つっこめ! ルネサンス ~脳筋ばかりの騎士物語! 結婚するまで帰れません!?~

LED

文字の大きさ
34 / 197
第3章 最強騎士オルランド

1 善徳の魔女ロジェスティラ★

しおりを挟む
 ブラダマンテら四人の前に現れた、物腰柔らかな初老の女性は名乗った。

「ブラダマンテ。ロジェロ。メリッサ。そしてアンジェリカ、でしたね?
 わらわは……ロジェスティラと申します」

 ロジェスティラ。アルシナの妹にして、善徳を司るとされる魔女の名だ。
 年齢こそ重ねているが、見ている者に安心感を与える穏やかな雰囲気を放ち、皺の刻まれた顔も上品で、アルシナとは正反対の印象を受ける。

「貴女が……ロジェスティラ?」ロジェロは驚いて言った。
「いったい今まで、どこに……!」

「ずっと、皆様の前におりましたわ」
 ロジェスティラは微笑を浮かべ答えた。
わらわはロジェスティラであり、アルシナでもあるのです。
 あなた方が悪徳のアルシナを退けて下さったので、わらわの力が勝り、こうしてお目にかかる事ができました。心より、御礼申し上げます」

 彼女の言い分によれば、善徳と悪徳に境はないのだそうだ。
 愛情も行き過ぎれば独占に繋がるように。
 忍耐も行き過ぎれば心を病んでしまうように。
 徳とは程度の問題であり、均衡を保つ事が肝要……というのがロジェスティラの主張だった。

「アルシナがここまで力を持ってしまったのは……世に悪徳の蔓延っている証。
 ですが悪徳があるからこそ、人々は善徳を意識できるのです。悪徳の誘惑を乗り越えし勇者たちに祝福を!」

 ロジェスティラは度重なる激戦に疲れ切ったブラダマンテ達を、改めて歓待する旨を告げた。
 と同時に、今までアルシナの犠牲となって、木や獣に変えられた騎士たちを元の姿へと戻した。

「はッははァァァ! 皆、よくやってくれた!
 お陰で! ボクは! 元通りの美しい肉体を! 取り戻せたよッ!!」

 ハイテンションで芝居がかったポーズを決めた、美貌の裸体の変態が言った。
 言うまでもなく、銀梅花ミルテに変えられていたイングランド王子アストルフォだ。
 アンジェリカの言葉通り、確かに目の覚めるほどの眉目秀麗。フランク騎士随一という触れ込みは誇張ではなかったが……何ともはや、色々と台無しである。

「おう浮かれんなや露出狂」

 ブラダマンテ、アンジェリカ、メリッサといった女性陣が顔を覆いつつもガン見している中、ロジェロだけが冷静に拳骨を叩き込んだ。

「痛いんですけどォ!?」
「少しは恥ずかしがれよ。素っ裸だぞお前」

「愚問だな! 『恥ずかしい』というのは己に欠点があると自覚している者が抱く感情!
 でもボクは美男子イケメンアストルフォ! 我が肉体の美しさに欠点などない!
 故に恥ずかしがる必要まったくナシ!」
「…………」

 臆面もなく言い放ちポージングを崩さない自称美男子イケメン
 その開き直りっぷりには、呆れを通り越して清々しさすら感じさせる。

「とりあえず……他にもお召し物のない騎士様方がおられますし。
 我が都に向かいましょう。服を着ましょうね? アストルフォ様?」
「……アッハイ」

 魔女ロジェスティラは流石の貫禄を漂わせており、アストルフォの裸体にも全く動じなかった。
 彼女の気品溢れる振る舞いに、さしもの変態も気後れし素直に従うのだった。

 ブラダマンテ達および、魔法が解け自由の身となった騎士たちはロジェスティラに案内され、元アルシナの都へと足を運んだ。
 街はアルシナの時のような、目も眩むような輝きこそ失われていたが……ロジェスティラの魔力により、古代ローマ建築様式の趣あるコンクリート建物群へと変貌していた。
 アストルフォをはじめ、救出された騎士たちは衣服や装備を整え、傷を負った者たちもロジェスティラの手厚い治療を受ける事ができた。

