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第3章 最強騎士オルランド
12 ブラダマンテ、新たな旅立ち
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魔女の島から美姫アンジェリカが逃亡し、最強騎士オルランドがそれを追いかけ去って後。
瀕死の重傷を負ったロジェロはすぐさま、魔女ロジェスティラの都の治療室へと運び込まれた。
一時は生命も危ぶまれたが、魔女の召使いたちの献身的な手当の甲斐もあり――四日後の夕刻には彼は失った意識を取り戻したのだった。
「……黒崎! 持ち直したのね!」
ロジェロ――黒崎がうっすらと目を開けると――パッと顔を輝かせて自分を覗き込む司藤アイの顔が映った。
先刻まで泣き腫らしていたのだろうか、彼女の目は微かに赤い。
「――司藤、いやブラダマンテ……」
「周りに他に人はいないわ。司藤でいいわよ、黒崎」
どうせ自分の顔は、美貌の女騎士ブラダマンテではなく、現実世界の平凡な女子高生の顔に見えているんでしょう、と付け加えた。
ホッとして緊張の糸が緩んだのか――アイは黒崎の冷たい手を握り締めた。
「もう、無茶な事をして。死んだらどーするのよ!」
「――オレ、考えが甘かったみたいだわ。
さすがにこの物語の最強騎士っつーだけの事はあるな、あのオルランドって奴。
そーいや、一騎打ちはどうなったんだ?」
司藤アイは、黒崎がデュランダルを叩き落とした事で一騎打ちの結果が引き分けに終わった事。アストルフォがオルランドを止めた事。アンジェリカが舟を使って逃亡し、オルランドは彼女を追っていった事などを話した。
「そうか……何とか、追っ払えたみたいだな……
アンジェリカには悪い事をしちまったかなぁ。結果的に助けられちまった」
「そうね。彼女も心配だけれど――今は怪我を治す事を考えてよ、黒崎。
一命は取り留めたみたいだけど、ロジェスティラさんやメリッサの話では、当分の間は絶対安静だって言ってたわ」
ふと気恥ずかしくなって、アイは咳払いしながら言った。「万一黒崎が死んだらバッドエンドで物語終了なんだから」と。
それを聞き、黒崎は改めて神妙な面持ちになり――ただ一言「悪かった」と謝罪した。
二人の会話にしばしの間、沈黙が訪れた。
(……うー、何よ。妙にしおらしくなっちゃって。
そう素直に謝られたら、これ以上喋れないじゃない!
どうしよ、何か気まずくなってきたわね。えーと、話題話題――)
(……やっべ、謝り方を間違ったか……?
ここで何も言ってこないって事は、怒っちまったのかな?
どうしよう、取り繕おうにも言葉が浮かんでこねえ――)
アイと黒崎ともども停滞する空気を打破しようと、躊躇いがちに口を開きかけたその時――突如扉が開け放たれた。
イングランド王子アストルフォと、尼僧メリッサが入ってきたのだ。
「意識が戻ったというのは本当かい、我が友ロジェロよ!
心配したぞ! あの深い傷を負いながら、わずか数日で目覚めるとは! 大したものだ!」
大袈裟に二人の間に割り込み、嬉しそうにロジェロの手を取る美貌の騎士。
黒崎としては気恥ずかしく、鬱陶しくもあったが……アイがこっそり「アストルフォが止めに入ってなかったら、あんたきっとトドメを刺されてたわよ」と耳打ちすると、さすがに態度を改めた。
「そうか……アストルフォ。あんた意外と勇気があるんだな。見直したよ。
危ない所を助けてくれて、ありがとうよ」
「我が友の危機だ! 助けに入るのは当然の事、お礼など結構さ。
傷が癒えたら、また一緒に美女の浴場を覗きに行こう、我が友ロジェロ!」
油断していたところに誤解を招く爆弾発言。黒崎は「一瞬でも友情を信じたオレの感動を返せッ!?」と大声で罵った。
ブラダマンテとメリッサの表情が消え、二人に蔑んだ視線が向けられたのは言うまでもない。ちなみにアストルフォは何故か喜んでいた。
「あ――そうだ、アストルフォさん」
ブラダマンテ――アイは、ふと謝罪すべき事があったのを思い出した。
「貴方の持っていた黄金の槍、海魔オルクとの戦いで落としてしまったわ。
とても扱いやすくて、素敵な業物だったのに――本当にごめんなさい」
「はっはっは! 気にする事はないよブラダマンテ!
