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第2章 悪徳の魔女アルシナと海魔オルク
18 ロジェロvsアルシナ・前編★
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騎士ロジェロと美姫アンジェリカは、アルシナの凶悪な力に翻弄されていた。
魔女の全身から黄色い霧のようなものが、風に乗って二人に向かってくる。
「アレを吸いこんじゃダメよ、ロジェロ!」
アンジェリカが警告した。すかさず二人は風上に立つべく駆け出す!
アルシナの肉体が脆いと分かった以上、接近して風上を取れば優位に立てる。
だが彼女も己の弱点はよく知っているようで、二人が息を止めて肉薄すると即座に形を崩し、砂の中へと潜っていった。
「ほほほほ……無駄よ、無駄無駄」
アルシナの声だけが響き、どこから襲ってくるか分からない。
「くっそ、チョコマカと……!」ロジェロは歯噛みした。
「気をつけなさい。今ので分かったけど……あのアルシナって魔女。
樹霊ドリュアスの力を取り込んでいるわ」
アンジェリカの口から出た樹霊ドリュアス――またの名をドライアドとも。木の精霊であり、森で道に迷わせたり、美男子を魅了して木に閉じ込める力を持つ。
樹木の力を持つというなら、土気色の肌や魅惑の力、長い年月を生きた不死性にも合点がいく。先ほどの黄色い霧も媚薬効果のある花粉といった所なのだろう。
「相手が木なら、炎の魔術とかで燃やしたりできねえのか?」
「無理ね。水気のない枯れ木なら燃えやすいでしょうけど……
それにあいつが不死身っていうなら、いくら燃やそうが平然としてると思う」
忌々しげに言う美姫だったが、ロジェロは思案していた。
(確かに恐るべき再生能力を持っていたが……本当に不死なのか?
どうもさっきの動きを見ると、附に落ちない点があるんだよなぁ)
第一不死身であるなら、接近を警戒する必要すらないはずだ。剣で斬られようが火で焼かれようが絶対に死なないのなら、構わず近づき花粉をバラ撒けばそれで片がつく筈なのである。
わざわざ二人から身を隠しているのは……彼女にも弱点があるという事に他ならない。
(……しかし……目下の問題は……)
ロジェロの懸念は別のところにあった。
今、背中合わせで共闘しているアンジェリカだ。
ロジェロは今、鎧を着ている。囚われた時に鎖帷子は取り上げられたが、牢番兵に変身したメリッサが着ていたモノを譲り受けたのだ。
もっとも牢番兵の着ていた鎧は通常の鎖帷子より網目を構成する輪が大きかったため、一世代前の環帷子のような頼りない代物であったが。
(そんなのでも気休めにはなる。しかし……)
問題はアンジェリカだった。彼女は長旅でくたびれたボロボロの衣服しか纏っていない。しかも先刻の隠者との戦いでさらに所々が薄汚れ、破れ、あちこち素肌が見えてしまっている。
そう……見えてしまっているのだ。絶世の美姫と謳われる、豊満かつスタイルの良い柔肌が。
(くっそ……書籍で読む分にはただの字だから、見くびってたけど……
こんな目の前であられもない姿を晒されると、めっちゃやりづれえ……!)
これまで遠目であったし、惑わされぬよう意識して目を背けていたのだが。
今は非常に距離が近い。ちょっとでも視線をずらすとアンジェリカの肢体が視界に入ってしまう。ロジェロ――いや黒崎八式とて、アイと同い年の男子高校生だ。多感な時期の少年である。刺激の強い裸体が眼前にあれば、そんな場合ではないと分かっていてもつい、意識してしまう。
「……ちょっとロジェロ。さっきからさぁ。
私の胸と太腿めっちゃ見てるけど大丈夫?」
「えっ」
黒崎自身そんなつもりではなかったが……ついつい無意識に目で追ってしまっていたらしい。世の男性諸氏に共通する悲しい性である。
「見るなとは言わないけど、今は敵に集中してよね」
「ンな事言われてもな……そんなひでえ格好してるお前にも原因あるだろ!」
「好きでこんな格好してる訳じゃないし!」
「だ、だったらせめて……もうちょっと離れてくれ!」
口論した結果、少し離れて戦う事にした二人。ところが……
「……仲が良い事ねェ」
「!?」
ロジェロとアンジェリカが離れた途端、その場所に割り込むように土気色の影が姿を現した。アルシナだ!