**********

 その日の夕方。
 ロジェロは着飾ったアストルフォから声をかけられた。

「どうだいロジェロ君? これから一緒に行かないか?」
「……唐突に何だよ」

 ロジェロが胡乱げな視線を向けると、アストルフォは笑みを浮かべてチッチッと指を鳴らした。

「気づかないかい? 今、ブラダマンテやアンジェリカの姿が見当たらない事に」
「……ん? そういえば――」

 ロジェスティラの勧めで夕食を摂ってから、女性陣三人を見かけない。
 アストルフォは笑みを大きくして、耳打ちしてきた。

「彼女たちは今、湯浴みの真っ最中なのさ!」
「湯浴みって――風呂か」

「ロジェロ君。見目麗しき女性が三人も、浴場にいるんだよ?
 世の健全たる男子として、やるべき事はひとつだろう!」
「……一応聞いといてやるが、何をする気だ?」

「ンもう! 分かってる癖にぃ。覗きだよ、NO・ZO・KI!
 君だって興味あるだろう? 主にブラダマンテとか」
「…………」

 無邪気に瞳を輝かせる、自称美男子イケメンアストルフォ。
 ロジェロはげんなりした素振りを見せ……実際はブラダマンテの名を出された時にちょっと心を動かされたが……この理性の欠片もないお調子者騎士を、遠回しに思い留まらせようとした。

「古代ローマの公衆浴場みたいな所だっけ? み、水着とか着てるんじゃねえの?
 昔は混浴だったって話聞いた記憶あるし……」
「ふっふっふ、ロジェロ君。きみは実に無知だな!
 確かに初期のローマ公衆浴場は混浴だった! だが売春など風紀が乱れるという理由でハドリアヌス帝の時代、別浴に改められたのだよ。
 建物の建築様式から、明らかに五賢帝時代より後の作りだって分かりそうなものだろう?」

 ロジェロの中の魂たる黒崎くろさき八式やしきは現代の日本人、しかもただの高校生だ。そんなもの分かるはずがない。
 と頭では分かっていても、アストルフォに知識をひけらかされドヤ顔される事態は結構イラッとくるものがあった。

「……で、でもアストルフォ。
 あんた、フランク人騎士随一の美男子なんだろ? わざわざ覗きなんかしなくたって女の裸に困らないと思うんだが……」
「はっはっは! それは勿論さロジェロ君!
 ボクはアストルフォ。かの美しきランゴバルド王と同じ名を持つ美男子イケメン騎士!
 その気になれば、世界中の女性のハートを射止める自信があるよ!」

 臆面もなく何を口走っているんだ、と思われるかもしれないが。
 原典では紛らわしい事に「ランゴバルド王アストルフォ」なる人物の話があり、ナンパ大作戦を実際にやってのけていたりする。
 「狂えるオルランド」における恋愛譚の中でも最低の部類の逸話なので、詳細は割愛させていただく。

「ロクでもねえ自信だな。余計に理由が分からんのだが、アフォ殿?」
「その名前の略し方にとてつもない悪意を感じるが……まあいい!
 麗しい女性が、気恥ずかしくこちらを拒絶する様がいいんじゃないか。
 ボクに声をかけられると、大抵の貴婦人方は二つ返事でオッケーしてしまう!
 それじゃあ、つまらないだろう? 恋愛とは『れ』だよ! ジレ」

 ろくすっぽモテた事のない黒崎からすれば、贅沢に過ぎる言い分である。
 もちろん黒崎とて、全く興味がないと言えば嘘になる。が――

「アストルフォ殿。大変ありがたい申し出なんだが……多分やっぱ無理」
「どうしてだい!?」
「だってホラ――後ろ」

 ロジェロの指摘に伴い、アストルフォが振り返ると……そこにはにこやかに青筋を浮かべて立っている魔女ロジェスティラがいた。

「アストルフォ様。ロジェロ様。お話は全部聞かせていただきました」
「……え、いや、その。これは――」

わらわも一応、善徳を司る魔女でして……そのイメージを保つ事も大切なのです。
 ここでアストルフォ様の出歯亀行為を看過する訳には参りませんわ」
「…………ゴメンナサイ」

 ロジェロは恐怖した。口調は穏やかなのに。表情も柔和な笑顔のままなのに。
 ここまでの迫力と威圧感を醸し出せる人類がこの世に存在するとは。これも善徳の魔女の為せる技なのか。

 先刻まで情熱的に目をギラつかせていたアストルフォは、借りてきた猫のようにシュンと大人しくなって浴場前からつまみ出された。勿論ロジェロも一緒だった。

━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━

《 ファンアート・その3 》

貴様 二太郎サンよりいただきました! ありがとうございます!
キャラ紹介絵より先に全裸絵が来るあたりが残念イケメン(笑)。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】全60話 完結しました。読者の皆様ありがとうございます! 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

処理中です...