元々あの槍は拾い物だったし、馬上試合用の槍なんて、突撃して折れてナンボの消耗品だからね!
怪物を撃退するのに役立ったのなら、きっとあの槍も本望だろうさ!」
対するアストルフォは笑顔で親指を立て、水に流してくれた。実際彼の言う通りであり、武器の強度が進歩した後の時代になっても、わざと折れやすいように加工して使っていたのだ。派手に折れた方が試合が盛り上がるという話であるが、下手に折れずに突き刺さると命に関わるという、切実な理由も関係している。
しかし黒崎だけは知っている。あの黄金の槍のチート性能を。勿体ない事をした訳だが、気づかずに有耶無耶にするのが得策だろうと思い、黙っていた。
「とにかく、ロジェロ――いえ、黒崎」
アストルフォとメリッサが二人に気を利かせて退出してから――ブラダマンテは改めて口を開いた。
「島を出た後、礼拝堂に行く予定だったけど――それどころじゃなくなっちゃったわね。
幸いこの島ならロジェスティラさんの治療を受けられるし。あんたの傷が完全に癒えるまで、わたしここで看病するわ」
だが彼女の提案に、ベッドに横たわる黒崎は首を振った。
「駄目だ。そんな事をしたら、せっかく手に入れた時間を無駄にしちまう。
本当はオレも一緒に行きたかったが、こうなったら仕方がない。司藤、お前だけでもパリに向かってくれ」
パリ。フランク王国の要であり、現代でもフランスの首都として有名な都市だ。
黒崎の言葉に、アイは不思議そうに首を傾げた。
「どうして? パリで何が起こるの?」
「オレの予想が正しければ――もうすぐパリはサラセン帝国軍の猛攻に晒される。
そうなったら、敵味方両方に凄まじい死者が出るんだ。それを防いで欲しい」
黒崎の知る「狂えるオルランド」の展開通りに話が進むとは限らないが――彼の言い分によればサラセン帝国軍はすでに、トゥールやポワティエといったフランク王国の主要都市を陥落させ、パリ間近に迫っているのだという。
本来ならばブラダマンテもロジェロも、パリ攻防戦に関わる事はない。だが介入しない場合、助けられるかもしれない人命が数多く失われるだろう。
「それは――由々しき事態ね。分かった、すぐにでも行くわ。
メリッサに天馬に変身して貰えば、一日あればパリに着くだろうし」
「すまねえ。お前だけにキツイ役目を押し付けちまって……」
沈痛な表情の黒崎に対し、アイは笑って答えた。
「何言ってるのよ。あのオルランド相手に一騎打ちを挑んだんだから。むしろ命があっただけめっけもんでしょ。
もちろん無茶はしないで欲しいけど――ちょっとは、かっこよかったし」
思わず口にした言葉に、黒崎の顔が真っ赤になる。アイもそれを見て、ようやく自分の発言の意味に気づいた。
わたわたとうろたえ、「えと、うん、ブラダマンテとしてロジェロを見た場合の感想だから!」と微妙に体裁の整っていない言い訳をするのだった。
**********
魔女の島から解放された騎士たちは、それぞれの陣営の帰路に着くため思い思いに去っていった。
ロジェロの今後の看病は、ロジェスティラとアストルフォに任せる事にした。
「任せておきたまえブラダマンテ。
ロジェロ君が全快したら、空飛ぶ幻獣に乗ってすぐにでも報せに行くよ!」
とはアストルフォの言。後にロジェスティラから「貴方の場合そのまま送り出すと不安なので……」と、ヒポグリフを上手に乗りこなすための鞍、あらゆる呪文を解除する呪文書、聞く者に恐怖心を植え付け逃亡させる角笛など――数々のチートアイテムが彼に対し贈られた。
過保護なまでの至れり尽くせりで、その様子を見たロジェロが「オカンかっ!」とツッコまずにはいられなかったのはまた、別の話。
その日の夜、ブラダマンテはメリッサの変身したペガサスに乗って、魔女の島を飛び立った。
進路は北北西。目指すは――パリ。
凄惨なる戦争にて散る悲劇を、少しでも食い止めるために。