「チッ! 油断も隙もねえなッ!」
ロジェロはすかさず魔剣ベリサルダを振るい、アルシナの醜い姿を斬り裂いた。
するとその肉体はたちまち破裂し、凄まじい黄色い霧が発生する!
「ぐッ…………!」
ロジェロは己の迂闊さを呪った。今の影はアルシナの本体ではない。囮だ。
黄色い霧は濃さを増し、アンジェリカの姿を掻き消すほど辺りに充満した。
**********
魔女アルシナのバラ撒いた黄色い霧によって、アンジェリカもまたロジェロの姿を見失った。
凄まじい量が噴出したため、アンジェリカは咄嗟に息を止めて吸い込まないようにするのが精一杯であった。
(……やられた! 最初から霧を使った分断が目的だったのねッ)
アンジェリカは周囲を警戒するが、視界が悪すぎて1ヤード(約90センチ)先も見通せない。
そんな彼女に忍び寄る姿があった。小悪魔めいた女性の上半身に、青銅とロバの脚を持った女怪――エンプーサである。
背後から襲いかかるエンプーサに、アンジェリカは寸前になって気づいた。黄色い霧がなければもっと早くに対応できたろうが、ここまで接近されては素手でやり合うしかない。
「くっ……鬱陶しいッ!」
エンプーサの鉤爪の生えた両腕をどうにか掴んだものの、腕力で劣る上、疲弊しきっているアンジェリカでは非常に分が悪い。
魔術を使うための気力も枯渇しかけている。今の彼女に打開する術(すべ)は無かった。
「ロジェロ! 何やってんの、ここよ! 早く助けなさいよッ!」
アンジェリカが大声で呼ばわると……程なくして救援が駆けつけた。
鋭い両刃剣の一撃が、エンプーサの首を刎ねたのだ。
断末魔を上げる暇もなく、苦悶の表情を浮かべた悪魔の姿は消失した。
「……大丈夫? アンジェリカ」
駆けつけた助っ人は、ロジェロではなく……女騎士ブラダマンテであった。
「ブラダマンテ! あなた……海魔オルクはどうしたの?」
「それなら大丈夫。魔法の楯を使って何とか撃退したわ。
その際メリッサの魔法を解除してしまったから……彼女は今、別の場所で着替えているけど。
それにしても、何なのこの霧……?」
ブラダマンテは周囲に立ち込める濃霧に辟易しながら言った。
「アルシナの奴がバラ撒いたのよ。このせいでロジェロとはぐれたの。
あなたが戻ったのなら心強いわ! ロジェロを探して、合流しましょう!」
アンジェリカはブラダマンテと共に、徐々に薄れつつある黄色い霧の中を進んでいった。
**********
黄色い霧は晴れつつあり、視界も段々と広がっている。陽の光も届き始めた。
ブラダマンテとアンジェリカは、5ヤード(約4.5メートル)先にいるロジェロの姿を見つけた。
「ロジェロの奴、無事だったみたいね――」
アンジェリカは安堵した様子で、ロジェロに駆け寄ろうとし……ブラダマンテに制止された。
「待って、アンジェリカ――迂闊に近づいてはダメ」
「えっ……どういう事?」
「わたしはアルシナの部屋に入った時――彼女がロジェロに変身したのを見たわ」
「なんですって――」
「その時は見破ったけど……あの狡猾な魔女のこと。霧を使って皆を分断した隙に、誰かに変身して油断したところを狙ってくるかもしれない」
ブラダマンテの言い分はもっともだと、アンジェリカは思った。
「仮にあのロジェロがアルシナの変身だとして――どうやって見破るのよ?」
「その辺は抜かりないわ。
アンジェリカ、貴女の所有していた魔法の指輪をわたしは持ってる。
これを使えばすぐに分かる。反応が無ければ本物って事よ」
