つっこめ! ルネサンス ~脳筋ばかりの騎士物語! 結婚するまで帰れません!?~

LED

文字の大きさ
13 / 197
第1章 女騎士ブラダマンテと異教の騎士ロジェロ

13 司藤アイ、黒崎の協力を取りつける★

しおりを挟む
 女騎士ブラダマンテ。魂は司藤しどうアイ。演劇部所属の女子高生である。
 異教の騎士ロジェロ。魂は黒崎くろさき八式やしき。アイの幼馴染にして悪友である。

「なんで……アンタがロジェロやってるのよッ!?」
「声が聞こえた時に、もしやと思ったが……司藤かよ……」

 黒崎の顔をしたロジェロは、げんなりした様子で言った。
 アイも混乱していた。そして今まで、ロジェロを憧れの先輩・綺織きおり浩介こうすけだと思い込んでいたが為に紡いだ、数々の恥ずかしい台詞を思い出し……顔を真っ赤にしてしまった。

(ううッ……最悪! この後何をどうするのか分かんないけどッ……
 原典だと、ブラダマンテってロジェロに一目惚れして、この時点で相思相愛なんだっけ?
 綺織きおり先輩とならともかく、なんでよりによって黒崎のアホなんかとッ……!)

 先回りして、アイの狙っていた種類の学食のパンを買い占めたり。
 掃除の時にはしゃいで、注意したところに雑巾を投げつけてきたり。
 遠回しに好きな男のタイプを聞かれて、翌日クラス中に知れ渡っていたり。

 本当に、この男に関してはロクな思い出がない。

「……なんでって言われても。オレだって訳分かんねーよ。
 綺織きおりの家に押しかけてから……記憶が曖昧でさぁ。
 気がついたら、この……ロジェロって名前の騎士になっちまってて」

 どうにも証言があやふやだが、どうやら黒崎も魔本「狂えるオルランド」の中に引きずり込まれたようだ。
 念話で文句を言った下田教授からは「精査する」と言われたきり、未だに返答はない。

 不本意な展開続きではあるが、ひとしきり怒鳴り上げたアイは少しだけ平静になった。
 考えようによっては――この物語の世界に自分と比較的近い価値観を持つ人間がいる事は、大きなアドバンテージに繋がる。
 例えそれが、事ある毎に自分にちょっかいをかけてきた、鼻持ちならない悪友の腐れ縁であったとしても。

 思い直した司藤アイは、大きく深呼吸してから口を開いた。

「わたしも、この本に引きずり込まれたのよ。ブラダマンテ役でね。
 下田っていう頭おかしい教授が言うには、物語を最後まで進めてハッピーエンドを迎えれば、また現実の世界に戻れるんだって」
「……マジかよ。っていうかその話、信用できるのか?」

「できない」
「できないのかよ!?」

「でも、他に考えられる方法もアテもないのよ。
 黒崎。アンタだって、この本の世界から外に出たいでしょ?」
「……お、おう。まあな……」

「だったら協力しなさい。物語をやり遂げなきゃ、いつまで経っても本から出られない。
 最悪の場合、ここで死んだりする、かも――しれない――」

 突如、勝ち気だったアイの言葉が途切れてしまう。
 思い出してしまったのだ。先ほどの戦いの場面を。
 大泥棒ブルネロの右手を誤って斬り落としてしまった事を。そして彼が、谷底へと滑り落ちてしまった時の断末魔を。

「……司藤? 大丈夫か……?」

 アイの表情が青ざめているのに気づいたのか、黒崎は心配そうに声をかけた。

「……大丈夫、やり遂げなきゃ……演技だけど、演技じゃない……
 騎士の物語だもの、殺し合いだって起きる……当たり前、じゃない……
 こんな事で、へこたれてたら……ダメ……」

