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第3章 最強騎士オルランド
7 オルランド、ロジェスティラと問答す
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現実世界。下田三郎は動揺を隠せなかった。
「オルランドが……魔女の島に来ているだとォ!?」
しかも海魔オルクを事もなげに殺してしまっている。原典通りではあるが。
アンジェリカの態度が原典と全く違う。彼女は放浪の旅に倦み、オルランドでもサクリパンでもいい、故郷に帰る供として探し求めてすらいた……筈なのだ。
(アイ君たちの話によれば、アンジェリカもまた本の世界へと飛ばされた犠牲者だという。
オルランドの性格や態度が、物語が繰り返されていく内に全く別物に変貌したというのか……?)
焦燥に駆られ、物語を読み進める下田。
ブラダマンテとロジェロはアンジェリカに指輪を返し、彼女が脱出する時間稼ぎを行うようだ。
急ぎ武装を整え、オルランドの来訪に備えている様子が描かれている。
(馬鹿な……戦うつもりなのか? オルランドと……!
相手はフランク王国最強の騎士だぞ! 早まるな……!)
下田は慌てて、本の中のブラダマンテ――司藤アイに念話を送った。
ииииииииии
『アイ君! アンジェリカに味方するのはいいが……
オルランドといたずらに事を構えるのは得策ではない!』
下田の必死に呼びかけにも、アイの決意は変わらないようだった。
「わたしだって、出来る事ならオルランドとは戦いたくない。
同じフランク王国の騎士で、味方なんだもの。でも……アンジェリカの怯え方は普通じゃなかった。
彼の思い通りに事が運ばなかった時、無警戒でいる訳にはいかないと思う。
黒崎とも話し合って――万が一に備える事にしたのよ」
ブラダマンテとロジェロ。二人で力を合わせ、絶望的と思われた悪徳の魔女アルシナと海魔オルクでさえ撃退した。
今度もひょっとしたら――という期待がない訳ではない。
しかしとてつもなく嫌な予感がする。本の悪魔は下田に何も語りかけて来ない。それが不気味だ。
『――どうしても戦うというなら、ひとつ教えておこう。
オルランドは全身が金剛石のように硬く、刃が皮膚を通らない。
だが足の裏だけは別だ。戦いになった時に狙えるとは思えないが、覚えておいて損はないだろう』
オルランドの弱点を教える事で、不利な展開が発生するだろうか?
一抹の不安を拭えなかったが、それでも教えざるを得なかった。下田の背筋には冷たい悪寒が走りっぱなしなのだ。
「……そっか。ありがとう、下田教授。
心配しなくても、アンジェリカが島を離れるまでの時間稼ぎをするだけだから。
――何とかしてみせるわ」
ииииииииии
元アルシナの都の前では、騎士オルランドと善徳の魔女ロジェスティラが対峙していた。
オルランドは恭しく跪き、淑女への礼節ぶりをアピールする。
「お初にお目にかかる。シャルルマーニュが甥、ブルターニュ辺境伯のオルランドと申します」
「ご丁寧にどうも。妾はロジェスティラ。心より歓迎いたしますわ」
形式的な挨拶を済ませ、オルランドは目をギラつかせて本題に入った。
「俺がここに足を運んだのは他でもない。我が愛しの姫君アンジェリカがこの地を訪れている筈だ。
是非とも彼女にお目通り願いたい。騎士としての忠誠を捧げんが為に」
ロジェスティラは僅かに顔をしかめた。
野性味溢れる容貌でありながら、立ち居振る舞いはゾッとするほどに堂々としており、フランク王国聖堂騎士に相応しい騎士道精神を体現している風に見える。
だがアンジェリカの看破した通り……この男の根底には、騎士道も敬虔な信仰心も存在しないのだ。
だからといって、ロジェスティラは彼の行いを否定する事はできなかった。
何故ならオルランドの持つアンジェリカへの恋心は本物であり、いかなる困難も障害も全て乗り越えようとする気概に満ちていたからである。
「問いましょう、オルランド様。
なにゆえ、それほどまでに契丹の王女アンジェリカを求めるのです?」
「――責務です。お美しい魔女殿」オルランドは淀みなく答えた。
「アンジェリカは東洋一の美女。
いや、世界で一番美しき姫君と呼んでも過言ではない。
彼女の美貌を求め、数多くの騎士や貴族、王たちが挑み、戦い――そして死んでいきました」
最強の騎士の顔は、恍惚とした中に一抹の憂いを帯びた。
オルランド自身、アンジェリカを巡って数多くの騎士と戦い、打ち負かし、時には己の剣を以て死をもたらした。決してその全てが本意だった訳ではない。
「彼女は美しい。その美貌は自身の意思や自由さえも制限するほどの、まさに魔性の輝きだ。
仮にアンジェリカが凡庸な男を好きになり、一緒になったとしましょう。その後に何が待ち受けていると思います?