ブラダマンテは金の指輪を見せて、自信ありげに微笑むと――ロジェロの前に姿を見せた。
「ロジェロ。わたしよ、ブラダマンテよ!……無事で良かったわ」
「ブラダマンテ……」
ロジェロは不思議そうな様子で女騎士を見ていた。
アンジェリカも顔を出す事にし、経緯を説明した。
「霧のせいであなたとはぐれた後……エンプーサに襲われて危なかったところを、ブラダマンテに助けて貰ったのよ」
「そ、そうか……」
ロジェロの様子はどことなく妙だと、アンジェリカは感じた。
こちらの言葉にも曖昧に相槌を打つだけで、どうにも歯切れの悪い反応だ。
「気をつけて、ロジェロ。
魔女アルシナはメリッサと同様、変身の魔術を使ってくるわ。
誰かに化けて不意打ちをしてくるかもしれない」
ブラダマンテは言いつつ、両刃剣を構えて周囲を警戒していた。
そんな彼女に対し、ロジェロはゆっくりと近づき――言った。
「司藤」
「え?」
「――いや、ブラダマンテ」
「どうしたのよ? ロジェ――」
ブラダマンテが言い終わらない内に、ロジェロは一瞬で間近に踏み込み……手にした魔剣ベリサルダを振り抜いた!
ざしゅっ、という鈍い音と同時に、ブラダマンテの首筋が斬り裂かれる!
「なッ…………!?」驚愕するアンジェリカ。
奇妙な事に、首を斬られたブラダマンテの傷口からは一滴たりとも血が噴き出さなかった。
首から下の肉体はあっという間に土気色になり、鎧のように見えた装備は塵となって消え失せる!
残った女騎士の頭部も、瞬く間に皺だらけの醜い老婆の生首へと変わった!
「バ、馬鹿なァ……何故、分かったッ……!?
肉体も、声も、直近の記憶でさえも、寸分違わぬ変身だったハズ……!
アンジェリカでさえ、騙しおおせたのにィ……!?」
「お前の失敗は――『ブラダマンテ』に変身した事さ」ロジェロは平然と言った。
━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━
《 ファンアート・その2 》
悪徳の魔女アルシナ・セクシーポーズ?
貴様 二太郎サンよりいただきました! ありがとうございます!
魔女の全身から黄色い霧のようなものが、風に乗って二人に向かってくる。
「アレを吸いこんじゃダメよ、ロジェロ!」
アンジェリカが警告した。すかさず二人は風上に立つべく駆け出す!
アルシナの肉体が脆いと分かった以上、接近して風上を取れば優位に立てる。
だが彼女も己の弱点はよく知っているようで、二人が息を止めて肉薄すると即座に形を崩し、砂の中へと潜っていった。
「ほほほほ……無駄よ、無駄無駄」
アルシナの声だけが響き、どこから襲ってくるか分からない。
「くっそ、チョコマカと……!」ロジェロは歯噛みした。
「気をつけなさい。今ので分かったけど……あのアルシナって魔女。
樹霊ドリュアスの力を取り込んでいるわ」
アンジェリカの口から出た樹霊ドリュアス――またの名をドライアドとも。木の精霊であり、森で道に迷わせたり、美男子を魅了して木に閉じ込める力を持つ。
樹木の力を持つというなら、土気色の肌や魅惑の力、長い年月を生きた不死性にも合点がいく。先ほどの黄色い霧も媚薬効果のある花粉といった所なのだろう。
「相手が木なら、炎の魔術とかで燃やしたりできねえのか?」
「無理ね。水気のない枯れ木なら燃えやすいでしょうけど……
それにあいつが不死身っていうなら、いくら燃やそうが平然としてると思う」
忌々しげに言う美姫だったが、ロジェロは思案していた。
(確かに恐るべき再生能力を持っていたが……本当に不死なのか?