(第3章 了)
瀕死の重傷を負ったロジェロはすぐさま、魔女ロジェスティラの都の治療室へと運び込まれた。
一時は生命も危ぶまれたが、魔女の召使いたちの献身的な手当の甲斐もあり――四日後の夕刻には彼は失った意識を取り戻したのだった。
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先刻まで泣き腫らしていたのだろうか、彼女の目は微かに赤い。
「――司藤、いやブラダマンテ……」
「周りに他に人はいないわ。司藤でいいわよ、黒崎」
どうせ自分の顔は、美貌の女騎士ブラダマンテではなく、現実世界の平凡な女子高生の顔に見えているんでしょう、と付け加えた。
ホッとして緊張の糸が緩んだのか――アイは黒崎の冷たい手を握り締めた。
「もう、無茶な事をして。死んだらどーするのよ!」
「――オレ、考えが甘かったみたいだわ。
さすがにこの物語の最強騎士っつーだけの事はあるな、あのオルランドって奴。
そーいや、一騎打ちはどうなったんだ?」
司藤アイは、黒崎がデュランダルを叩き落とした事で一騎打ちの結果が引き分けに終わった事。アストルフォがオルランドを止めた事。アンジェリカが舟を使って逃亡し、オルランドは彼女を追っていった事などを話した。
「そうか……何とか、追っ払えたみたいだな……
アンジェリカには悪い事をしちまったかなぁ。結果的に助けられちまった」
「そうね。彼女も心配だけれど――今は怪我を治す事を考えてよ、黒崎。
一命は取り留めたみたいだけど、ロジェスティラさんやメリッサの話では、当分の間は絶対安静だって言ってたわ」
ふと気恥ずかしくなって、アイは咳払いしながら言った。「万一黒崎が死んだらバッドエンドで物語終了なんだから」と。
それを聞き、黒崎は改めて神妙な面持ちになり――ただ一言「悪かった」と謝罪した。
二人の会話にしばしの間、沈黙が訪れた。
(……うー、何よ。妙にしおらしくなっちゃって。
そう素直に謝られたら、これ以上喋れないじゃない!
どうしよ、何か気まずくなってきたわね。えーと、話題話題――)
(……やっべ、謝り方を間違ったか……?
ここで何も言ってこないって事は、怒っちまったのかな?
どうしよう、取り繕おうにも言葉が浮かんでこねえ――)
アイと黒崎ともども停滞する空気を打破しようと、躊躇いがちに口を開きかけたその時――突如扉が開け放たれた。
イングランド王子アストルフォと、尼僧メリッサが入ってきたのだ。
「意識が戻ったというのは本当かい、我が友ロジェロよ!
心配したぞ! あの深い傷を負いながら、わずか数日で目覚めるとは! 大したものだ!」
大袈裟に二人の間に割り込み、嬉しそうにロジェロの手を取る美貌の騎士。
黒崎としては気恥ずかしく、鬱陶しくもあったが……アイがこっそり「アストルフォが止めに入ってなかったら、あんたきっとトドメを刺されてたわよ」と耳打ちすると、さすがに態度を改めた。
「そうか……アストルフォ。あんた意外と勇気があるんだな。見直したよ。
危ない所を助けてくれて、ありがとうよ」
「我が友の危機だ! 助けに入るのは当然の事、お礼など結構さ。
傷が癒えたら、また一緒に美女の浴場を覗きに行こう、我が友ロジェロ!」
油断していたところに誤解を招く爆弾発言。黒崎は「一瞬でも友情を信じたオレの感動を返せッ!?」と大声で罵った。
ブラダマンテとメリッサの表情が消え、二人に蔑んだ視線が向けられたのは言うまでもない。ちなみにアストルフォは何故か喜んでいた。
「あ――そうだ、アストルフォさん」
ブラダマンテ――アイは、ふと謝罪すべき事があったのを思い出した。
「貴方の持っていた黄金の槍、海魔オルクとの戦いで落としてしまったわ。
とても扱いやすくて、素敵な業物だったのに――本当にごめんなさい」
「はっはっは! 気にする事はないよブラダマンテ!