 目の焦点が合っておらず、彼女の瞳は黒崎を捉えてすらいなかった。
 自分に言い聞かせるかのように、ブツブツと呟く姿は――黒崎から見ても危うさを強く感じた。

「おい、司藤……! いや、ブラダマンテ。しっかりしろッ!」

 黒崎は咄嗟に、女騎士のほうの名前を呼んで、その腕を引いた。
 深い考えがあった訳ではない。ただ、物語の名を呼んだ方が、彼女を勇気づける言葉を言いやすいと思った。

「ここに来るまでに、誰かと殺し合ったのか?」
「……うん……」

「それが、恐ろしかったのか。血を見るのが?」
「ううん。血そのものは、割と平気。わたしだって一応、女の子だもの。
 ただ……わたしが未熟だったせいで、必要以上に相手を傷つけてしまって。
 そのせいで、相手はわたしを殺そうと向かってきて――それが、怖かった」

 アイは意外と素直に、自分の感情を吐露した。
 黒崎も必死で、彼女を安心させようと考えながら話を続けた。

「……この物語が、中世の騎士道を題材にした話で良かったかもしれねえな」
「どうして?」

「騎士って連中は戦いの中にも、大惨事にならないようルールを作る為に生まれたんだ。ただ略奪したり殺戮するんじゃ、蛮族と変わらねえし」
「…………」

「困った人は助ける。貴婦人は大事にする。必要以上の戦いは求めない――
 騎士道のお陰で、凄惨な殺し合いの場面って奴はそんなに多くないんだぜ」
「そう、なんだ――」

 黒崎の言葉は、まるっきり気休めという訳でもなかった。
 騎士道じたい、実際の歴史において成立したのは、14世紀以降――火縄銃や大砲が発明され、職業軍人としての騎士の価値が形骸化していく頃ではあったが。
 「狂えるオルランド」は実際の歴史ではない。生きた騎士道が存在する世界だ。
 だから馬上槍試合で打ち負かした時点で決着がついたり、命の取り合いまで発展せず身代金や代償を支払って解決、というケースも見られるのである。

「オレもこの城に囚われるまで、こっちの騎士と実際に何度かやり合った。
 危ない目にも遭ったさ」
「――怖くなかったの?」

「ンな訳あるかよ。こっちを打ち負かそうと本気で武器を振り回してくる連中と面と向かって、怖くない訳がねえ。
 だから必死だったよ。無我夢中で打ち合って――幸いロジェロって、結構強いんだな。
 オレがへっぴり腰なせいで、泥仕合な時もあったけど……何とかこうして、生き延びてる」

 司藤アイは、不思議な感覚に捉われた。
 目つきの悪い、斜に構えた、憎たらしさしか覚えなかった腐れ縁の顔に……ふと見入ってしまったのだ。
 虚勢ではない。ただ素直に、自分を励まそうとしてくれている――そう、感じたのだ。

「だから――その、あんまり思い詰めんなよ。
 オレだって生きてこの本から脱出したい。だから……協力するよ。
 もしこの先、殺し合いに発展しそうなヤバい場面になったら、オレが何とかしてやるから、よ――」

 言葉の最後はぎこちなく、黒崎は目を背けてしまっていたが。
 それでもアイにとって、彼の協力的な言葉は救いだった。現実世界の自分を知る者は、今までこの異世界に誰一人として、いなかったのだから。

(……何よ、黒崎のくせに。ちょっとは頼もしい事、言えるんじゃない)

 アイは落ち着きを取り戻し――クスクスと笑って言った。

「……なんか、不思議な気分ね」
「え?」

「小学生の頃はさ。アンタが泣いてた事あったじゃない。いじめられっ子でさ。
 わたしが割って入って助けてたの、思い出しちゃった。あの時と逆よね――」
「ぶうッ!? お、お、お前……! そんな大昔の事、まだ覚えてたのかよッ!?
 ふざけんな! 時効だ、時効! オレは忘れた! 記憶にございませんッ!!」

 今度は黒崎が顔を真っ赤にして叫ぶ番だった。

 司藤アイは、気づいていただろうか。
 今この時――異世界に来てから初めて、自分が心の底から笑えていた事に。

━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━

《 登場人物紹介・その8 》

黒崎くろさき八式やしき

 司藤アイの同級生にして悪友。腐れ縁で、アイとは犬猿の仲。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】全60話 完結しました。読者の皆様ありがとうございます! 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

処理中です...