どうもさっきの動きを見ると、附に落ちない点があるんだよなぁ)
第一不死身であるなら、接近を警戒する必要すらないはずだ。剣で斬られようが火で焼かれようが絶対に死なないのなら、構わず近づき花粉をバラ撒けばそれで片がつく筈なのである。
わざわざ二人から身を隠しているのは……彼女にも弱点があるという事に他ならない。
(……しかし……目下の問題は……)
ロジェロの懸念は別のところにあった。
今、背中合わせで共闘しているアンジェリカだ。
ロジェロは今、鎧を着ている。囚われた時に鎖帷子は取り上げられたが、牢番兵に変身したメリッサが着ていたモノを譲り受けたのだ。
もっとも牢番兵の着ていた鎧は通常の鎖帷子より網目を構成する輪が大きかったため、一世代前の環帷子のような頼りない代物であったが。
(そんなのでも気休めにはなる。しかし……)
問題はアンジェリカだった。彼女は長旅でくたびれたボロボロの衣服しか纏っていない。しかも先刻の隠者との戦いでさらに所々が薄汚れ、破れ、あちこち素肌が見えてしまっている。
そう……見えてしまっているのだ。絶世の美姫と謳われる、豊満かつスタイルの良い柔肌が。
(くっそ……書籍で読む分にはただの字だから、見くびってたけど……
こんな目の前であられもない姿を晒されると、めっちゃやりづれえ……!)
これまで遠目であったし、惑わされぬよう意識して目を背けていたのだが。
今は非常に距離が近い。ちょっとでも視線をずらすとアンジェリカの肢体が視界に入ってしまう。ロジェロ――いや黒崎八式とて、アイと同い年の男子高校生だ。多感な時期の少年である。刺激の強い裸体が眼前にあれば、そんな場合ではないと分かっていてもつい、意識してしまう。
「……ちょっとロジェロ。さっきからさぁ。
私の胸と太腿めっちゃ見てるけど大丈夫?」
「えっ」
黒崎自身そんなつもりではなかったが……ついつい無意識に目で追ってしまっていたらしい。世の男性諸氏に共通する悲しい性である。
「見るなとは言わないけど、今は敵に集中してよね」
「ンな事言われてもな……そんなひでえ格好してるお前にも原因あるだろ!」
「好きでこんな格好してる訳じゃないし!」
「だ、だったらせめて……もうちょっと離れてくれ!」
口論した結果、少し離れて戦う事にした二人。ところが……
「……仲が良い事ねェ」
「!?」
ロジェロとアンジェリカが離れた途端、その場所に割り込むように土気色の影が姿を現した。アルシナだ!
「チッ! 油断も隙もねえなッ!」
ロジェロはすかさず魔剣ベリサルダを振るい、アルシナの醜い姿を斬り裂いた。
するとその肉体はたちまち破裂し、凄まじい黄色い霧が発生する!
「ぐッ…………!」
ロジェロは己の迂闊さを呪った。今の影はアルシナの本体ではない。囮だ。
黄色い霧は濃さを増し、アンジェリカの姿を掻き消すほど辺りに充満した。
**********
魔女アルシナのバラ撒いた黄色い霧によって、アンジェリカもまたロジェロの姿を見失った。
凄まじい量が噴出したため、アンジェリカは咄嗟に息を止めて吸い込まないようにするのが精一杯であった。
(……やられた! 最初から霧を使った分断が目的だったのねッ)
アンジェリカは周囲を警戒するが、視界が悪すぎて1ヤード(約90センチ)先も見通せない。
そんな彼女に忍び寄る姿があった。小悪魔めいた女性の上半身に、青銅とロバの脚を持った女怪――エンプーサである。
背後から襲いかかるエンプーサに、アンジェリカは寸前になって気づいた。黄色い霧がなければもっと早くに対応できたろうが、ここまで接近されては素手でやり合うしかない。
「くっ……鬱陶しいッ!」
エンプーサの鉤爪の生えた両腕をどうにか掴んだものの、腕力で劣る上、疲弊しきっているアンジェリカでは非常に分が悪い。
魔術を使うための気力も枯渇しかけている。今の彼女に打開する術(すべ)は無かった。
「ロジェロ! 何やってんの、ここよ! 早く助けなさいよッ!」
アンジェリカが大声で呼ばわると……程なくして救援が駆けつけた。
鋭い両刃剣の一撃が、エンプーサの首を刎ねたのだ。