――悲劇だ。美姫に魅入られた別の男が必ずや、その輝ける宝石を手中にせんと暴虐を振るうでしょう。
一度や二度は打ち勝てるかもしれません。ですがこの世の全ての男が彼に挑んできたとしたら? 彼は果たして――彼女を守り切れるでしょうか?」
オルランドはわざとらしく眉をひそめ、ふるふると首を横に振った。
「凡庸な男はいずれ力尽き、無残な死の運命が二人を残酷に分かつ事でしょう。
アンジェリカはきっと、滂沱の涙を流す。そこまで想われた彼は幸せかもしれません。ですが彼女の方はどうです?
せっかく愛した男と引き裂かれる悲劇! 果たして彼女は耐えられるのか?」
「――貴方なら、その悲劇を覆せるとおっしゃりたいのですか?」
ロジェスティラから自然と口をついて出た問いに、オルランドは我が意を得たとばかりに力強く頷いた。
傲岸でも不遜でもなかった。この男は己の最強を信じている。
アンジェリカの意思や思惑に関わらず、自分以外の人間にアンジェリカの伴侶は務まらないと確信――いや妄信している目だった。
「アンジェリカが幸せになるためには――道は一つしかない。
このフランク王国随一にして最強の騎士、オルランドを愛する事。
それのみッ!!」
悪魔や死神ですら恐怖に怯えて逃げ出さんばかりの笑顔を浮かべ、オルランドはロジェスティラに――放浪の美姫を差し出すよう迫った。
善徳でも悪徳でもない。相手の都合を考えない独善でありながら――オルランドの心は愚直なまでに純粋であった。
さしもの魔女ですら返答に窮しているところに――新たに騎士たちが訪れた。
武装を整えたブラダマンテ、ロジェロ、そしてアストルフォである。
「オルランドが……魔女の島に来ているだとォ!?」
しかも海魔オルクを事もなげに殺してしまっている。原典通りではあるが。
アンジェリカの態度が原典と全く違う。彼女は放浪の旅に倦み、オルランドでもサクリパンでもいい、故郷に帰る供として探し求めてすらいた……筈なのだ。
(アイ君たちの話によれば、アンジェリカもまた本の世界へと飛ばされた犠牲者だという。
オルランドの性格や態度が、物語が繰り返されていく内に全く別物に変貌したというのか……?)
焦燥に駆られ、物語を読み進める下田。
ブラダマンテとロジェロはアンジェリカに指輪を返し、彼女が脱出する時間稼ぎを行うようだ。
急ぎ武装を整え、オルランドの来訪に備えている様子が描かれている。
(馬鹿な……戦うつもりなのか? オルランドと……!
相手はフランク王国最強の騎士だぞ! 早まるな……!)
下田は慌てて、本の中のブラダマンテ――司藤アイに念話を送った。
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『アイ君! アンジェリカに味方するのはいいが……
オルランドといたずらに事を構えるのは得策ではない!』
下田の必死に呼びかけにも、アイの決意は変わらないようだった。
「わたしだって、出来る事ならオルランドとは戦いたくない。
同じフランク王国の騎士で、味方なんだもの。でも……アンジェリカの怯え方は普通じゃなかった。
彼の思い通りに事が運ばなかった時、無警戒でいる訳にはいかないと思う。
黒崎とも話し合って――万が一に備える事にしたのよ」
ブラダマンテとロジェロ。二人で力を合わせ、絶望的と思われた悪徳の魔女アルシナと海魔オルクでさえ撃退した。
今度もひょっとしたら――という期待がない訳ではない。
しかしとてつもなく嫌な予感がする。本の悪魔は下田に何も語りかけて来ない。それが不気味だ。
『――どうしても戦うというなら、ひとつ教えておこう。
オルランドは全身が金剛石のように硬く、刃が皮膚を通らない。
だが足の裏だけは別だ。戦いになった時に狙えるとは思えないが、覚えておいて損はないだろう』
オルランドの弱点を教える事で、不利な展開が発生するだろうか?
