つっこめ! ルネサンス ~脳筋ばかりの騎士物語! 結婚するまで帰れません!?~

LED

文字の大きさ
33 / 197
第2章 悪徳の魔女アルシナと海魔オルク

19 ロジェロvsアルシナ・後編

しおりを挟む
 ロジェロは焦っていた。本来なら魔女の首を一刀両断する気でいたのだ。
 十分に近づいた上で剣を振るったつもりだったが、土壇場でアルシナもロジェロの行動に気づき、文字通り首の皮一枚繋がったのだろう。

「ク、フフ……迷わず首を刎ねようとした所を見ると……わらわの再生能力の秘密にも気づいたようねェ?
 大方、首だけにして光の届かない場所にでも追いやろうとしたんでしょう?
 確かにその方法は有効……わらわは頭を核として、光を浴びて再生する力を持つ」

「ならもう一撃加えて、今度こそ首を飛ばしてやるッ!」

 ロジェロはさらに踏み込み、アルシナの千切れかけた首を斬ろうとしたが……
 途端にアルシナの全身が輝き出した!

「うっ…………!?」

 アルシナの放つ強い光を浴び、ロジェロは顔をしかめた。
 そして、今一度振り抜こうとした魔剣ベリサルダの動きが止まる。
 首が背中に逆さ吊りになった魔女に対し……ロジェロは陶然となり、胡乱うろんな視線を向けて硬直していた。

「まさかッ……!」アンジェリカは信じられないといった表情になった。

「そう。ロジェロ殿を……『魅了』させて貰ったわ」

 千切れかけた首をぶら下げたまま、アルシナは勝ち誇った。
 あの不気味な姿でも、魔術の影響にあるロジェロからすれば魅惑的な美女に映るのだろう。握った両刃剣ロングソードを力なく下ろす。

 強大なる悪徳の魔女を、あと一歩という所まで追い詰めたのに。
 このままではロジェロは魅了され、アルシナの手先となってこちらに牙を剥く。そうなればアンジェリカの身も危険だ。

「ああ、もう……しょうがないわねッ!」

 アンジェリカは走り――ロジェロとアルシナの間に割り込んだ。
 上目遣いでロジェロの顔をじっと見つめ、強く自己暗示をかける。「私はこの男が好きだ」と。
 途端に彼女の輝く肢体から、目に見えぬ甘い色香が発せられ、ロジェロの全身を包み込んだ。
 これぞ放浪の美姫アンジェリカの真骨頂。父であるカタイの王・ガラフロン直伝の誘惑の術テンプテーションである。

「ほう……貴女も魅了の魔術の使い手なのねェ?」アルシナが嘲るように言った。

 放浪の美姫vs悪徳の魔女。洋の東西を代表する魅惑の術者の対決。
 アンジェリカの必死の誘惑の甲斐あり、アルシナの術の影響で白目を剥いていたロジェロの瞳に僅かに光が戻った。
 ロジェロは多少、理性を取り戻したようだ。だが未だに身体の動きは鈍く、力は抜けたままだ。

(うううッ……! 悔しいけど、アルシナの魅了を打ち破れても、私の虜にする所まで行かない……!
 アルシナの力も強すぎて、私の誘惑の力と拮抗・中和されてしまう……!)

 アンジェリカは事態の深刻さを憂慮していた。
 誘惑の術テンプテーションを行っている限り、ロジェロは少なくとも敵には回らないが、味方にもならない。
 だがモタモタしていれば魔女は千切れかけた首を再生し、仕留めるチャンスを失ってしまう。それどころか回復したアルシナが魔力を全開にすれば、押し切られアンジェリカ自身も魅了される危険があった。

(……かくなる上は! この手はあんまり、使いたくなかったけれど……)

 躊躇ためらっている時間はない。アンジェリカは覚悟を決めた。

「ロジェロ、目を覚ましなさい!
 今、魔女アルシナを倒さなければ……司藤しどうさんも彼女に殺されてしまう!」

 アンジェリカは必死で懇願した。
 ロジェロは「本の外から来た」人間だ。ブラダマンテもそうなのだろう。
 その証拠に、彼はブラダマンテの事を「司藤しどう」と呼んでいた。
 彼の本来住む世界の人間の名前を出せば……その人間を、彼が大切に想っているなら……この呼びかけは、効果があるはず!

「貴方の大切な人なんでしょう? お願い……司藤しどうさんを助けてッ!」

 祈るように言葉を重ねるアンジェリカ。
 それは魅惑の美姫たる己のプライドを捨て、彼の心の拠り所が別にある事を認める――ある意味屈辱とも呼べる決意であった。

 果たして――アンジェリカの苦渋の選択は、功を奏した。
 力の抜けていたロジェロが不意に剣を握り締め、激しく雄叫びを上げたのだ。

「う……おおおおおおッッ!!」

 惚けていた状態から急速に力を取り戻し、ロジェロはアンジェリカを押しのけ、アルシナに肉薄する!