断末魔を上げる暇もなく、苦悶の表情を浮かべた悪魔の姿は消失した。
「……大丈夫? アンジェリカ」
駆けつけた助っ人は、ロジェロではなく……女騎士ブラダマンテであった。
「ブラダマンテ! あなた……海魔オルクはどうしたの?」
「それなら大丈夫。魔法の楯を使って何とか撃退したわ。
その際メリッサの魔法を解除してしまったから……彼女は今、別の場所で着替えているけど。
それにしても、何なのこの霧……?」
ブラダマンテは周囲に立ち込める濃霧に辟易しながら言った。
「アルシナの奴がバラ撒いたのよ。このせいでロジェロとはぐれたの。
あなたが戻ったのなら心強いわ! ロジェロを探して、合流しましょう!」
アンジェリカはブラダマンテと共に、徐々に薄れつつある黄色い霧の中を進んでいった。
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黄色い霧は晴れつつあり、視界も段々と広がっている。陽の光も届き始めた。
ブラダマンテとアンジェリカは、5ヤード(約4.5メートル)先にいるロジェロの姿を見つけた。
「ロジェロの奴、無事だったみたいね――」
アンジェリカは安堵した様子で、ロジェロに駆け寄ろうとし……ブラダマンテに制止された。
「待って、アンジェリカ――迂闊に近づいてはダメ」
「えっ……どういう事?」
「わたしはアルシナの部屋に入った時――彼女がロジェロに変身したのを見たわ」
「なんですって――」
「その時は見破ったけど……あの狡猾な魔女のこと。霧を使って皆を分断した隙に、誰かに変身して油断したところを狙ってくるかもしれない」
ブラダマンテの言い分はもっともだと、アンジェリカは思った。
「仮にあのロジェロがアルシナの変身だとして――どうやって見破るのよ?」
「その辺は抜かりないわ。
アンジェリカ、貴女の所有していた魔法の指輪をわたしは持ってる。
これを使えばすぐに分かる。反応が無ければ本物って事よ」
ブラダマンテは金の指輪を見せて、自信ありげに微笑むと――ロジェロの前に姿を見せた。
「ロジェロ。わたしよ、ブラダマンテよ!……無事で良かったわ」
「ブラダマンテ……」
ロジェロは不思議そうな様子で女騎士を見ていた。
アンジェリカも顔を出す事にし、経緯を説明した。
「霧のせいであなたとはぐれた後……エンプーサに襲われて危なかったところを、ブラダマンテに助けて貰ったのよ」
「そ、そうか……」
ロジェロの様子はどことなく妙だと、アンジェリカは感じた。
こちらの言葉にも曖昧に相槌を打つだけで、どうにも歯切れの悪い反応だ。
「気をつけて、ロジェロ。
魔女アルシナはメリッサと同様、変身の魔術を使ってくるわ。
誰かに化けて不意打ちをしてくるかもしれない」
ブラダマンテは言いつつ、両刃剣を構えて周囲を警戒していた。
そんな彼女に対し、ロジェロはゆっくりと近づき――言った。
「司藤」
「え?」
「――いや、ブラダマンテ」
「どうしたのよ? ロジェ――」
ブラダマンテが言い終わらない内に、ロジェロは一瞬で間近に踏み込み……手にした魔剣ベリサルダを振り抜いた!
ざしゅっ、という鈍い音と同時に、ブラダマンテの首筋が斬り裂かれる!
「なッ…………!?」驚愕するアンジェリカ。
奇妙な事に、首を斬られたブラダマンテの傷口からは一滴たりとも血が噴き出さなかった。
首から下の肉体はあっという間に土気色になり、鎧のように見えた装備は塵となって消え失せる!
残った女騎士の頭部も、瞬く間に皺だらけの醜い老婆の生首へと変わった!
「バ、馬鹿なァ……何故、分かったッ……!?
肉体も、声も、直近の記憶でさえも、寸分違わぬ変身だったハズ……!
アンジェリカでさえ、騙しおおせたのにィ……!?」
「お前の失敗は――『ブラダマンテ』に変身した事さ」ロジェロは平然と言った。
━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━
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