つっこめ! ルネサンス ~脳筋ばかりの騎士物語! 結婚するまで帰れません!?~

LED

文字の大きさ
41 / 197
第3章 最強騎士オルランド

8 オルランド、ロジェロに一騎打ちを申し込む★

しおりを挟む
 新たに現れた三人の騎士は武装を完全に整えていた。
 女騎士ブラダマンテは、白い羽根飾りの兜、白いスカーフ、白い盾を揃え。
 異教の騎士ロジェロは、魔剣ベリサルダを携え、真新しい鎖帷子チェインメイルを身に着け。
 イングランド王子アストルフォは、鮮やかな緑色をした美しいマントを羽織っていた。
 しかし決闘する訳ではないし、親愛の証として三人とも兜は脱いでいる。

「久しぶりだね! オルランド君」
 アストルフォは爽やかな笑顔で一歩進み出て、フランク最強の騎士オルランドを出迎えた。

 対するオルランドは、美貌の王子に対し蔑むような笑みを浮かべた。
「ああ、久しぶりだな。魔女の色香に惑わされて行方知れずになったと聞いたが、元気そうで何よりだよ」

 アストルフォは天然なのかスルーしようと思ったのか、皮肉に対しても「心配させてしまったようだね! すまない我が友よ」と笑顔のまま応じる。オルランドの発するオーラは明らかに好戦的なものだが、冷や汗ひとつかいていない。

(肝が据わってるっつーのか……オルランドがその気なら、首ごともがれちまうぞアストルフォ……!)

 ロジェロ――黒崎くろさき八式やしきは気が気ではなかった。
 剣呑な雰囲気の中、友好的な姿勢を崩さないアストルフォの無神経ぶりは、騎士として見習うべき美徳の域ですらあった。

「アストルフォ。後ろに控えている二人の騎士もだが……随分とご立派なお出迎えだな?
 何だ? 何か恐ろしい敵でも迫ってきているのか?」

 オルランドはおどけたように聞いてみせる。
 すでに分かっているのだろう。ブラダマンテとロジェロ共々……警戒する相手が己自身であるという事を。

「この島にはアンジェリカも来ているんだろう? 幸い島の周辺をうろついていた化け物は俺が退治してやったが。
 他にも敵がいるというなら、俺に任せておけ。我が剣デュランダルの名にかけて瞬殺してやろう」

「……オルランド。アンジェリカに会いに来たのかい?」

 さしものアストルフォの顔からも、笑みが消え――本題に入った。
 オルランドは「決まっているだろう」と言わんばかりに、悠然と頷く。

「ロジェスティラ殿も答えてくれなくてな。少々困っているんだ。
 俺は今一度アンジェリカに会い、恋心を伝え求婚せねばならん。
 騎士として、愛する女性を追い求めるのは当然の権利だからな」

「アンジェリカは――貴方とは会わない」

 たまりかねたのか、ブラダマンテ――司藤しどうアイが口を開いた。
 途端にオルランドの野獣めいた鋭い視線が、彼女の瞳を射抜く。恐るべき威圧感プレッシャーだ。ブラダマンテとして数多の戦場を渡り歩いた経験を思い起こしても、彼以上に凄まじい恐怖を感じる敵は今までいなかった。

(でも――ここで怖気づく訳にはいかない。
 このオルランドという男。目を見れば分かるけど、アンジェリカを求めていてもきっと愛していない)

 彼はアンジェリカを傍に置く事、それだけを目的にしている。アイはそう直感していた。
 アンジェリカの美貌に魅惑されている訳でも、欲情している訳でもない。美姫を勝ち取れたとしても、彼女に甘美な愛を囁く事もなければ、優しく愛でる事もないだろう。
 そんな淡泊な冷たき岩のような心でありながら、執拗に追い求める。そんなものが愛と呼べるのか?
 アイの抱いたオルランドに対する恐怖。それは彼の不可解な愛情に起因するものだった。

「まだそんな我儘を言っているのか、姫は」

 オルランドの言葉は、聞き分けの無い子供に対するような軽薄さを帯びていた。
 まるで最初から、アンジェリカは自分の下へ寄り添う事が決まっている――そう言いたげですらある。