「なァッ……!?」
 魔女アルシナは、全身全霊をかけた魅了を完全に破られた事が信じられないようだった。悪鬼の如き形相で迫り来るロジェロの剣に、全く反応できない。

 ざんっ、と鋭い音が響き――アルシナの首は地面に転がった。
 今度こそ首と離れた胴体部分が、塵と化し瞬く間に消失する。

「お……おのれええェェええェェッッ!!」
「――往生際が悪いぜ、大年増」

 ロジェロ――黒崎は剣を捨て、なおも再生しようとする悪徳の魔女の首を素早く掴み取った。
 そして腰につけていたズダ袋を広げ、中に放り込む!
 黒崎が看破した通り、アルシナ自身が言った通り――光の届かない袋の中では、アルシナの再生能力は発揮されなかった。

 ズダ袋の中のアルシナの首はしばらくはもがいていたが……その抵抗は先刻と打って変わって、ひどく弱々しい。
 やがて――袋の中で砂が崩れるような音がして、全く動きがなくなった。

「お、終わった――の?」呆けたように問うアンジェリカ。
「ああ……オレたちの、勝ちだ」ロジェロは誇らしげに言った。

 こうしてロジェロとアンジェリカは、悪徳の魔女アルシナに勝利した。
 同時に海原からも、巨大な怪物の絶叫が轟いた。ブラダマンテとメリッサが海魔オルクを撃退したのだ。
 程なくして、四人は無事に合流する事ができた。

「こ、今度はちゃんと本物でしょうね?」
「心配するなよ。メリッサも一緒なんだし」

 いぶかるアンジェリカを、ロジェロは嘆息交じりに一蹴する。
 アルシナの魔力が途絶えた今、彼女の下僕たる妖魔どもは残らず姿を消しており――幻獣ヒポグリフや名馬ラビカンも四人の下へと舞い戻っていた。

**********

「ねえ、機嫌直してよ……メリッサ」
「指輪を使うなら使うと、ちゃんと言って下さい!
 本当に、ビックリしたんですから……死ぬかと思いましたわ!」

 ロジェロとアンジェリカが、ブラダマンテとメリッサに合流した時、もの珍しい光景が繰り広げられていた。
 ブラダマンテに対しベタ惚れだったはずのあのメリッサが、不機嫌そうな顔で頬を膨らませており、それをブラダマンテが必死になだめている。

 海魔オルクを撃退するためとはいえ、一歩間違えればメリッサもろとも海に投げ出されていたかもしれない、危険な賭けだった。普段は温厚な彼女が怒るのも無理はないのかもしれない。

(ああ、でも……ブラダマンテにお姫様抱っこされるというのは……ウフフ、今にして思えば役得でしたわね……!
 真っ裸を晒すっていうのは恥ずかしかったですが、まあ二人っきりであれば問題ありませんし……
 あんまり拗ねて、ブラダマンテを困らせ過ぎても駄目ですわよね……)

 メリッサは怒ったフリをしつつも内心、満更でもないようであった。

「本当にごめんなさい、メリッサ。お詫びに何でもするから――」
「何でもする? ふふ――もういいですわ、ブラダマンテ。
 結果的に海魔オルクを退けられましたし。今はやるべき事をやっておきましょう」

 メリッサは平静を装い、改まって言った。
 皆すっかり忘れていたが、魔女アルシナによってアストルフォ他、多数の騎士が岩や木に姿を変えられたままなのである。
 犠牲者たちを元の姿に戻すべく、四人は泉のある木々の場所へと再び向かった。

「ブラダマンテ。お前よく見たら……体中ボロボロじゃないか!」

 道中、ロジェロは傷だらけのブラダマンテを見て気遣わしげに言った。

「ん、心配しなくても大丈夫。酷い怪我は負ってないから」
「そういう問題じゃねえだろ! ホラその、お前だって……女なんだし。
 泉に着いたら、ちゃんと傷口を洗っとけよ! それから――」

 肌に傷が残る心配をしているのだろう。
 幼馴染の腐れ縁の、不器用な気遣いをアイは微笑ましく思った。

「戦いに身を置く騎士なら、いちいち気にしてられないと思うわ。
 それとも……ロジェロはそういうの嫌? 嫌いになる?」
「……そ、そんな事……別に、言ってねーしっ!」

 バツが悪そうに黒崎はそっぽを向いた。

「でも、ありがとう。気にかけてくれるのは嬉しい」
「!…………」

 わざわざ反対側に回り込んで顔を覗き込み、アイは笑顔で礼を言った。
 黒崎の顔が見る見る真っ赤になる。なかなか新鮮な反応だとアイは思った。

(やっぱりブラダマンテって美人なのね。
 あの黒崎がここまで純真っぽくなるなんて……
 まあ今回は黒崎コイツも頑張ってくれたし。これくらいは、いいよね――)

**********

 銀梅花ミルテの木の他、様々な植物の生えた泉に辿り着くと――泉の前に優雅に佇んでいる緑色のローブを着た女性がいた。
 年はかなり経ているようで、初老と呼んでも差し支えない程であるが……物腰や穏やかな表情は、柔らかく瑞々みずみずしい印象を受けた。

「ブラダマンテ。ロジェロ。メリッサ。そしてアンジェリカ。
 お待ちしておりました。心からお礼を申し上げます。わらわを救っていただいて」

 初老の女性は、微笑みながら優しい声音で口を開いた。
 ブラダマンテ達は彼女の言葉に、多かれ少なかれ面食らった。
 この女性とは初対面のはずだ。にも関わらず、何故自分たちの名を知っているのだろうか?

「あの――失礼ですが、貴女は……?」

 ブラダマンテが尋ねると、彼女は笑みを絶やさずに答えた。

わらわは――ロジェスティラと申します」


(第2章 了)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】全60話 完結しました。読者の皆様ありがとうございます! 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

処理中です...