元々あの槍は拾い物だったし、馬上試合用の槍なんて、突撃して折れてナンボの消耗品だからね!
怪物を撃退するのに役立ったのなら、きっとあの槍も本望だろうさ!」
対するアストルフォは笑顔で親指を立て、水に流してくれた。実際彼の言う通りであり、武器の強度が進歩した後の時代になっても、わざと折れやすいように加工して使っていたのだ。派手に折れた方が試合が盛り上がるという話であるが、下手に折れずに突き刺さると命に関わるという、切実な理由も関係している。
しかし黒崎だけは知っている。あの黄金の槍のチート性能を。勿体ない事をした訳だが、気づかずに有耶無耶にするのが得策だろうと思い、黙っていた。
「とにかく、ロジェロ――いえ、黒崎」
アストルフォとメリッサが二人に気を利かせて退出してから――ブラダマンテは改めて口を開いた。
「島を出た後、礼拝堂に行く予定だったけど――それどころじゃなくなっちゃったわね。
幸いこの島ならロジェスティラさんの治療を受けられるし。あんたの傷が完全に癒えるまで、わたしここで看病するわ」
だが彼女の提案に、ベッドに横たわる黒崎は首を振った。
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黒崎の言葉に、アイは不思議そうに首を傾げた。
「どうして? パリで何が起こるの?」
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そうなったら、敵味方両方に凄まじい死者が出るんだ。それを防いで欲しい」
黒崎の知る「狂えるオルランド」の展開通りに話が進むとは限らないが――彼の言い分によればサラセン帝国軍はすでに、トゥールやポワティエといったフランク王国の主要都市を陥落させ、パリ間近に迫っているのだという。
本来ならばブラダマンテもロジェロも、パリ攻防戦に関わる事はない。だが介入しない場合、助けられるかもしれない人命が数多く失われるだろう。
「それは――由々しき事態ね。分かった、すぐにでも行くわ。
メリッサに天馬に変身して貰えば、一日あればパリに着くだろうし」
「すまねえ。お前だけにキツイ役目を押し付けちまって……」
沈痛な表情の黒崎に対し、アイは笑って答えた。
「何言ってるのよ。あのオルランド相手に一騎打ちを挑んだんだから。むしろ命があっただけめっけもんでしょ。
もちろん無茶はしないで欲しいけど――ちょっとは、かっこよかったし」
思わず口にした言葉に、黒崎の顔が真っ赤になる。アイもそれを見て、ようやく自分の発言の意味に気づいた。
わたわたとうろたえ、「えと、うん、ブラダマンテとしてロジェロを見た場合の感想だから!」と微妙に体裁の整っていない言い訳をするのだった。
**********
魔女の島から解放された騎士たちは、それぞれの陣営の帰路に着くため思い思いに去っていった。
ロジェロの今後の看病は、ロジェスティラとアストルフォに任せる事にした。
「任せておきたまえブラダマンテ。
ロジェロ君が全快したら、空飛ぶ幻獣に乗ってすぐにでも報せに行くよ!」
とはアストルフォの言。後にロジェスティラから「貴方の場合そのまま送り出すと不安なので……」と、ヒポグリフを上手に乗りこなすための鞍、あらゆる呪文を解除する呪文書、聞く者に恐怖心を植え付け逃亡させる角笛など――数々のチートアイテムが彼に対し贈られた。
過保護なまでの至れり尽くせりで、その様子を見たロジェロが「オカンかっ!」とツッコまずにはいられなかったのはまた、別の話。
その日の夜、ブラダマンテはメリッサの変身したペガサスに乗って、魔女の島を飛び立った。
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