つっこめ! ルネサンス ~脳筋ばかりの騎士物語! 結婚するまで帰れません!?~

LED

文字の大きさ
44 / 197
第3章 最強騎士オルランド

11 アンジェリカ、逃亡する

しおりを挟む
 いかなるものも断ち切り、鎧兜も意味を為さないとされるデュランダル。
 ロジェロ――黒崎くろさき八式やしきは、昂ぶる己の力に翻弄されながらも、鋭い斬撃を受けてぼんやりと考えていた。

(ああ、畜生。しくじった――
 やっぱりロジェロは、デュランダルとは相性悪いみてェだな……)

 オルランドは勝利を確信し、喜悦の笑みを浮かべた。

「貴殿の奮闘、実に見事なり!
 だが残念だったな、ロジェロ殿。これで……終わりだ!」

 デュランダルは未だ輝きを帯びたままだ。
 黒崎は知る由もなかったが、この呪われし聖剣の力――戦う者双方の潜在能力を引き出す――は消えていない。おびただしく出血した状態でも黒崎の意識は途切れなかった。ロジェロの肉体もまだ動けた。
 左胸を裂かれたが、急所は僅かにずれている。だが猶予はない。
 ここで動かなければ、この捨て身の行動も無駄になる!

「ま……だ終わって……ねえッ!」
「!?」

 ロジェロは激痛を堪え身体に力を込め――刺さったデュランダルを脇で挟むように固定した。
 そして続けざま、オルランドの手の甲に向かって魔剣ベリサルダを振り下ろす!

 鈍い音がした。無論オルランドの腕に傷はつかない。
 だがデュランダルを抱え込まれ、不安定な体勢に捻られたところにベリサルダの一撃を浴びたのだ。
 最強の騎士の持つ聖剣は、彼の手を離れ――乾いた音を立てて地面に転がった。

「――この勝負、引き分けだッ!」絞り出すように叫ぶアストルフォ。

「――ふざけるな!」オルランドは怒りを露にして抗議した。
「俺とこの男! どちらが手酷い傷を負っている!? 俺はまだ戦えるぞッ!」

 オルランドは地面に落としたデュランダルを拾い、血を流しくずおれるロジェロめがけて斬りかかろうとした。
 だがその腕は、はっしと受け止められる。アストルフォが手首を掴んだのだ。

「邪魔をするなアストルフォ! 貴殿も切り刻まれたいのか!?」

「事前に取り決めたルールを忘れたのかい? オルランド君。
 傷を負わせるか、武器を落とすか。その時点で負けが決まる。両者とも敗北条件を満たした以上、引き分けとせざるを得ない!
 それが立会人たるボクの判断だ。一騎打ちは終わりだ。武器を納めたまえ!」

 端正な顔立ちによく響く朗々たる声。アストルフォの裁定は理に適ったもので、その場にいた騎士たちの誰もが納得するほどであったが……

(一見カッコいいけど、めっちゃ足震えてるじゃん! 超ビビってんじゃん!
 黒崎を助けたいのとカッコつけたい一心で、オルランドの前に立ってキメたのはいいけど、内心スゴイ後悔してるって顔になってるし!?)

 アストルフォの堂々たる振る舞いの裏を、ブラダマンテ――司藤しどうアイはしっかり見抜いていた。
 しかし彼はその細腕の割に意外な力を持っている。筋骨隆々なオルランドの腕を掴んだまま離さない。

(ッ……! 今まで見くびっていたがアストルフォの奴――秘めた力はなかなかのものだな。
 フロリマールといい、一見頼りなさそうでもシャルルマーニュ十二勇士の一人に選ばれるだけの事はある)

 オルランドは苦々しく思った。アストルフォの腕を振りほどけないのにも理由がある。
 デュランダルの呪いだ。この美貌はあれど最弱の騎士と揶揄されしイングランド王子。本人すら気づいていない潜在能力を備えており、聖剣の呪いにより一時的に引き出されているのである。
 本気を出したアストルフォとの一騎打ちも、いい勝負ができるかもしれない。
 だが当の本人にその自覚はなく腰が引けている。握った腕からも震えているのが伝わってくる。

