱりルーチェは僕のこと嫌いになったのかもしれない。
そもそも僕は学歴やお金を持っていない。続きの号には、女の子はホウヨウリョクとかイロケとかいう条件にも弱いんだって書いてあった。大人のオトコがいいんだって。
僕はルーチェより3歳年下だし、「なんで」っていっぱい聞くのは子供だってルーチェに言われたこともある。
ダメだ。
僕は、ルーチェにとってネコなんだ。
ねぇ、母様……
どうしてだろう。今日は、あの花を見たせいか母様のことをよく思い出す。
僕、ルーチェのことが好きなんだ。ルーチェと結婚したいの。
ネコはムコになれないの? どうして僕はネコになっちゃったの?
母様も、父様のソクシツになる前は……好きな人と結婚してたでしょ? どうやったら、好きな人と結婚できたの?
――『真実の愛を見つけてね』
ああ、そういえば、母様は最後に話しかけてくれたときそう言ってたな。
――『キスは、ちゃんと好きじゃないとダメだから!』
ユベール兄様もそんな風に言ってた。
僕はちゃんと好きだよ。ルーチェのこと、本当に好きだよ。でも、いっぱい好きって言っても、ルーチェは僕のこと好きになってくれない。
僕、もうわからないよ。
ルーチェは僕を愛してくれない――…
いつもはルーチェの柔らかい場所に抱きしめられてるのに、今日のルーチェは僕に背中を向けて寝てる。
ルーチェはとうとう僕のことを嫌いになっちゃったのかもしれない。
ベッドを抜け出して机に飛び移って、薬を飲んだ。
身支度を済ませてからキッチンに下りて、僕の一日は皆の朝食を作ることから始まる。ふと、リビングのテーブルに飾られた花を見て、母様のことを思い出した。
赤くて可愛い花。お城では、白と黄色もあった。
お城では、母様はいつも泣いてて、「どうしてソクシツにならなくてはいけなかったの」って言ってた。
アリーチェに聞いたら、ソクシツっていうのは幸せにはなれない女の人だって言ってた。嫌いなオトコの嫁にならなくちゃいけないんだって。あと、他のソクシツと戦わなきゃいけないんだって。
母様はいつも戦いに負けてたのかもしれない。だから、泣いてたのかも。
でもね、僕はイチズだからルーチェだけなの。ルーチェは僕のセイシツになるんだよ。
それに、マーレ王国は1人の婿に1人の嫁って決まってるイップイッサイセイっていうやつなんだ。
ルーチェの心配することなんて何もないのに……
ルーチェはやっぱり僕のことが嫌いなのかな。
***
診療所が休みの今日は、ルーチェは部屋で勉強するって言って朝食の後すぐにリビングを出て行っちゃった。
「ジュスト、ごめんね? お姉ちゃん、怒ってるみたい」
お皿を洗ってると、アリーチェが僕の隣に来てしょんぼりした。
「うん。僕、ルーチェに嫌われちゃったのかも」
「違うよ! 私がお姉ちゃんとジュストが仲良くしてるところを邪魔したから……あ、でも、やっぱり赤ちゃんは結婚してからじゃないとダメだと思うよ」
昨日の夜は、どっちかっていうとルーチェと僕は喧嘩してたんだけど……
あ! これが『喧嘩するほど仲が良い』っていうやつか!
そっか。ルーチェは僕のことが嫌いなわけじゃないんだ。喧嘩するんだもん。イジワルと同じだ。
「いいんだよ。それより、アリーチェ。僕とルーチェが仲良くすると、マノンとディオンが来るの?」
「マノン? ディオン?」
アリーチェが首を傾げたから、僕がサラ姉様とユベール兄様の赤ちゃんのことを話すと、マノンとディオンとは違う赤ちゃん――僕とルーチェの赤ちゃん!――が来るって教えてくれた。
「ホント!?」
僕も、赤ちゃん欲しい。サラ姉様はすっごく嬉しそうだったもん。きっとルーチェも喜んでくれる。
僕は急いで洗い終わったお皿を片付けて、ルーチェの部屋に走った。
「ルーチェ! 僕の嫁はルーチェだけなの!」
ドアを勢いよく開けたら、ルーチェはびっくりした顔で僕を見た。
「僕はアイドルだけど、浮気はしないから! だからね、誤解しないで! 僕は、ルーチェのことしか抱きしめないし、キスもルーチェとしたいし、キスマークもルーチェにだけ残したいの。赤ちゃんもルーチェと――痛っ!」
「バカジュスト! 言っている意味わかってないでしょ?」
ルーチェに近づいてギュッてしたら、本の角で叩かれた。
痛い。
「でも、アリーチェが昨日邪魔してごめんねって言ってたんだもん。アリーチェが来なかったら赤ちゃんが来たかもしれないんだって。僕もマノンとディオンみたいな双子の赤ちゃんがいい」
僕とルーチェが仲良くすると、マノンとディオンみたいに赤ちゃんが来るなんて、僕は知らなかったよ。
「それでね、もっとルーチェと仲良くしたら赤ちゃんもすぐに来ると思うんだ。だから、僕はルーチェのことをいっぱい知ろうと思って、ここにまとめてあるからルーチェも読んで!」
デボラ先生に恋人はいっぱい相手のことを知るんだって言われてから、僕はいっぱいルーチェのことを調べたんだ。
ルーチェのことをまとめたノートを渡すと、ルーチェははぁってため息をついてそれを開いた。
「ルーチェ・バラルディ、1月11日生まれ、21歳、女の子。身長160.2センチ、体重51キロ、靴は24センチ、スリーサイズは上から――痛い!」
もう全部覚えてるルーチェのことを読み上げると、今度は僕のノートの角で叩かれた。
もう! ルーチェは乱暴なんだから!
ちなみに、ルーチェの好きなタイプは僕。
「もう! バカなことしてないで、ジュストは婿修行に励みなさいよ。勉強の邪魔しないで!」
ルーチェはプイッとそっぽを向いてしまった。
僕、またルーチェに怒られた。
やっぱりルーチェは僕のこと嫌いになったのかもしれない。
そもそも僕は学歴やお金を持っていない。続きの号には、女の子はホウヨウリョクとかイロケとかいう条件にも弱いんだって書いてあった。大人のオトコがいいんだって。
僕はルーチェより3歳年下だし、「なんで」っていっぱい聞くのは子供だってルーチェに言われたこともある。
ダメだ。
僕は、ルーチェにとってネコなんだ。
ねぇ、母様……
どうしてだろう。今日は、あの花を見たせいか母様のことをよく思い出す。
僕、ルーチェのことが好きなんだ。ルーチェと結婚したいの。
ネコはムコになれないの? どうして僕はネコになっちゃったの?
母様も、父様のソクシツになる前は……好きな人と結婚してたでしょ? どうやったら、好きな人と結婚できたの?
――『真実の愛を見つけてね』
ああ、そういえば、母様は最後に話しかけてくれたときそう言ってたな。
――『キスは、ちゃんと好きじゃないとダメだから!』
ユベール兄様もそんな風に言ってた。
僕はちゃんと好きだよ。ルーチェのこと、本当に好きだよ。でも、いっぱい好きって言っても、ルーチェは僕のこと好きになってくれない。
僕、もうわからないよ。
ルーチェは僕を愛してくれない――…
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