 ふとオルランドはアストルフォの横をすり抜け、ブラダマンテに近づいてきた。
 ブラダマンテは身構えたが……彼は静かに跪き、先刻ロジェスティラにしたように、右手を胸の位置に運び頭を垂れた。
 騎士が日常的に行う淑女への挨拶。何でもない、普段から見慣れている筈のものだが……その滑らかな身のこなしに、ブラダマンテは思わず警戒心が緩んだ。
 気がつけばオルランドは女騎士の手を取り、指先に口づけをしていた。

「なッ…………!」

 アイは不覚にもされるがままだった。警戒していた筈なのに、彼の見惚れるほど騎士らしい振る舞いに緊張が解かれ――自然な流れとして受け入れてしまっていたのだ。

「……なるほど、貴女がブラダマンテか。
 確かにリナルドやリッチャルデットの面影がある。
 こうしてお会いするのは初めてかな? 美しき女騎士ブラダマンテよ。
 我が名はオルランド。シャルルマーニュの甥だ。
 貴女とは親戚同士という事になるか……以後、お見知り置きを」

 オルランドは野性的な風貌ながら、淑女への礼儀作法を完璧に身に着けた騎士の中の騎士であった。
 現代においても凡庸な顔立ちの男が、身だしなみを整え堂々と振る舞う事で女性の心を掴むのに似ているとも言えるだろう。

「アンジェリカが俺に会いたくないというなら仕方ない。
 こちらで勝手に探させて貰おう。それぐらいは構わんだろう?」

 オルランドはそう言って、出迎えた三人の騎士の横を素通りしようとした。
 だが、それに待ったをかけたのはロジェロだった。

「ブラダマンテの言葉を聞いたろう、オルランド殿。
 彼女は旅支度をしている。邪魔をされちゃ困るんだよ」

 だがロジェロの制止の言葉を、オルランドは無視して押し通ろうとする。

「ムーア人の騎士よ。我が恋路を邪魔立てする気か?」
「……ロジェロだ。オレの名はロジェロ。トロイの英雄ヘクトルの子孫だ」

 ロジェロ――黒崎が名乗ると、オルランドは面白そうに目をギラつかせた。

「ほう、貴殿があのロジェロか。噂では今は亡きサラセン帝国軍のガラマント王に『サラセン側に勝利をもたらす騎士』と預言されたそうだな?
 ……つまりここで貴様を殺せば、サラセン軍の士気を大いに挫き、我がフランク王国は大勝利間違いなしという事になる」

 殺意に満ちたフランク最強の騎士は、ロジェロに向かって声高に宣言した。

「ムーア人のロジェロ。このオルランドの一騎打ちの挑戦を受けるか?
 俺が勝てばアンジェリカを好きに探させてもらう。だが貴殿が勝てば、潔く引き下がろうではないか」

「……分かった、オルランド殿。その挑戦、受けて立とう」

 挑戦を受諾するロジェロの言葉を聞き、司藤しどうアイは顔面蒼白になった。

(嘘……なんであっさり一騎打ちを受けちゃうのよ、黒崎のアホ……!
 オルランドの奴、アンジェリカ探しにかこつけてロジェロを抹殺する気満々じゃない……!)

━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━

《 登場人物紹介・その12 》

アストルフォ

 イングランド王子。財力と美貌はフランク騎士随一。だが実力は最弱。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令嬢が攻略対象ではないオレに夢中なのだが?!

naomikoryo
ファンタジー
【★♪★♪★♪★本当に完結!!読んでくれた皆さん、ありがとうございます★♪★♪★♪★】 気づけば異世界、しかも「ただの数学教師」になってもうた――。 大阪生まれ大阪育ち、関西弁まるだしの元高校教師カイは、偶然助けた学園長の口利きで王立魔法学園の臨時教師に。 魔方陣を数式で解きほぐし、強大な魔法を片っ端から「授業」で説明してしまう彼の授業は、生徒たちにとって革命そのものだった。 しかし、なぜか公爵令嬢ルーティアに追いかけ回され、 気づけば「奥様気取り」で世話を焼かれ、学園も学園長も黙認状態。 王子やヒロイン候補も巻き込み、王国全体を揺るがす大事件に次々と遭遇していくカイ。 「ワイはただ、教師やりたいだけやのに!」 異世界で数学教師が無自覚にチートを発揮し、 悪役令嬢と繰り広げる夫婦漫才のような恋模様と、国家規模のトラブルに振り回される物語。 笑いとバトルと甘々が詰まった異世界ラブコメ×ファンタジー!

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主』

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

処理中です...