一抹の不安を拭えなかったが、それでも教えざるを得なかった。下田の背筋には冷たい悪寒が走りっぱなしなのだ。
「……そっか。ありがとう、下田教授。
心配しなくても、アンジェリカが島を離れるまでの時間稼ぎをするだけだから。
――何とかしてみせるわ」
ииииииииии
元アルシナの都の前では、騎士オルランドと善徳の魔女ロジェスティラが対峙していた。
オルランドは恭しく跪き、淑女への礼節ぶりをアピールする。
「お初にお目にかかる。シャルルマーニュが甥、ブルターニュ辺境伯のオルランドと申します」
「ご丁寧にどうも。妾はロジェスティラ。心より歓迎いたしますわ」
形式的な挨拶を済ませ、オルランドは目をギラつかせて本題に入った。
「俺がここに足を運んだのは他でもない。我が愛しの姫君アンジェリカがこの地を訪れている筈だ。
是非とも彼女にお目通り願いたい。騎士としての忠誠を捧げんが為に」
ロジェスティラは僅かに顔をしかめた。
野性味溢れる容貌でありながら、立ち居振る舞いはゾッとするほどに堂々としており、フランク王国聖堂騎士に相応しい騎士道精神を体現している風に見える。
だがアンジェリカの看破した通り……この男の根底には、騎士道も敬虔な信仰心も存在しないのだ。
だからといって、ロジェスティラは彼の行いを否定する事はできなかった。
何故ならオルランドの持つアンジェリカへの恋心は本物であり、いかなる困難も障害も全て乗り越えようとする気概に満ちていたからである。
「問いましょう、オルランド様。
なにゆえ、それほどまでに契丹の王女アンジェリカを求めるのです?」
「――責務です。お美しい魔女殿」オルランドは淀みなく答えた。
「アンジェリカは東洋一の美女。
いや、世界で一番美しき姫君と呼んでも過言ではない。
彼女の美貌を求め、数多くの騎士や貴族、王たちが挑み、戦い――そして死んでいきました」
最強の騎士の顔は、恍惚とした中に一抹の憂いを帯びた。
オルランド自身、アンジェリカを巡って数多くの騎士と戦い、打ち負かし、時には己の剣を以て死をもたらした。決してその全てが本意だった訳ではない。
「彼女は美しい。その美貌は自身の意思や自由さえも制限するほどの、まさに魔性の輝きだ。
仮にアンジェリカが凡庸な男を好きになり、一緒になったとしましょう。その後に何が待ち受けていると思います?
――悲劇だ。美姫に魅入られた別の男が必ずや、その輝ける宝石を手中にせんと暴虐を振るうでしょう。
一度や二度は打ち勝てるかもしれません。ですがこの世の全ての男が彼に挑んできたとしたら? 彼は果たして――彼女を守り切れるでしょうか?」
オルランドはわざとらしく眉をひそめ、ふるふると首を横に振った。
「凡庸な男はいずれ力尽き、無残な死の運命が二人を残酷に分かつ事でしょう。
アンジェリカはきっと、滂沱の涙を流す。そこまで想われた彼は幸せかもしれません。ですが彼女の方はどうです?
せっかく愛した男と引き裂かれる悲劇! 果たして彼女は耐えられるのか?」
「――貴方なら、その悲劇を覆せるとおっしゃりたいのですか?」
ロジェスティラから自然と口をついて出た問いに、オルランドは我が意を得たとばかりに力強く頷いた。
傲岸でも不遜でもなかった。この男は己の最強を信じている。
アンジェリカの意思や思惑に関わらず、自分以外の人間にアンジェリカの伴侶は務まらないと確信――いや妄信している目だった。
「アンジェリカが幸せになるためには――道は一つしかない。
このフランク王国随一にして最強の騎士、オルランドを愛する事。
それのみッ!!」
悪魔や死神ですら恐怖に怯えて逃げ出さんばかりの笑顔を浮かべ、オルランドはロジェスティラに――放浪の美姫を差し出すよう迫った。
善徳でも悪徳でもない。相手の都合を考えない独善でありながら――オルランドの心は愚直なまでに純粋であった。
さしもの魔女ですら返答に窮しているところに――新たに騎士たちが訪れた。
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