「アストルフォ、無理をするな。恐ろしいんだろう?
 俺が本気を出せば、貴殿の頭など果実のごとく叩き割れるのだぞ?」

 オルランドは不本意ながらも脅しをかけてみた。
 実際言う通りにもできるが、実行するのは最後の手段だ。

「そ、そそそそうかもしれないね! でもねオルランド君。
 き、きき騎士たるもの、例え勝ち目がないと分かっていても、命を張らねばならない時があるのだよ!
 我が友が命の危機に瀕している時。そして友の命が失われたら、涙を流す貴婦人がいる時だ」

 目いっぱい怯えつつも、アストルフォは一歩も引かない姿勢を示した。
 彼の言葉を聞きオルランドは舌打ちすると――倒れたロジェロに寄り添っている女騎士ブラダマンテを見やった。片時も自分から目を逸らさず、その双眸に憎悪の炎を燃やしている。

「ロジェロ殿にとっての『涙を流す貴婦人』とは、貴女の事か? ブラダマンテ」

 オルランドの問いかけは、アイの今考えている事とはいささか異なる意図によるものかもしれない。
 アイは思った。黒崎は断じて恋人ではない。時に憎たらしくも思う、鼻持ちならない毒舌使いの悪友。綺織きおり先輩のような溢れ出る善人オーラとは無縁の存在。
 それでも――こんな所で死なせたくはない。助けられるのなら助けたい。一緒にこの世界を脱出すると誓ったのだから。

「――その通りよ、オルランド。
 もし貴方がこれ以上、ロジェロを傷つけようというなら。
 このブラダマンテが代わりに相手になりましょう。
 たとえ女といえど遠慮は無用。侮らないでいただきたい!」

 ブラダマンテ――司藤しどうアイは本気だった。
 その視線だけでオルランドの心臓を刺し貫く事も叶いそうな、鋭い殺気を放っていた。

「――口惜しいが。事ここに至っては、俺の負けのようだ。
 俺に女を斬る趣味はない。それを悲しむ男がいるとなれば、尚更の事――」

 オルランドはかぶりを振って、剣を納めかけた。その時だった。

「おーいッ! そこのストーカー騎士! 私の声が聞こえるー!?」

 海岸線から聞き覚えのある、能天気な女性の叫びが聞こえてきた。
 艀舟はしけぶねが浮かんでいる。乗組員は二人。一人は美しい金髪をたなびかせた、絶世の美姫アンジェリカ。その右の中指には黄金の指輪が燦然と輝いている。もう一人は髭面の巨人の従者モルガンテ。嬉しそうな顔をしてオールを漕いでいた。

「アンジェリカ……! まさか、俺の従者モルガンテを魅了したのか……!?」

「オルランド、よく聞きなさい! あなたの従者と舟、そして諸々の装備や物資はこのカタイの王女アンジェリカが頂いたわッ!
 返して欲しければ追ってくる事ね! さあ捕まえてごらんなさーい!
 あっはっはっはっはァ!!」

 悪の女幹部よろしく、わざとらしい高笑いを上げて挑発するアンジェリカ。
 本当に逃げるつもりなら、こんなパフォーマンスをしてオルランドに気づかせる必要はない。島の様子を見ていたのだろう。そしてロジェロ達の危機を知って――オルランドを遠ざけようと精一杯の演技をしているのだろう。

(……アストルフォといい、アンジェリカといい。
 どいつもこいつも、俺を心の底から恐れているクセに、屈しようともせず逆らい続けるとは……!)

 オルランドははらわたが煮えくり返る思いだったが、すぐに気持ちを切り替えたようだった。

「アンジェリカが島を離れているなら、ここにもう用はない。
 ロジェスティラ殿。舟を一隻お借りしたい。我が愛を捧ぐべき姫君を追い続けるために!」

 善徳の魔女ロジェスティラにとっても、オルランドの提案は文字通り渡りに船。彼女は二つ返事で艀舟はしけぶねを貸与した。
 フランク王国最強の騎士は借り受けたはしけに独り乗り込み、放浪の美姫を追うべく猛スピードで海の彼方へと消えていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】全60話 完結しました。読者の皆様ありがとうございます! 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

処理中です...